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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(ゼンキチ接触編)10

 状況はほぼ前回と同じだった。

『魔弾』の加減を身につけるいいチャンスかと思いきや、先客がいることが分かった。

 橋の上に敵が残っていることを考えると隠密系のスキル持ちだと容易に想像できた。

「邪魔じゃな」

 アイシャさんは露骨に嫌な顔をした。

 仕方がないのでここで昼にして、様子を見ることにした。

 今日のランチはサンドイッチだ。卵にポテトサラダに、肉だ。それにオクタヴィア用に焼き魚だ。

「ご主人、開けて」

 オクタヴィア専用の小さなお魚の形をした水筒だ。きのうの豪遊の戦利品らしい。コルク栓は肉球では開けづらいので他人に開けて貰わないといけない。コルク栓と本体を繋ぐ鎖に輪っかを付けてやれば自力で開けられそうだが。栓をするのはやはり難儀しそうだ。と思いきや、二本の尻尾と前足で、もとい、本人の申請により以後「手」と称するを器用に使ってポンポンと栓を戻した。

 でもすぐ飲みたくなって、ご主人にお願いすると、小突かれる。

「まだ飲むなら、なんで栓をする!」

 それはあんたらが悪い。

 魚の水筒は形状からして、不安定で腰が据わっていないのだ。つまり飲み口を上にして置いておけないのである。だからその都度栓をしなければならないのだ。つまりそういう水筒をかわいいというだけの理由で選んだあんたらが悪いのだ。

 僕は近くの石を拾ってきて水筒を立て掛けて置けるように台を作った。

 やはり早々に輪っかを付けてあげよう。

「動かんの……」

 反応は関所の門を入ってすぐのところから一切移動していなかった。

 一体どういうつもりだ?

「怪我をしてるとか?」

「脱出用の結晶ぐらい持っておるだろ」

「後続を近づけないために見張ってるとか?」

「宝箱はまだ先じゃろ?」

 見渡した限り、関をあと二つは越えないといけない。

「あそこにいる理由がない」

 荷物をまとめると僕たちは活動を再開する。

「弱めに頼む」

 と言われたので『魔弾』の大きさを小さくして発砲する。

 橋の中央に着弾し、前回同様、橋の上を掃討することができた。ただ、城壁に結界の反応があった。

「対魔結界……」

 面倒なことだ。冗談抜きで攻城戦をやる羽目になるのか?

 全力で行けば破壊できそうだが、結果が想像できない。

 増援が橋を渡り始める。

「警告じゃ、城壁を破壊しろ!」

「大丈夫なのか?」

「それはお前の腕次第じゃ。関所近辺だけ残せばいい」

「破壊できるのか?」

「結界は実際のものとは違う! パーティー仕様の弱体化したものじゃ」

 僕は関所の門から離れた右手奥、石積みの城壁の足元を狙った。

 ギンッ! 鈍い金属音がして結界を貫通した。

 アイシャさんの言う通りだった。

 爆煙が上がると同時に城壁に亀裂が入り、着弾地点に引っ張られるように横滑りをしてそのまま奈落に落ちていった。

 左側も同様に破壊する。

 既に対魔結界は消失している。

「残党を殲滅しながら前進する」

「まだいるのです!」

 人の反応がまるで動いていないのである。

「どういうこと? 警告だって分からないの?」

 正面から迫る食人鬼を全員で仕留める。

 吊り橋が関所まで一直線に伸びている。空から岩が降ってきて手前に落ちる。

 必死だな。食人鬼が城壁の上から、岩を投擲してくる。

 でもやり返すには遠すぎる。

 敵が胸壁に隠れていなければ、リオナならやれそうだが、無駄弾を撃つ必要はない。

『魔弾』で一帯を破壊する。

「よし!」

 以前の加減に修正できた。

 そのまま掃討して城壁に陣取っている敵は粗方片付けた。

「入場じゃ。あの馬鹿懲らしめてくれる!」

 アイシャさんやる気である。

 それにしても、隠れている奴、なぜ動かないんだ。

「死にかけて動けないんじゃないのか?」

「呼吸は安定しているのです」

「ほんとに人なんだろうな…… 魔物がフリしてるとかじゃないだろうな……」

 食人鬼は出会い頭的に散発的に襲ってくるが、それでは魔法の直撃を受けて消え去るのみである。リオナには懐まで入られて切り刻まれている。

 目的の人物が隠れている広場に辿り着いた。

 アイシャさんが風を巻き上げた。

 周囲の瓦礫が突風で舞い上がる。

 次の瞬間、何かが結界に引っかかった!

 僕が剣を抜くよりも早く、リオナがアイシャさんの前に飛び出す。

 火花が散った。

 鋭い剣先をリオナが弾き返して、さらに切り返した。

 結界を強化して、敵の反撃に備える。

 アイシャさんが突然剣を振ると、また火花が。

 得体の知れない者を吹き飛ばした。

 ようやく正体が見えた。

 ボロボロの雑巾みたいな服を着た痩せこけたアンデットだった。

「なっ、なんでアンデットがこんなところにいるんだ! 巡回モンスターか? 『闇の信徒』か!」

「誰が、アンデットじゃ!」

「アンデットがしゃべった!」

 全員が口を揃えた。

 ロメオ君と僕は燃やす用意をした。

「近づいたら燃やす!」

 竜巻(トルネード)に炎を宿して火災旋風だ。

 ロザリアが光の魔法を展開した。

「アンデットには浄化の光よ!」

「この糞ガキ共が!」

「黙れ、アンデット! さっさと成仏して墓に返れ!」

「わしはサルヴァトーリ・ゼンキチじゃぁあ!」

 電光石火の勢いで、僕たちの前線に立っているリオナに襲いかかる。

 が、僕の結界が遠ざける。

「な、なんじゃ!」

 リオナの剣がきらめいた。

 アンデットの持つ剣が折られた!

 そこへアイシャさんのさらなる一撃が!

 生ゴミが吹き飛んだ。

「参った! 降参じゃ、降参致す!」

 地面にひれ伏してアンデットは土下座した。

「骨じゃないのか?」

「ほんとに魔物じゃないんでしょうね?」

「汚すぎるのです! 浄化が必要です!」

「肉も皮もあるわい。浄化も毎日しとる。ちゃんと生きとるわい!」

 痩せこけたゼンキチなる人物は兎に角みすぼらしい格好をしていた。リオナに折られた剣もさびが酷かった。よく鞘から抜けたというぐらい惨憺たる代物だった。

「こんなところで何をしている? 一体何物じゃ?」

「修行じゃ。わしはずっとここで精神を研ぎ澄ます修行をしておった。剣聖になるべく研鑽を積んでおったのじゃ。今では魔物ですら、わしを襲ってはこん」

 みすぼらしくて、仲間だと思ったんだろうよ。それこそみすぼらしいスケルトン先生にでも見えたんじゃないのか? どっから見ても人には見えんぞ。

「剣聖ってあの剣聖?」

 どの剣聖か分からないが、ロザリアは首を捻った。

「聖エントリオ騎士団の剣聖とか言わないでしょうね?」

「それじゃ、聖騎士団の剣聖じゃ、こう見えて以前は剣豪として名を馳せておった。第五十五回武闘大会では準決勝までいったのじゃぞ」

「剣聖の制度は、三十年前に廃止になっていますよ。ミスリル装備の充実と、周辺諸国との戦争終結による予算縮小の影響で……」

「なんじゃと!」

 白髪と白髭を地面に付きそうなほど伸ばした痩せぎすな男、おかしな名前のサルヴァトーリ・ゼンキチという老人の夢は今儚く潰えた。


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