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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(髭づら決闘編)4

「こいつらだ! こいつらが仲間をやりやがったんだ」

 ゲート広場に出るといきなりボロボロの格好をした冒険者たちに吊し上げられた。

 冒険者ギルドの職員たちは僕たちの顔を見て驚いている。

 これから午後の迷宮に潜ろうという冒険者たちが騒ぎを聞きつけて、ゲート広場に集まりだした。

「仲間と狩りをしていたら、こいつらがいきなり襲いかかってきたんだ。俺たちは逃げられたが、仲間は魔物に食われちまった」

 髭づらの汚い男が哀れを誘わんとばかりに演説をぶった。

 こいつら、逃げ出した連中か?

「君たちが彼らの仲間を襲ったと言っているんだが、本当かね?」

「仲間を置いて逃げ出した臆病者なら知ってますが」

 なるほどと職員が頷いた。

「なぜ逮捕しない! 俺たちが嘘を付いているというのか? 嘘だと思うなら調べてこいよ! 地下十二階だ。こいつらのせいで、俺の仲間が食われたんだ。今ならまだ死体が転がってる!」

「誰が仲間だって? 糞野郎」

 ゲートから僕たちが助けた連中が現れた。

「なっ?」

 髭づらは幽霊でも見ているかのように目を見開き、後ずさった。

「そいつの言ってることは真っ赤な嘘だ。小僧共は俺たちを助けてくれたんだ。そこの髭づら共が戦闘の最中に俺たちを置いて逃げやがった代わりにな!」

「黙れ! てめーがエルフの尻を追っかけたせいでこうなったんじゃねーか!」

「だからって殺される謂われはねえ!」

 もっとやれー。

「ガキ相手に狩りの邪魔なんかしやがってよ。大人げねーんだよ、てめーはよ!」

「俺は見守ってただけだ! こすっからい真似しやがったのはてめーの部下だろうが!」

「リーダー!」

「リーダーッ!」

 部下が仲裁に入るが時既に遅しである。

「んだよ、こらァ、邪魔すんな! こちとら大事な――」

 ようやく状況が飲み込めたようだ。

 ギルド職員が周りを取り囲んで、用件が済むのを腕組みをしてじっと待っていた。遠巻きに見ている冒険者の視線も冷たい。

「仲間を置いて逃げたのかよ」

「挙げ句にそれを子供のせいにするって、どういう了見だ?」

「冒険者の風上にも置けねぇ野郎だ」

「にしてもあのエルフいい尻してるぜ。奴らの気持ちも分からんでもないな」

「あの胸もたまらねえな。むしゃぶりつきたくなるぜ」

「この変態親父共。女と見りゃ、見境なく盛りやがって!」

 いつぞやのヒドラのときの姉さんたちだ。僕たちに手を振っている。

「もう気が済んだか? 全員事務所で話を聞こうか?」

 職員が場を収めようとしたとき、僕に向かって手袋が投げられた。

「いてっ」

 僕の頭の上に落ちた。

「え?」

「うそでしょ?」

 ロメオ君とロザリアが呆れた。

 リオナとオクタヴィアが落ちた手袋をじっと見下ろしている。

 ゲート広場がシーンとなった。

「おい! 貴様! 何してる!」

 職員が髭づらに詰め寄る。

 真っ赤に煮立った髭づらの投げた手袋は言い合いをしていた元仲間の男に当たるはずだった。だが、手元が狂ったのか、お姉さんたちに手を振っていた僕に当たったのだ。

「け、決闘だッ!」

 なんでこの期に及んで? 

 引っ込みが付かなくなったのか、相手を間違えたという気はないようだ。

「あの…… 物騒なことはまずいんですよね。いろいろと」

「うるせえ、てめえみたいなガキがエルフなんかといちゃつくからこうなったんじゃねーか」

「うわっ、凄い責任転嫁だ」

「間違いで済ますなら今のうちですよ」

 ロザリアは親切で言ったのだが、却って火を付けてしまった。

「黙れッ! ここはままごと会場じゃねぇってんだよ。このガキが!」

 あ、怒らせた……

「分かりました。では正式な決闘として認めます」

 げっ、承認するなよ!

 決闘は貴族ふたり以上の立ち会いのもと正式なものとして受理される。もうひとりは僕になるのだろうか?

「どう考えてもあのおっさん、僕らより金持ってなさそうだけど。どう考えてもメリットないよ」

「金の問題じゃありませんわ。名誉の問題です!」

「何を言ってるんだ、君たちは! 止めたまえ!」

 職員は止めるが、周りははやし立てた。

「その勝負のった!」

 叫んだのはアイシャさんだった。

「こちらが負けたら、こちらが被った被害を忘れてやろう。訴えもしないで置いてやる。だが、もし勝ったら、あいつらと我々に金貨百枚の賠償を要求する。払えなきゃ牢屋行きだ」

「ならば、賭だ。賭をしよう。胴元はギルドが請け負おう!」

 そう叫んだのはリカルドさんだった。

 いつも留守のくせに、なんでこんなときに限っているんだよ、あの人は?

「一口、金貨一枚だ!」

 あっという間に賭博場になってしまった。

「マリアさん、これでいいの?」

 マリアさんは嬉しそうに振り返った。

「勝ったら、約束破ったこと、忘れてあげる」

 くッ、やっぱり忘れてなかったのか……

「大変なことになっちゃったね?」

 ロメオ君は楽しそうだった。

「もちろんエルネストさんに賭けたから。百口ほど」

 生まれて始めて小切手を切ったらしい。

「もっとお金持ってくればよかったわ」

 ロザリアは宝石を換金して金貨三百枚を捻出した。大金は家に置いてあるらしい。

 リオナも小切手を切った。僕の小切手を…… 限度額の金貨三百枚だ。

 アイシャさんも、賭けたらしいが、胴元から上限ひとり千口の宣言がなされて、唇を噛んだ。

「いくら賭けてんですか!」

「こんなに確かな勝負は一生に一度あるかないかだ。張らんでどうする!」

 髭づらは呆然としていた。

 ことの重大さにようやく気付いたようだ。

 大量の金が胴元に集まっていく。

 そして、発表されたオッズを聞いて、髭づらはさらに動揺する。

「バルトロッツィ・ユカンポス、五倍。エルネスト・ヴィオネッティー、一・二五倍」

 最終オッズが発表された。

「ちッ、賭にならんか」

 アイシャさんは舌打ちをした。

 僕はすっかり正体がばれていることにこのとき始めて気付いた。冒険者たちの情報網をどうやら侮っていたらしい。それと同時に、今まで普通に扱ってくれていたことに心から感謝した。

 一方、青ざめたのは髭づらである。地元の人間ではないらしく、ヴィオネッティーが単に貴族だという認識でしかなかったようだが、貴族に喧嘩を売ったということは理解したようだった。自分の倍率が五倍付いたことにも少なからず得体の知れない何かを感じとっているようだった。

 ヴィオネッティーがどれだけ破天荒な一族か知っていたら、もう少し別の反応が見れただろうか?

 見届け人役を買って出たリカルドが双方に刃引きした武器を選ぶよう催促した。

 僕はいつも通り剣を、髭づらは鈍器だが棘のある狼牙棒を選んだ。「子供相手に狼牙棒かよ、棍棒にしとけよ」という無責任な声もあったが、僕もリカルドさんも気にしなかった。

 なんでこんなことになったのやら?

 恐らく髭づらも同じことを考えているだろう。同情する気は更々ないけどね。

 大人しくエルフの尻を眺めるだけにしとけば、幸せだったろうに。全くいい迷惑だ。

 僕たちはゲート広場にできた臨時の闘技場に入場した。芝生があるので転んでも痛くないだろう。石も丁寧に避けてくれたようだ。

 周囲は既にぐるりと観覧者に埋め尽くされていた。

 リオナたちも最前列に陣取っている。

 開始線で合図を待った。

 リカルドが決闘のルール説明をし終ると、ようやく位置に付いた。

「コインが地面に落ちたら開始だ。フライングは厳罰対象だから気を付けるように!」

 そう言うとコインは高々と投げ上げられた。


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