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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(フェンリル編)2

遅くなりました。

 二匹目を見つけた。正確には五匹目まで見つけた。

 四匹が傾斜地で草を食んでいた。

 一匹に仕掛ければ残りに気付かれる位置取りだ。逃走するか、集団で襲ってくるかは分からないが。

「僕がやるよ」

 自己申告でロメオ君が立候補する。

「討ち漏らしたら、頼んだよ」

 僕たちは銃を構えた。

 後ろで大きな音がした。

 羊たちが驚いて一斉に散り散りになっていく。外野が円盾を谷の岩場に落としたのだ。

「大丈夫!」

 水平に稲妻が走った。

 姉さんがリッチを追い払ったときに使った魔法だ。いつの間に。

 稲光が蛇のように地を這いながら眠り羊を順番に貫いていく。

「ごめん、一匹逃がした!」

 最後の一匹がかろうじて電撃から逃げおおせた。

 だが次の瞬間、足下を打ち抜かれ坂を転がり落ちて行った。

 リオナである。

 あっという間に五匹狩ってしまったな。

 全員で手分けして処理して、解体屋に送った。


 次のフロアーのフェンリルは基本スルーする方向なので、ここで少し稼いでおく予定だった。

 外野がいなければのんびりできたのだが。この状況では何が起きるか分からない。

 僕たちは足早に峠を越えて、更にその先を目指した。

 金魚の糞はまだ追いかけて来る。一体どういうつもりなのか?

 オクタヴィアが突然走り出して、谷底目掛けてダイブした。

「ちょ!」

 全員が下を覗き込んだ。

 オクタヴィアは着地と同時に何かに猫キックをかましていた。

 足下には直撃を受けた小動物が伸びていた。

「穴兎なのです。リオナが行ってくるです」

 リオナが入り組んだ坂を器用に降りて行く。

 僕たちは尾根を進んで合流できる場所を探した。

 やがてふたりが兎を手にぶら下げて戻ってきた。

「次の階で使うんだって」

 食べるんじゃないのか? 

 心臓は分けたようだが、転送しないなら血抜きしないと。

「血抜きしなくていいのか?」

「これ作戦。食べたら駄目」

 アイシャさんを見ると苦笑いしていた。


 行き止まりに目標の洞窟があった。僕たちは階段を降りると下のフロアーに辿り着いた。予定では羊狩りで半日潰すつもりだったが、大分早い到着になった。

 全員、権利を得るために脱出ゲートを一往復した。

「妾は昔二十階ぐらいまで潜っておるから大丈夫じゃ」

 既に権利を持っていたらしい。

「だったら、二十階まで順番に運んでよ」と言ったら、「ずるはいかん」と一蹴された。

 Dがどうたら言うくせに、変なところで律儀である。


 地下十二階はスタンダードな石煉瓦造りになっていた。いつぞやの広いエリアと違って、対フェンリル戦を考えるとかなり窮屈である。

 どう考えても対峙したら最後、ガチンコになりそうな通路の広さだった。裏に回り込まれる心配はないが、戦うとなるとこちらも中央突破以外なくなる。

 やはり近づかれる前にけりを付けたくなるが、地図を見る限り、出会い頭を楽しんでくれと言わんばかりに、通路の直線距離は短くできている。

「これ使う」

 オクタヴィアが袋から出した穴兎の亡骸を今になって血抜きすると言う。

 僕たちは血を滴らせたそれを脱出部屋を出た先に投げ捨てると突き当たりの手前の角を曲がった。

「なんでこんなことを?」

 僕が尋ねるとアイシャさんが素っ気なく答える。

「すぐ分かる」

 血の臭いに誘われてフェンリルたちが動き始めた。

 僕たちは消音と消臭を駆使し、更に魔除けまで施して、接近するフェンリルたちをやり過ごした。

 リオナの索敵能力もあって、僕たちは易々と後方に回り込むことに成功する。


 一方、こちらがゲート部屋を出たことを確認してから降りてきた追っかけ連中は面食らった。

 目の前にフェンリルの集団がいて、道を塞いでいたからである。

 用が済んだフェンリルは自分のテリトリーに戻りたい。でも用の済んでないフェンリルが次々押し寄せてくる。狭い通路で団子状態だ。

 やがて別の臭いに気が付く。なかを覗き込んでいたゲート部屋の面々である。

 フェンリル単騎なら討伐できる連中も、これほど多くのフェンリルを相手にする実力はなかった。

 一度獲物を定めたらしつこいのが獣の習性。もはや追っかけは尾行を諦めるしかなくなった。


 僕たちはいつもの落ち着きをようやく取り戻した。

 それにしても…… 

「ああいう手を使って男を巻いてたんですね?」

「連れがいるときはの。ひとりのときはさっさと消えるに限る」

「オクタヴィアにも困ったものね」

 警戒するリオナの後ろで欠伸している。

「それよりフェンリルとはやらんでいいのか?」

「地下一階にもいるからね。魔石以外落とさないし、無理に狩らなくてもいいんだ」

 僕たちは周囲を警戒しながら通路を進んだ。

 作戦とやらは成功して、追っかけは完全に足止めされている。

「罠見つけた」

 オクタヴィアが罠の前で跳ねて知らせる。

 罠は『増援』。

 複数のフェンリルを呼ばれれば大抵のパーティーは只では済まない。

「飛び跳ねて罠踏むなよ」

「そんなへましない」

 尻尾当たってないか?

「おかしい。フェンリルがいない……」

 ロメオ君が異常に気付いた。

「まさか、この辺りのフェンリルまで作戦に引っかかったんじゃ?」

 既に道半ばである。

「いや、前方じゃ。前方で何かしておる」

 アイシャさんの声を聞いて僕は探知スキルのレンジを広げた。

「あっ!」

「理解に苦しむ連中じゃな」

 僕たちが進む先に追っかけストーカーたちが先回りしていたのだった。しかも、誰かが罠にはまったようで、複数のフェンリルと立ち回りを繰り広げていたのである。

 フェンリルたちの増援はまだ増えそうである。

 追っかけも二パーティー分はいるようだが、少々心許ない。

「助ける?」

 リオナが難しい質問をした。全員が首を振った。

「では、しばらく静観ということで。死人が出そうなら考えよう」

「あ!」

 オクタヴィアが声を上げた。

「踏んじゃった」

 罠を踏んだ。


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