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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲(眠り羊編)1

新章開始です。

 土前月十三日、エルーダ迷宮地下十一階の眠り羊を狩りに、僕たちはいつものように振り子列車に揺られていた。


『依頼レベル、C。依頼品、眠り羊。数、一以上。土前月末日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨三枚から、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 依頼は数日前、受けたままになっている。

 アイシャさんの一連の事件のせいで、「キャラバンが来るから二匹ぐらいほしいわね」というマリアさんからの要請をすっかり失念していたことを思い出して、僕は青ざめていた。

 振り子列車に興奮しているアイシャさんとオクタヴィアの横で僕は大きな溜め息を付いた。

 会いづらいな…… 口約束だからこそ大事な約束だったのに……

 僕がソファーに沈み込んでいるのを見て、ロザリアが言った。

「多分大丈夫ですよ。あのフロアー、巨大な『闇の信徒』が出たじゃないですか。助けた冒険者たちが大騒ぎしてくれてますよ。狩りにならなかったと言えば許して貰えますよ」

 実際、狩りにならなかったのだが……

「それって…… もしかして地下十一階が封鎖されてる可能性があるんじゃ?」

「今日狩りできないです?」

 ロメオ君と、リオナがロザリアの意見に別の問題を提起した。

 まさか、封鎖なんてことになったら、数日間足止めになってしまう。

「ご主人、お菓子おいしい」

 オクタヴィアが缶に入れてストックしてあるクッキーを目ざとく見つけて食べていた。

「まさか、移動しながらこんなに優雅にお茶を楽しめるとは思わなんだぞ」

 なんで人ごとなんだ、この人は。誰のせいでこうな討論してると思ってる!

「取りあえず状況を見てから考えましょう。取り越し苦労かも知れませんし。ここで悩んでも仕方ありません」

 その通りなので、考えることを止めて、僕たちもお茶にすることにした。

 缶のなかのクッキーが半分もなくなっていた。

「こらーっ、オクタヴィア!」

 逃げ場がないのですぐ捕まった。

 オクタヴィアは膨れた腹を上に転がされ、リオナとロザリアにくすぐりの刑を受ける羽目になった。

 ロメオ君はひとり黙々と本日のマップ情報と『魔獣図鑑』を確認している。十一階は既に確認済みだから、たぶん十二階を調べているのだろう。

 十二階の敵はフェンリルである。レベルが若干上がっているだけで、既知の敵なので差し当たり問題はない。罠や地理的な問題だけ気を付ければいいだろう。


 ロメオ君主導のもと、いつも通りの作戦会議と、装備チェックを行なった。いつもとの違いは僕が万能薬の原液を持ち合わせていないことだった。アイシャさんの分も含めて全員から小瓶に少しずつ分けて貰った。

 準備がすべて終わると、いいタイミングでエルーダ駅のホームに到着する。

 地上に出た僕たちは早速、耳での諜報を行なった。

「封鎖は昨日のうちに解除されたみたいなのです。冒険者が話してるです」

 取りあえず安堵した。

「リオナはほんとに耳がいいの」

 アイシャさんが感心する。

 同様に耳鼻がいいはずのオクタヴィアは道端に咲く野生の花の匂いを嗅いでくしゃみしている。


 裏山の森を抜け、ギルドの前までやって来た。緊張の一瞬だ。

 マリアさんにどう切り出したものか。

 深呼吸しようとしたら、アイシャさんが間髪入れずに扉を開けて入って行った。

 うわっ、ちょっと!

 エルフの姿はやはり珍しいようで、あっという間に周囲の視線を集めた。当然ハイエルフだと気付く者はいないが、容姿の美しさにほだされる奴はいる。

 ギルドの登録証は既にロメオ君に頼んでアイシャ・ボラン名義で作ってある。

 これからやるのはパーティー登録だ。パーティーの代表者は僕なので僕のギルド証を提示することになる。

 マリアさんがすました顔で対応する。

「エルネスト君」

「はい?」

「あなたたちが地下十一階でイレギュラーの『闇の信徒』に襲われたという報告が三日前にありました。修道院にそれらしき亡骸を持ち込んだことも確認しています。あなたたちが倒したと判断してもいいのかしら?」

「ええ、まあ。そうですね……」

「倒したなら倒したと報告をして貰わないと困ります。『闇の信徒』の危険性は以前話したはずでしょ? 姿が見えないから心配してたんですよ」

「すいません。以後気を付けます」

 ほんとに申し訳ありませんでした。

「婿殿、こちらは? 随分親しいようじゃが」

 人が頭を下げてる横で何を暢気なことを……

「婿殿」という言葉に後ろの方でざわめきが起こった。

「姉さんの友達で、マリアさん。『銀花の紋章団』の先輩で、僕が冒険者になったときからお世話になってる人なんだ」

「なるほど、あの女の友人なら手練れでもおかしくないの。何かあったときには頼りにさせて貰おう」

 どうやらマリアさんの技量を即座に見抜いたようだ。

 ギルドのなかの雰囲気が段々怪しくなってきていた。

 オクタヴィアが女性冒険者たちにちやほやされ、黄色い声を集める一方、男たちの猛烈な嫉妬の視線が僕に向けられた。

 いくらアイシャさんの男除けのためとはいえ、これは結構辛い事態である。まさか金で買ったとか思われてないだろうな?

「はい、登録終わりました」

 口約束を反故にしたことへの追求はなかった。



 かくして僕たちは大パノラマの景色が広がる地下十一階にやって来た。

「三つのパーティーがいるのです」

 リオナが順に地図を指していった。

「出口方面にはいないようだな。朝の常連と言ったところだろ?」

「じゃ、行きましょうか……」

 ロザリアがなるべく後ろを振り返らないようにして言った。

 どういうわけか僕たちの後ろに人だかりができていく。マリアさんとのやりとりで僕たちの目的フロアーを推測したようだ。

「追っかけか? 結構人気者じゃのう」

「アイシャさんのせいでしょ? 笑いごとじゃないですよ」

「早く、ここを離れましょう」

「婿殿、どうやらもっとイチャイチャしないと駄目なようじゃぞ」

「逆効果ですから!」

「見つけたです!」

 リオナが眠り羊を見つけたようだ。オクタヴィアと一緒に先陣を切って歩いて行った。

「いざとなったら、魔物ごと吹き飛ばしてやるから安心せい」

 アイシャさんが耳元でささやく。

「一応ギルドの看板背負ってるんですから、やめてください」

 しゃべっていると、谷間にいる眠り羊を見つけた。

「寝てるな?」

 リオナが頷く。

 解体屋の転移結晶を持っているのは僕なので、僕が谷を降りることにした。どうせ呼び込んでも転がり落ちるなら同じことだ。

 僕は剣を抜いた。

 相変わらず頭を身体のなかに埋めて、丸まっているので前後がいまいち分かりにくい。

 雷浴びせて転がすか…… なるべく獲物は痛めたくないからな。

 僕が坂を下りていくと、何かが羊の上に投げ込まれた。

「なっ!」

 追っかけの群れから石が投げ込まれたのだ。

 巨大なモコモコが目を覚ました。

 メエエエッ。

 嫌がらせか? それとも後ろから獲物をかっさらう気か?

 安眠を妨害されて怒った眠り羊が近くにいた僕目掛けて体当たりをかましてきた。

 僕は結界で勢いを殺すと眉間に剣を振り下ろした。

 瞬殺である。

 僕はすぐさま腹を割いて心臓をえぐり出すとタグを付けて解体屋に送った。

 僕は坂を登ってみんなと合流した。

「酷いことするな」

 ロメオ君が不満を漏らした。

「やっかんでんのよ。アイシャさんに相手にされないもんだから」

 ロザリアはあからさまに侮蔑の視線を向ける。

「今度やったら、流れ弾が飛んで行くのです」

 リオナが怖いことを言っている。

 道は尾根伝いである。気を取り直して、僕たちは先を急いだ。


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