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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒15

 ポータルを出ると石積みの城壁に囲まれた質素な村落が現れた。それは夕暮れどきの山間の渓谷にあった。

 村のなかをせせらぎが流れ、中央には村全体を覆うほど枝振りのいい大木が天高くにそびえていた。白亜の町並みに、色取り取りの草花が生い茂っていた。 

 吹きだまりに桶が一つ転がっている。

「一体何があったんだ?」

 僕は言われた通り、ポータルの魔力残量を調べた。

 七割方残っているようだった。

 ついでなので満タンにしておいた。


「日が暮れる前に、ふたりを探し出さないと……」

 ロメオ君が夕日を見上げる。

『霊障』を受けたということは事件にアンデットが絡んでいるということだ。そしてアンデットは夜の住人である。 

 金色の景色のなか、周囲の黒い森に目を向ける。

「近くに誰かいる!」

 ロメオ君が遠くを見つめた。

「リオナたちか?」

 森のなかにそれらしい人影を探知した。

 多少距離はあるが、リオナならこちらの声を聞き取れるだろう。案の定、気配が動き始めた。

 猛烈な勢いで里から離れて行く。

「おい?」

「迷ってるみたいだな。早くこちらから指示してやった方がいいよ」

 ミラベルさんが言った。

「リオナ、反対だ! 離れて行ってるぞ。振り返って進め!」

 なるほど『迷いの森』とはよく言ったものだ。獣人の感覚をも欺くとは。

 リオナとロザリアとおぼしき気配が反転した。

「そうだ。そのまま進め!」

 疑心暗鬼になってくるのか、歩みが段々遅くなる。

「間違ってないぞ! リオナ、そのまままっすぐだ!」

「もう少し…… そう、そのまままっすぐ」

 里と森を隔てる茂みから、ふたりの姿が現れた。

「エルリンなのです!」

 目を合わせた途端、猛烈な勢いで飛んできて僕に抱きついた。

「迷子になったです。怖かったのです」

 自分の感覚が完全に封じられたのは初めての経験だったのだろう。人族は迷子なんてしょっちゅうだから、ロザリアの方はけろっとしている。

「すぐに見つかってよかったよ」

「もう少し粘ってみようとがんばったのですが、無駄だったようですね。随分歩いたはずなんですけど、全然前に進んでいなかったようですね」

「それが却ってよかったんだ」

「声が届く距離にいてくれたから見つける手間が省けたのよ。運がよかったわ」

 ふたりがミラベルさんを見つめた。

「ミラベルよ。あんたたちの道案内役よ。よろしくね」


「これを付けてくれる」

 それはなんの変哲もない大きな鳥の羽だった。

「これは?」

「迷子にならないためのアイテムよ。この村を訪れるエルフ以外の人たちに『迷いの森』を抜けるまで付けておいて貰うものなの。効力は一日だけ。エルフに魔力を補充して貰わないと用をなさないからね。持ち帰ってもゴミにしかならないから、あしからず」

 全員が思い思いの場所に羽をさした。

「なんだかすっきりしたのです」

 いつもの調子を取り戻したリオナは早速、干し肉をかじり始めた。

「じゃあ、行きましょうか」



 行軍は日暮れまで続けられた。

 アンデットが絡んだ事件だと容易に想像できたので、夜は無理をせず、野営することに決めた。

 夜の森はそれなりに危ないしね。

 僕は久方振りに土魔法で小屋を作った。地面を削った土で壁を盛り上げる半地下構造の小屋だ。

「これで獣たちに襲われても取りあえずは安心だ」

「アンデットにもでしょ?」

 ロザリアは『簡易教会』用の聖結界の護符を壁に貼った。

 そんな小技も使えたのか……

 護符には魔法陣が記されているだけなのだが、教会ではこれを護符と言い張っている。

 魔法を使う者の見地として、魔法陣自体に護符の効果はないと宣言しておこう。その証拠にロザリアは対応した魔石を別に、壁に埋め込んでいる。 

 部屋を男女別に仕切り、土を盛り上げて人数分のベッドを作った。

 毛皮の一枚もあればよかったのだが、生憎そこまで気が回らなかった。

 塹壕の先にトイレを作り、寝る前に小屋の入り口を塞いだ。


 肩を揺すられて目が覚めた。

 リオナだった。ロメオ君もロザリアに起こされていた。

「どうした? もう朝か?」

「魔物が来たのです。強そうなのです」

 それは膨大な魔力を抱えた何かだった。

『草風』と初めて出会った雨の日の夜を思い出す。

「大丈夫」

 そう言うとミラベルさんは壁に手を当てた。

「気配は外に漏れていないはずだ」

 消音や消臭、探知系スキルの障害魔法などが入り交じった、エルフ独特の複合魔法陣だ。

 こんなときでなければ教わりたいところなのだが。

「どんな敵か知ってるんですか?」

 ミラベルさんに尋ねた。

「被害に遭った連中の話を聞いたことがある」

 口が重そうだ。

「敵は――」

 突然、壁が吹き飛んだ!

 突風が吹き込んできた。

 咄嗟に結界を張った。

 闇のなかでさえドス黒く感じられる何かが、吹き荒れていた。

 周囲の木々がどんどん枯れて、強風でへし折られて行く。

「見つけた、ぞ…… 残酷無比…… な、蛮族よ…… 冷酷なエルフの末裔…… よ」

「『闇の信徒』?」

 それはまさに迷宮から出てきた『闇の信徒』だった。

「こ、殺してやる…… 殺して…… やる…… ひとり…… 残らず……」

 強力な衝撃波が僕の結界に襲いかかる。

 受けきったはいいが、脱力感が一気に襲ってくる。

「魔力が……」

 障壁が一気に削られた。僕は膝を突いた。

 急いで万能薬の小瓶を飲み干した。

「なんだこいつ?」

 圧倒的な力の差を感じた。

「逃げろ! こいつには勝てない! みんな逃げろ!」

 だが次の瞬間、『闇の信徒』のローブを着た魔物が巨大な鎌を振り上げた。

 死神気取ってやがる……

 僕は大鎌を迎え打つべく剣を振り上げた。

「光の矢!」

 眩しい閃光が魔物に命中した。

 魔物が一瞬ひるんだ。

 今だ!

『ステップ』を発動し、間合いに潜り込むと、薙ぎ払いに来た大鎌の長柄を『兜割』の要領で打ち付けた。

 敵は物理結界で防ぎに来たが、僕は強引に振り下ろした。

『ライモンドの黒剣』は伊達ではなかった。

 結界を容易く切り裂き、抵抗なく柄を両断することに成功した。折れた先がブーメランのように回転しながら森のなかに消えた。

 次の瞬間、僕は宙を舞っていた。

 衝撃が後からやって来て、僕の胸部を貫いた。

 くっ…… 一瞬結界に干渉された。

 ラヴァルに僕がしたのと同じ方法だ。

 僕は背中をしたたか地面にぶつけた。

 こいつは姉さん並みか、それ以上ということか?

 雷撃が敵の頭上に落ちる。対魔結界が稲妻を弾く。

 魔物が奇声を上げる。

 幻獣が左右から襲いかかるも強烈な黒い風が幻獣を遠ざける。

 銃弾が魔物の片腕を吹き飛ばした。

 続け様にローブに風穴を開ける。

 そうか、新しい武器である銃の認識がないのだ。弓のような予備動作がない分、放たれるタイミングがつかめなかったのだ。しかも矢と違い、強風をものともしない。

 敵のターゲットがリオナになりかけたところにミラベルさんがナイフを投げた。

 物理結界がナイフを弾いた。

 僕はそれを見て、再び斬りかかった。敵が対魔結界に一瞬で切り替えてきた。この剣のダメージソースが魔力攻撃だと一合だけで見切ったようだ。

 リオナの銃弾がまたヒットした。今度は赤柄の方だったらしく、肩口から吹き飛んだ。

 こいつは一度に複数の魔法展開ができないと見た。幻獣を遠ざけるためと、弓対策で強風を巻き起こしているのだから、「これ以上の」と言うべきか。

 分が悪いと感じたのか、敵は突然黒い闇を撒き散らした。

「目眩ましか!」

 ロメオ君が風の魔法で対抗した。


 突然、稲妻が水平に走った。

 敵に直撃してローブが消し飛んだ。

 あまりの威力に全員目を丸くした。

 攻撃の威力は衰えず、魔物を僕たちの前から吹き飛ばした。

 僕たちの足下に浄化魔法の魔法陣が展開された。

「そこを動くな! 『瘴気』が漂っている!」

「結界を維持したまま待っていろ!」

 後続の救助部隊だった。

 あの声は姉さんとサリーさんだ。

 魔物は吹き飛ばされたことをこれ幸いと闇のなかに姿を消した。

「逃がしたか……」

 姉さんは悔しがったが、僕はほっとした。

 僕たちの周囲の木々は立ち枯れし、木の葉一枚残らなかった。

 ロメオ君が風魔法を解いた途端、腐臭が辺りに充満した。

「これが『瘴気』……『霊障』の原因か?」

 ロメオ君に代わってロザリアが浄化魔法を展開した。リオナは耳をひくつかせながら弾倉を入れ替えている。

 僕は胸の衝撃の跡を見た。変形すらしていなかった。

「あれが…… リッチ…… 『怒りのオクタヴィア』」

 ミラベルさんが声を震わせた。


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