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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第一章 マイバイブルは『異世界召喚物語』
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エルーダの迷宮17

 迷宮以外何もない村では狩りをしないとたちまち退屈になる。村のなかでは冒険者がするような依頼もないし、若さ故に日向ぼっこで一日を丸々潰す気にもならない。

 そんなわけで僕は宿の部屋で趣味の調合をする準備をしている。

 回復薬を予想外のことで消費してしまって、ストックが心許なくなってしまったし、人生臆病路線で行くことに決めたからには徹底的に備えようという気になったのだ。

 幸い、以前採集した折に回復薬に使う材料も入手しているのですぐにでも始められる。

 それも、秘伝のレシピのなかの一品を。

 回復薬は数あれど、その最高峰はなんといっても万能薬である。状態異常回復、体力、魔力、スタミナ全回復の優れものだ。もちろん目が飛び出るほど高価な一品だ。それもこれも材料に霊水が使われているのが原因だ。霊水とは魔素の飽和している水のことで、精霊石を溶かして作るのが一般的な方法だ。

 精霊石とは魔石の最上位に位置する石で、災害級クラスの魔物からしか取れない希少品である。当然法外な値段で取引されるため、市場に出ることは希で、庶民の手に入らないどころか、拝むことすらかなわない。有力諸侯の宝物庫に収められるのが当然の品で、結果として万能薬も幻の一品となっているのだ。

 だが、魔素の込められた水というのは作ろうと思えば作れる代物なのだ。たぶん『魔弾』の性質を利用すればだが。



『魔弾』とは魔力になる前の魔素を収束して形成した塊のような何かによる破壊手段の総称だ。目標に接触すると同時に魔力に変換、急激なエネルギー変位を起こし爆発的な破壊力を生むというのが一般的な解釈だ。

 属性魔法発動の前段階が『魔弾』だと言う人もいる。

 普通の魔法使いには想念から発動までが一連の動作であって、分けることのできない行程である。術式や魔方陣を使うため、そもそも違いを感じることができないのである。術式や魔方陣こそが魔素を効率よく魔力に変換する役目を担っているのだから当然といえば当然である。

 故に魔素と魔力は彼らにとって同義であるし、僕たちにとっては大きな違いがあるのである。

「わたしたちは言うなれば魔方陣そのものなのだ。魔素をその身に宿し、魔力を望んだ形に構築し、発現させることができる希有な存在なのだ。だから自分の望んだ形に力を構築できる。だからこそ多彩なのだ。エルマンはその典型だろう。だからおまえにもあるはずだ。望んだ発現の仕方がきっとある。だから泣くな、あきらめるな」

『魔弾』が使えなかった幼い頃、姉さんは僕をいつも抱きしめ慰めてくれた。でも、僕が泣いていたのは姉さんのスパルタのせいだと、姉さんの腕のなかでおびえていたことを今でも思い出す。



 とにかく、『魔弾』の特性を利用することで霊水はできるはずなのである。

 秘密のレシピには精霊石の代わりに魔力を貯める魔道具を使う方法が記されていた。読んだ限りでは魔道具にはおそらく魔力を魔素に再変換する能力があったと考えられる。ならばできるはずだと僕は踏んでいた。

『魔弾』をようやく使えるようになった今、試さない手はないだろう。

 万能薬の材料は、霊水を除けば珍しいものではない。回復薬や元気薬のそれと変わらない。あくまで効能の方向付けのために入れられる程度で、むしろ霊水がすべてだと言っても過言ではない。

 僕は材料を刻んで臼で磨り潰す。そこに水を足し、布で濾過して、耐熱瓶に移し替える。火にかけ、専用の装置で蒸溜を繰り返して目的の原液を取り出す。

 原液を割れにくい携帯用の金属の小瓶に詰め替えて、魔力定着の魔方陣を書いた封をする。最後に『魔弾』を形成する要領でその瓶に魔素を注げるだけ注ぎ込んで完成だ。

 あとは必要に応じて希釈すればいい。普通の回復薬なら百本は取れる勘定だ。結局『なんちゃって万能薬』を完成させるのに日暮れまでかかってしまったが有意義な時間であった。

 僕は窓を開け、蒸した空気を入れ換えた。

「涼しい」

 汗ばんだ肌にそよ風が心地よい。

 作ったはいいがどれくらい効くものだろうと気になって机の上の金属瓶を眺める。『認識』スキルではただの『混合薬』となっている。回復薬と元気薬と魔法薬がただ混ざっている状態らしい。一抹の不安を感じないわけではないが、とりあえずこれがどう変化するのか楽しみである。

 今日の一連の作業を反芻しながら、僕は詳細を記録していく。

 コンコン、扉が叩かれた。

 食事の案内かと想って扉を開けると、マリアさんだった。どうやら仕事帰りのようだ。

「こんばんは、少しいいかしら?」


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