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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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閑話 裏の裏は表?

「この池の魚は身が締まる冬がうまいらしいぞ。ハイエルフ殿?」

「何やつじゃ!」

 暗がりのなか、東屋にひとり佇んでいたアイシャの背後にローブ姿の女が現れた。

「小姑と言ったところだ」

 現れたのはレジーナであった。

「少年の姉か? 魔力の質がよく似ておる」

「怪しい気配がしたので飛んできてみれば、意外な珍客がいたものだ。意外すぎて笑ってしまったぞ」

「よくわかったな」

「その容姿でエルフでないとすれば、あとはダークエルフかハイエルフしかおるまい?」

「盗み聞きしておったのか?」

「何をたくらんでいる?」

「たくらむ?」

「十四歳のガキの側室に本気でなる玉には見えんのでな。騙すだけなら早々に立ち去って貰いたい」

「嫌だと言ったらどうする? 力尽くか?」

 ふたりは対峙する。

「さすがは彼の一族。ハイエルフ相手に一歩もひるまぬか」

 アイシャの身体に膨大な魔力が沸き上がる。

「あの子たちに手を出すようならドラゴンでも容赦はせん!」

 レジーナが杖をかざす。

 木々や水面がざわめき始める。

「皆が起きてしまう」

 アイシャはピタリと魔力の放出を止めた。

 風が止み、互いに乱れた髪が頬を覆う。

「ハイエルフがこの世界でどういう存在か分かるか、魔女よ」

「エルフ族の頂点。神の系譜と謳われし、気位ばかり高い偏屈、引きこもり――」

「そう言うことではなくて!」

「内包する魔力は膨大にして強力、故に様々な曰くで狩られる対象でもある。最近の言い伝えだと、血を飲んだり、肉を食らうと不老不死が得られるとか、心臓は万病に効くとか」

「百五十年経っても状況は変わらぬか……」

「そんなことはない。ハイエルフは絶滅したからな」

「なんじゃと!」

 アイシャは動揺を見せた。

 レジーナは笑った。

「そういうことになっておる」

「里はまだあるのか?」

「隠れ里があるらしい。どこにあるかはわたしも知らぬ。エルフの隠れ里なら情報があるかもしれんが…… 思ったよりまともではないか? ただの淫乱かと思ったぞ」

「外見がこの調子じゃからな。体裁をとっておったらこうなったまで。この容姿で純情な娘の役などできるか」

「少なくとも弟の興味は引けるぞ。わたしとしては年上の義妹など願い下げだがな」

「側室は兎も角、恩は返さねばと思っておる。それにもし妾に追っ手がおるなら手遅れだしの」

「守るために残ったと?」

「子供に尻ぬぐいはさせられん」

「自分が残るリスクと立ち去るリスク、ちゃんと考えたのか?」

「百五十年後の世界のことなど分かるはずないじゃろ? 去って後悔するより、取りあえず居座ることを選んだだけじゃ」

「閉じ込めたのは誰だ?」

「……」

「協力してやろうというのだ」

「……」

「味方は多い方がいいぞ」

「親友が閉じ込めたのじゃ。ただ、妾を憎いと思ったからではなく、守ろうとしてしたことじゃ。事故だったんじゃ、あれは。鍵が発動するなんて誰も思わなかったのじゃ」

 アイシャが顔を押えた。

「親友を助けたかった。あそこから出たいとどれほど願ったことか……」

「親友は?」

「殺されたじゃろ。何せ、獲物を永遠に届かぬ場所に逃がしてしまったのじゃ。妾を追っていた連中が許すとは思えん」

「追っ手とは誰だ?」

「『魔獣ハンター協会』と名乗っておった。いけ好かぬ連中じゃ」

 レジーナは驚きは隠せなかった。

 思わず高笑いする。

「なぜ笑う!」

「愉快痛快、これが笑わずにいられるか? その連中は先刻、この町の者たちが叩き潰したところだ。ユニコーンを盗みにちょっかいかけて来たんでな、返り討ちにしてやった。嘘だと思うなら他の住人に聞くがいい」

「そんな……」

「組織だって付け狙う者たちはもはやいないだろう。さっきも言ったがハイエルフは全滅したことになっているからな。エルフのフリをしていれば今後は安泰だ。開放されたのが今日でよかったかもしれんな、運がいい。命がけで助けてくれた親友も天国で笑い転げているに違いない」

「追い出さないのか?」

「理由はもう子供たちが言ったろ? 奴らは冒険者だ。しかも飛びきり破天荒と来ている。追い出したらわたしが恨まれる」

 そう言って廊下の木の板を叩く。

「そういうことだ。リオナ」

「ばれたですか?」

 下からリオナが現れた。

「盗み聞きか? なんのために消音結界張ったと思ってる」

「戦ってると思ったです。飛んできたです」

「呆れたの」

「ま、聞いた通りだ。みんなには内緒だぞ」

「ドラゴンの肉を要求するのです」

「ドラゴン?」

「フェイクだ。分かった。保管庫に残ってるのをくれてやる」

「やったのです。ありがとうなのです」

 リオナが尻尾を振りながら帰って行く姿をふたりは見守る。

「どうだ? 頼りになるだろ?」

「気付いていたのか?」

「単なる慣れだ」

「まだ子供じゃろ? 末恐ろしいの……」



 翌朝、子供たちが食事をたかりにやって来た。

「ドラゴンの肉食べたい」

 来て早々ピオトがアンジェラさんに催促した。

「なんでわかったですか!」

 リオナが飛び跳ねる。

「お姉ちゃん、寝言言ってた」

 チコが笑って答える。

「はう!」

「きれいな姉ちゃんだな」

 ピノがソファーでけだるそうにしているアイシャを見つめる。

「エルフだよ、エルフ。本物だ」

 生まれて始めてみたテトが感激している。

「ハイ――」

 口を滑らせたピノをチッタがげんこつで殴る。

「馬鹿! 内緒だって言ったでしょ」

 部屋中がシーンとなった。

 アイシャが呆然としている。

「リオナじゃないのです! なんで知ってるですか?」

 リオナも慌てた。ばらしたのは自分じゃないとアイシャに目を向ける。

「爺ちゃんたちが、警備体制を強化するって相談してた」

「一体どういう……」

「お爺ちゃんたちハイエルフに若い頃、会ったことあるんだって。だからすぐ分かったって」

 チコが答えた。

「全部言ってるし……」

 リオナが肩を落とす。

「え? ハイエルフ? そうなの?」

 ようやく気付いて驚くロザリア。

「早かったなぁ、ばれるの」

 エルネストは他人事だ。

「ばれた以上、口封じの約束で貰ったお肉は返さないとねぇ」

 アンジェラさんの言葉に子供たちは凍り付いた。

「なんにも聞いていないのです! 気のせいなのです!」

 リオナが駆け寄り、すがり付く。

「ここに来るところからやり直します!」

 珍しくチッタが慌てて、リオナの横に並んで懇願する。

「長老には、ばらしたら一週間肉抜きだって言っておくから、それだけはご容赦を!」

 ピオトとピノがテンパっている。もう自分が何を言っているのか分かっていない。

 獣人の子供たちは大騒ぎである。

 アイシャはもう固まって動かない。

「食べちゃえば問題解決! 食べちゃったもん勝ちですよ」

 薄くスライスした赤身の肉を大盛りにしたお皿を笑いながらエミリーが運んできた。

「おおーっ!」

 子供たちは諸手を挙げて喜んだ。

 エルネストがアイシャの横に立って言った。

「肉の方が大事だってさ」と。

 アイシャは降参したように深く項垂れた。


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