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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒(アイシャ)8

 長い足がスタスタとやって来て、僕の顔を覗き込む。

 うはっ、胸の谷間が…… ってか脚なげーッ。

「十年後か……」

 大きな溜め息を付く。

 なんだこのエルフ? やけにすれてるな。

「吸血鬼じゃないのか?」

「ん? イベントまだやっておるのか?」

「イベント?」

「仕方がないの。この際お前で我慢してやろう。妾はもう一度横になるゆえ、妾に口づけをするがよい。他の者は帰れ」

「却下!」

「殺すです!」

「喜んで!」と言おうとしたら、女性陣に先に却下されてしまった。

「あのなぁ、お前たち、お姫様の永遠の眠りを覚ますのは王子様と相場が決まっておろう?」

「どこがお姫様よ! この淫乱エルフ!」

「エルリンは王子様じゃないのです!」

「何百年も閉じ込められておったのじゃ、それぐらいの妄想かまわんだろ? 少々若いが、これはこれでよい。将来が楽しみじゃ」

「駄目なのです! リオナの旦那様なのです!」

「んん? そうなのか? でも、そなたではまだ早い気がするぞ? そっちの娘なら分からんでもないが……」

「わたしは関係ありません!」

「リオナが本妻なのです!」

「ってことはそっちが側室になるのか?」

「だから違いますって!」

「このちびっ子なら、将来側室を邪険に扱うようなマネはせんじゃろうしの。好きなだけ食っちゃ寝できて、おいしいとこ取りできるわけじゃな」

「美味しいですか……」

 こら、リオナ、お前が悩んでどうする! ていうか「おいしい」の意味、違うから。

「だから違うといっているじゃないですか!」

 ロザリアが言い返す。

「妾の眼力を侮って貰っては困るぞ、娘よ。お前は惚れておる! まだ気付かぬだけじゃ」

 真剣なのか、からかってるのかよくわからん。

「そ、そんなことは……」

 おい! なぜそこで赤くなる?

「よーし、この際妾も側室になってやろうではないか! 喜べ少年。エルフの側室だぞ。うれしいじゃろ? 本妻殿はまだ幼い故、そなたのアレの面倒は妾が見て進ぜよう」

「なっ!」

「不謹慎です!」

「駄目なのです!」

「助けてくれた礼じゃ。下手をしたら永久に、ここから出られなくなるところだったのだからな。生涯を捧げてもおかしくなかろう?」

「あの…… とりあえず吸血鬼とか、魔物の類いじゃないんですよね?」

 ロメオ君が遠慮がちに言った。

 ロメオ君は一応まだ臨戦態勢を取っていた。

「見て分かるじゃろ? どこからどう見ても生粋のエルフじゃ」

 せめてもう一枚羽織ってもらうと目のやり場に困らないんだけどな。

「エルフはもっと慎ましい方々だと聞いてたんですけど」

「失礼な。女子の恋バナなんぞ、どの種族もさして変わらんぞ」

 ロメオ君はその格好のことを言ってるだけだと思いますけど。

「せっかく次点にしてやろうと思うたのに、この腕輪でも付けておるがよい」

 ロメオ君に寝台に置かれていた金の腕輪を投げてよこした。

「生憎、妾の身体は一つ故、それで勘弁されよ」


『妖精の腕輪。妖精に好かれるようになる腕輪。すべての魔法属性が上がる。魔法攻撃力増加』


 あらぁあ…… ロメオ君、段々無双に近づいてるよ。

「娘たちにはそうじゃな…… 本妻殿は獣人ゆえ、これがよいかの。そっちの純情少女は光属性が強そうじゃから、そうじゃな……」

 リオナは、身体能力アップの『獣の腕輪』を、ロザリアは詠唱短縮と光属性が上がる『天使の腕輪』を貰った。

 そっちも無双かよ。

「とりあえず、助けてくれた礼を言う。ありがとう。感謝する」

 エルフは恭しく頭を下げた。

「あのー、僕には?」

「そなたには妾がおるではないか。妾のすべてはお前のものじゃ!」

 そう言って僕を抱きしめた。

 いつものことだが、貧乏くじを引いた気になるのはなぜだろう?

 

 

「よし、荷物の整理は済んだ。そっちは済んだか?」

「これほんとに全部貰っていいんですか?」

「ここに置いておいても仕方のないものじゃ。遠慮なく持って行け。ただし転移ゲートと同じ仕組みゆえ、持てるだけにしておくがよいぞ」

 ロザリアが扉の近くにあったどうでもいい指輪を扉の外に投げ込んだ。

 指輪は玄関先の景色に転がった。

「物だけを送り出すことはできないのですね」

「だからそう言っておろうが」

「今時の転移ゲートは物だけでも輸送できるんです。試しただけじゃないですか」

「それはあらかじめ送り元と送り先の座標を固定しての話であろう? 転移結晶ですら転移元の座標はちゃんと計算しておるのじゃぞ。でもこの屋敷は亜空にあって位置が定まっておらんのじゃ。座標が固定されておるのは扉の鍵が開いている間だけ。それも鍵を持った者が部屋に入った時点、つまり過去の入室記録を元に位置を固定しておるのじゃ」

「なんでそんな半端な……」

「システムの構築中だったのじゃ。最低限の安全システムで稼働しておる。完成する前に発動してしまったからの。荷物が搬入中であることからも分かるじゃろ? システムが作動する前、ここは通常空間にあったのじゃ。システムが完成しておれば、妾も閉じ込められずに済んだのじゃ。イベントクリアー、またはイベント終了日が来れば、通常空間に復帰できる手筈じゃったからの。さすれば冒険者も成功報酬を持ち出し放題だったわけじゃが」

「単なる物に反応している余裕はないわけか?」

「目玉グッズはそこの装備類と宝飾類だけだ。後は記念品じゃ。目くじら立てるほど価値のある物は妾の私物以外ないからほどほどにの」

 僕たちは『闇の信徒』グッズを持てるだけ頭陀袋に詰め込んだ。

 扉を出てしまうと戻っては来られないそうなので、ピストン輸送はできないらしい。修道院への転移結晶も当然使えなかった。

 僕はかさばらない宝石関係を袋の隙間に流し込む。

 ロメオ君は素性がはっきりしたことで『闇の信徒』のローブセットを頭から足の先まで装備する気になったらしい。いつぞやのスケルトンが小さくなって僕の前に現れた。色が何色もあったので、ロメオ君は全身鶯色のものを選んだ。杖も二、三本選んだようだ。

 リオナに合う装備もあったが、どれも姉さんが用意したものには及ばなかったので装備はパスした。武器も同様である。手頃な宝飾類を選んでやった。

 ロザリアは手袋とブーツを選んだ。色は赤だ。生憎白い装備はなかった。ま、『闇の信徒』だからな。それから宝石類を数点選んだ。

 エルフはすっかり旅支度を調え、寝室から現れた。

 マント姿に軽装で細身の剣を携えていた。思ったより地味だが存在が派手だ。特に銀色の髪と隠しきれない胸元が。

「よし、持てるだけ持って外へ出るぞ」

 全員が背中に背負えないほど担ぎ、両手一杯に頭陀袋を下げ、扉の前に立つ。

「では行くぞ」

 僕たちはエルフの後に付いて開かずの部屋から抜け出した。


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