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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒(門番)6

「おー、やってる、やってる」

「っていうか羊やられてない?」

 冒険者たちが谷底の洞穴に身を隠しながら襲ってくる眠り羊と戦っていた。

「なるほど、あの手があったか。狭い場所に陣を構えれば、でかい羊は手が出せないんだな」

「安全確実に葬るスタイルですね」

 あそこは彼らの見つけた狩り場だ。邪魔しちゃ悪いな。

「どこが阿鼻叫喚だよ。うまくやってるじゃないか」

「よく見るのです!」

「洞窟のなかで何かに襲われているのです。逃げるために羊を退けようとしてるのです! 早く助けないとみんな死ぬのです!」

「何がいるって言うんだ? このフロアーは羊だけ……」

 巡回モンスター? 

「まさか、このフロアーにもいるのか?」

「確かに焦っているみたいだ。たまに後ろを振り返ってる。あれは…… 間違いなく挟み撃ちになってるよ」

「明らかに攻撃の手が足りないわ。槍持ちだけで盾がいない……」

 ふたりが望遠鏡を覗き込みながら解説する。

「他人の獲物を獲ると後で問題になるんだが……」

「リオナを信じるのです」

 リオナのつぶらな瞳が真剣に僕を見上げる。

「疑っちゃいないよ」

 僕はリオナの頭をポンと叩き、ライフルを洞窟にへばり付いている羊に向けた。

 位置が悪いな…… 必殺スキルは発動しない。

「いくぞ!」

 僕は眠り羊の巨体に一撃を放った。

 羊がのけぞったのが分かった。

 続け様に二発、三発と連射する。

 メエエエッ。

 可愛い声を上げながら羊は向きを変えた。

「ありゃ?」

 なぜか熱い視線をこちらに向けてくる。

「こっち来るのです」

「淡泊な奴だな。普通もう少し粘らないかな?」

「ちょっと、まだ心の準備が!」

 ロザリアが荷物を下ろして、ランスを構える。

「三発も撃ち込んだら怒りますよ、普通」

 ロメオ君も慌てて荷物を下ろす。

「三発食らっても死なないとは見上げた根性だ。褒美に穴に落としてやろう」

 僕は仲間の荷物が谷底に落ちないように土魔法で覆い隠すと、駆けてくる羊の前方に落とし穴を掘った。

 足場の悪い坂道を蛇行しながら必死にやってくる羊を銃と魔法でみんなで穴に誘導する。

 岩陰に入った所で忽然と姿が消えた。

「やった!」

 羊は見事に穴に落ちた。

「手を振ってるです」

 洞穴のなかにいた冒険者がこっちに手を振っていた。

「怒ってないみたいだね」

「何か言ってるぞ」

「『逃げろ』と言ってるです!」

 洞穴のなかから、怪我人を背負った男が出てきた。その怪我人を守るように弓をなかに向ける冒険者がふたり。最後は盾持ちがふたり、交互に下がりながら洞穴を抜けてくる。

「転移ゲートだ! 脱出するみたいだ」

「え?」

 洞穴の縁に手を掛ける指が見えた。

「骨だ……」

「でかい……」

 手が置かれた位置が僕たちの身長の二倍ほどある高さにあった。

「ヒドラよりやばい気がするのは気のせいかな?」

 巡回する骨…… 『闇の信徒』……

 嫌なものを思い出した……

「出てくるです!」

 それは標準の三倍ほど大きな、真っ黒い骨のスケルトン先生だった。

「あのサイズの装備はさすがに着られないな」

 兜と鎧を着用し、剣と大盾を装備している。身体に合うサイズがなかったのか、手足は素のままである。

 巨大先生は穴の入り口に引っかかった大盾を強引に引っ張り出した。

 洞穴の入り口が崩壊して土煙が舞い上がった。

 羊でも出入りできる大きさに広がってしまった。

「破壊あるのみなのです!」

 やる気かよ!


闇の信徒(ダークイスト)門番(ゲートキーパー)、レベル五十、オス』


「レベル五十だぞ」

「悪い奴はやっつけるのです!」

 冒険者一行の最後のひとりがゲートに消えた。

 すると突然、先生の眼窩がこちらを向いた。

「見つかったのです!」

「骨のくせに、鼻効き過ぎだろ!」

 僕たちは一斉に銃を放った。

 すべてが巨大な盾に阻まれた。

 空になった薬室に『魔弾』を込めて放った。

 盾が破裂して巨大スケルトン先生がのけぞった。

「今だ!」

 ロメオくんの風の矢がスケルトンのスネに命中する。

 リオナとロザリアが銃弾の雨を降らせる。

 ロメオくんの一撃でひびの入った脛骨が、さらに砕けていく。

 弾が容赦なく消費されていく。

 今が攻め時と判断したのか? リオナもロザリアも手を緩めようとしない。

 確かにあの巨大な盾を振るわれただけで逝けそうだもんな。

 さっきのパーティーの盾持ちはどうやってアレをいなしていたのだろう?

 障壁が思った以上に頑丈だ。弾も魔法も威力が明らかに減衰されている。

 僕も『魔弾』を放り込むが、スキルが発動しない。

 それでも、連射を繰り返していると、自重に耐えられなくなった頸骨が砕けて、スケルトンが膝を突いて倒れ込む。

「硬いなぁ」

 気を抜いたところに、スケルトン先生が大盾を振った。

 突風が吹き荒れ、僕たちは吹き飛ばされた。全員が斜面を転がった。

「いててて」

 なんてことしやがる。

「みんな無事か?」

「危なかったです」

「頭ぶつけた」

「もう死ぬかと思いましたわ!」

 土で隠した荷物も無事のようだ。地面に下ろしたままにしていたら今頃、谷底に落ちてロストだ。

 スケルトンは剣を地面に突き立てのっそりと立ち上がる。

「お返しだ!」

 僕は剣を突き刺した地面の土を緩めた。スケルトンは大きくのけぞって地面に倒れ込んだ。

 兜が脱げて、地面に転がった。

 リオナは距離を詰めると、赤の糸柄の銃口を頭蓋骨に向けた。

 リオナを叩き潰そうと大きな手が頭上を襲う。

 腕が消し飛んだ。

 光の矢が骨を霧のように分解した。

「アンデット討伐は教会の十八番ですわよ。アムール! ベンガル! やっておしまいなさい!」

 ロザリアが切れた。

 二匹の幻獣がスケルトンに襲いかかる。

 アンデットは剣を捨て、盾のみで応戦するが幻獣の速さに翻弄されている。

 そこへロメオくんとロザリアの魔法が襲いかかる。

 一方的な展開になった。

 装備のない露出した部位は幻獣に食いちぎられ虚空に四散して消えていく。

 もはや、スケルトンの体をなしていない。ただの骨の塊だ。


「圧勝だな」

「実力を出させる前に勝つ。戦いの鉄則です!」

 ロザリアの鼻息が荒い。

 僕たちはすぐさまアイテムの回収に向かった。

 でかすぎて装備品は全滅。素材にするためにとりあえず回収。指輪も腕輪か首輪のサイズだったが、その分宝石もでかい。否、でかすぎる。

「修道院に送っておくか」

 僕たちは巨大な装備品一式にメモを貼り付け、修道院に送った。

「また母さんたちに疑われそうだよ」

「なんで?」

「実入りが良すぎて疑われてるんだ。エルネストさんと何か悪さしてるんじゃないかって」

「疑われても仕方ありませんね。実際、普通じゃありませんもの」

 なんて言われようだ。


「あいつがここにいたってことは、この近くで迷宮に何かあったってことだよな?」

「ですわね」

「あの洞窟が怪しいのです」

「報告しないといけないし、当りだけでも付けていきましょうか?」

 メエエエエ。

 地面の底から羊の声が?

「あ、羊忘れてた」

 すっかり物のついでになってしまった。やれやれである。

 僕は羊の眉間に銃口を向けた。


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