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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒5

「おーっ! 開いた、開いた」

「凄いです!」

「本物だ……」

「別の箱も試してみましょうよ」

 ガルルル……

「ゴブリンうるさい!」

 近づいてくるゴブリンをリオナが一撃で葬った。

「地図だとあの丘を越えた所に一つあるよ」

 地図を携えたロメオくんが丘の向こうを指した。

「それで、なかに何が入ってましたの?」

 ロザリアが宝箱のなかを覗き込んだ。

「いるかい? ゴブリンシチュー」

「…… 生ものですの?」


 僕たちは今、拾った鍵が『迷宮の鍵』であるのか真偽を確かめるべく、地下一階の草原ステージにやって来ていた。

「じゃ、行こうか」

 ゴブリンの宿営地に潜り込み、目下、検証作業中である。

 ここはかつて『リーダーの証』事件の現場にもなった場所である。

 宿営地の周囲を相変わらずゴブリンたちが忙しく巡回している。

 でも今回は楽ちんである。

 ロメオくんの進化した雷攻撃で一網打尽である。リオナも消音付きの武器に変わっているし、新規加入したロザリアもいる。

 僕たちも成長しているのだ。

 ロザリアが魔物を遠ざけ、容易く二つ目の箱に辿り着く。

 近くでゴブリンリーダーが欠伸をしている。

 僕は鍵をかざした。するとカチッと音がして錠が緩んだ。

 万が一に備えて僕以外は遠巻きに様子を伺っている。

「開けるよ」

 ギィ…… 

 すんなり蓋が開いた。

「罠も解除されてるみたいですね」

 資料ではこの箱には毒針の固定罠が仕掛けられているはずだった。

 結界を張って警戒していたが、大丈夫のようだ。

「中身は?」

 全員が覗き込んだ。

「またシチューは嫌ですわよ」

「紙だ。紙が入ってる!」

 僕は箱に手を突っ込んで取り出した。

「ゴブリンシチューのレシピだ」

「……」

「材料は普通だ。家で試してみようか? どんな味か」

「言い出しっぺが最初に毒味するんですからね」

「大丈夫だって。この材料なら、普通にうまいって!」

「お肉入ってるですか?」

「肉ならなんでもいいみたいだぞ」

「リオナが味見するです」

「僕もいいかな?」

「もちろんなのです。イベントはみんなで楽しむのです。後で材料、買って帰るです」

 話題がずれてる。


 とりあえず鍵は本物だと結論付けることができた。

 僕は鞄の奥に鍵を押し込んだ。

「まだ時間あるから十一階を覗いてみようか?」

 午前中をヒドラとの最終戦に当てる予定だったのだが、五本首は思いの外歯ごたえがなく、時間が空いてしまったのである。

 このまま宝箱をあさっていてもいいのだが。

 僕たちは脱出用の結晶を使って一旦外に出ると、地下十一階に飛んだ。


 孤児院の荷物運びをしている少年が言っていた通り、そこは山岳エリアだった。

 僕たちは絶景に思わず、立ち尽くし息を飲んだ。

「凄い……」

「もっと早く来ていればよかった」

 雪の白と岩肌の黒に彩られた連峰が僕たちを取り囲むようにそびえていた。稜線から高山植物の緑の傾斜地がどこまでも伸びている。

 僕たちは緑のなかを蛇行する山道の突き当たりに立っていた。

 振り返れば雪に覆われた絶壁が天の先まで伸びている。

 上空は青く、風に巻き上げられた雪が雲のように宙を漂う。

 道は稜線に沿って山向こうまで伸びていた。目線の高さを漂う雲の向こうに赤煉瓦の賑やかそうな町並みが見える。

 お弁当をここで食べたら最高にうまいに違いない。

 空には太陽が輝いている。

「匂いしないのです」

 空を優雅に飛ぶ鳥たちを見てリオナが言った。

「てことはあれもギミックか」

 よくできてるな……

「地図の情報では眠り羊は岩場を好むみたいだよ」

 峠の先、山肌が露出した辺りに羊たちはいるようだ。

「意外に狩られてませんね?」

「眠り羊の討伐依頼って安いのかな? 見てくるの忘れたな」

「見に戻るついでにお昼にしませんか? この景色を見てたらその…… お腹が空いてしまって……」

 僕たちはロザリアの提案に同意してもう一度地上に戻ることにした。


『依頼レベル、C。依頼品、眠り羊。数、一以上。土前月末日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨三枚から、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 僕たちは依頼を窓口に持って行った。


「あら、ヒドラはもう終ったの?」

 マリアさんは僕たちを見るなり言った。

「おかげさまで」

「雑魚だったです」

「雑魚?」

 ロザリアは遠巻きにマリアさんを眺めて溜め息を付いている。

「眠り羊ね…… 結構大変な依頼よ」

「そうなんですか?」

「なるべく起こさず、寝ている間に倒すこと。そして高みから攻めること。自分たちが下にいるときは攻撃しない方が身のためよ。とにかく踏まれないように気を付けて。急勾配で倒すと、せっかくの獲物がどこまでも転がって行っちゃうからそれも気を付けて、下手をするとロストするからね。以上先輩からのアドバイスよ」

「弱そうな名前ですけど?」

「ここは中級ダンジョンよ。どんな敵もなめたらやられるわよ。それに眠り羊は弱くないからね」

「気を付けるのです」

 一番潰されそうなリオナが答える。

「そうだ。多めに狩ってきてくれないかしら。明日キャラバンが来るんだけど、荷台に空きがあるのよ。そうね、二匹ぐらいほしいわね」

「二匹? 二匹で多いんですか?」

「一匹が大きいのよ。他は狩っても解体屋に送らないで石にするといいわ。石ならいくらでも引き取れるからね」

 確か荷車に積めないほどでかいって、荷運びの少年も言ってたっけ。



「羊発見!」

 ロメオくんが望遠鏡で確認した。

「遠近感がおかしくなりそうだよ」

 確かにでかい羊だった。丸々太った羊版コロコロである。ただし、コロコロにモコモコの毛皮が付いているから更にでかく感じる。

「たしかにあれが上から降ってくると危ないですわね」

「情報だと、雷魔法も効きづらいらしい」

「物理攻撃もあのモコモコのせいで効かないのです」

「毛皮も売り物だしな……」

「意外に攻略しづらいですね」

 僕たちは考え込んだ。

 そんなとき、リオナの耳がぴくりと動いた。

「冒険者発見!」

 リオナは遠くを指差した。

「阿鼻叫喚なのです」


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