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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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ロメオ君育成計画10

 午後から地下十階の攻略を開始する。

「いよいよメインイベントですね」

 ロザリアが意気込んだ。

 僕たちにとっての第一関門が訪れようとしていたからだ。

 このフロアーは地下六階から九階までの敵が雑魚として登場してくる。フロアーの構造は基本構造なので火鼠も問題ではない。怖いのは火蟻だけだが、個体数は少ないらしい。見たら即殲滅だ。

 このフロアーの最大の敵、意気込む理由。それはこのフロアーのボスキャラ、ヒドラである。

 多数の首を持つ蛇である。情報によると運が良ければ五つ、運が悪いと九つの首を相手にすることになるらしい。鎌首を上げると首だけで人の倍ほどの背丈になる厄介な敵である。

 ちなみにこのヒドラ、倒すまでリセットされない厄介者でもある。

 誰もが五つ首のヒドラを相手にしたいと思うに違いない。九つなんてほとんど倍だ。当然体格もその分大きくなる。いくら魔石が大きくなる可能性があるとしても誰もやりたがらないのが現実だ。

 実際見てみないと分からないが、身体も倍以上違うらしく、レベル三十五の魔物がレベル五十代にまでなるのである。レベル五十と言えば足長大蜘蛛や、地下三十一階の無翼竜やコアゴーレムに匹敵する。

「…… 思ったより弱くない?」

「どういう感覚してるんですか!」

 レベルは強さに比例しないから安心はできないのだが。

 スペック的に言って苦戦は必至だろう。

 まず、どの頭の牙にも強力な毒がある。一分で泡を吹いて昇天できるほど強力な奴らしい。普通盾になるメンバーは対毒用の装備や結界装備を揃える必要がある。出費は大体、フルプレート、盾込みで、最低金貨五百枚程度掛かるそうだ。アクセサリーなどで代替するとその倍ぐらいの値段になるそうだ。

 大概一つのパーティーには盾持ちが二、三人いるから、出費は推して知るべしである。

 ちなみに僕たちはしょぼい毒耐性のドロップアイテムばかりを付けているが、以外に耐性が高かったりする。

 僕の『状態異常耐性』付きの装備はアクセサリーも含めるとほぼ完璧に毒から守ってくれる。

 ロザリアの装備も元々、神聖装備なので毒は効かない。

 しかも『グングニル・レプリカ』の神属性『魔法増幅』も加味された今、我がパーティーは闇属性に圧倒的なアドバンテージを持つことになる。彼女の近くにいるだけで対毒性が二割増しもなるのだ。さすが教皇の孫である。

 でも残念ながら物理攻撃に対しては紙装備である。学生服に結界が施されただけの軽装備なので、物理結界を越えてこられたら一撃である。もっとも『グングニル・レプリカ』で強化された結界をそこら辺の魔物が越えられるかは甚だ疑問である。

 両手に指輪だらけのロメオ君も毒耐性三割はキープしているので、ロザリアの加護も手伝って五割のガード率を誇ることになる。五割ということは百のダメージも千のダメージも半分になるということだ。千のダメージを五百軽減したからといって、百のダメージがゼロになるわけではない。バジリスクの毒は半分にしても致死量に変わりないのである。

 とは言え、大概の魔物なら三割もあれば、毒消し薬の範疇に収まる。三割キープはギルド職員家族の知恵といったところだろう。

 これから戦うヒドラは別格であったが、ロザリアのおかげで今まで通り安く収まることだろう。万能薬を啜っている段階で余り関係ない話ではあるが。

 一番心配なのはリオナである。いくら獣人の身体能力が高いからといっても、身体がまだ小さい分毒の回りは早いはずだ。元々魔力が少ないから付与にも限界があるし。いくらスピードスターでも毒はかすったら終わりだ。心配この上ない。

「大丈夫ですよ」

 ロザリアが僕に呟いた。心配が顔に出ていたらしい。

「取って置きを買いましたから」

 それはリオナが首にしているチョーカーだった。

「ただのネックガードじゃなかったのか?」

「充填式の付与装備です。効果は『浄化』。常時ガードするよりも、掛かったときに解除する方が魔力の消費は少なくて済みます。グレードと発動タイミングには気を付けて買いましたから大丈夫です」

 直撃を受けるが、回復は即時に行われるらしい。

「ヒドラの毒だぞ、耐えられるのか?」

「わたしのそばにいるだけで二割の加護があります。戦う前には耐性アップの付与魔法も施しますから、直撃を受けても耐えられるようにできます」

「そうか……」

「エルリンさんの結界が破れるとも思いませんけどね」


 嘗て、首の一つは不死であり何度でも生えてくるせいで、その凶悪さに拍車が掛かっていたヒドラだが、今では手品のタネはばれていて、尻尾の膨らんだ先を切り落とせばいいことが分かっている。そこには通称、『ヒドラの心臓』がある。

 錬金術に使われる高級材料のひとつで『完全回復薬』の原料にもなっている。今は一つ金貨百枚ぐらいが相場らしい。そこからできる薬はせいぜい百本分だ。他の材料費を考えると、決して割のいい商売とは言えない。

 もちろん依頼は後受けで受ける予定である。


『依頼レベル、B。依頼品、ヒドラの心臓。数、一。期日、なし。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨百枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 Bランク依頼である。ギルドポイントには金額も加味されるので、多分この依頼だけで僕たちはDランクに格上げだ。

 他の部位も高額なので、多少ポイントが足りなくても確実である。



 僕たちの狩りは順調に進んでいた。通路に硫黄の臭いが立ち込め、リオナが鼻を押えるようになるまでは。

 それは中程まで進んだときだった。

 ヒドラの部屋が探知で見える位置まで来た所で、おかしなことになっていることに気が付いた。

 部屋の手前で、いくつものパーティーが屯しているのである。

「順番待ちでしょうか?」

「報酬も大きいからいてもおかしくないけど」

「ヒドラも健在だよ。あれだけ人がいるのにこの時間まで誰も狩ってないっておかしくない?」

「三組はいますよね?」

「とりあえず行くだけ行ってみよう」

「予習がてら、余所のパーティーが戦うところを見ておくのもいいかもしれません」

「そうだね。他のパーティーが戦うところなんてあんまり見たことないしね」

「今日は狩れないですか?」

 リオナは泣きそうな顔をしながら見上げた。硫黄の臭いが相当効いているらしい。

「たぶんね」

 リオナが肩を落とした。

「消臭してやろうか?」

 リオナは首を振った。意外に頑固である。


 部屋の前には大勢の大人たちが屯していた。そこでは言い争いが勃発していた。

「さっさと狩りなさいよ。一体いつまで待たせる気なの!」

「だから、順番を譲ってやるって言ってんだろ!」

「あんたたちの順番なんだからあんたたちが狩りなさいよ!」

 大男と女の冒険者が言い合いをしていた。

「だったら、俺たちの後ろに並べよ。前に入るのはおかしいだろ!」

 三つめのパーティーの男も口を挟む。

「この姉さんたちと順番を交換するだけなんだから、前だっていいだろ? お前らはどっちにしても三番手なんだから文句ないだろ!」

「だったらさっさとやれよ!」

「偉そうなこと言うなら、あんたたちがやりなさいよ。いいわよ、わたしたちも譲ってあげるから」

「だったらあんたらには譲らないぜ」

「何言ってんだ! あんたたちがやらないから、こうなってんだろ!」

「やるのかやらないのかはっきりしなさいよ。やらないならあんたたちが最後尾に尽きなさいよ!」

 大人げないとはこのことだ。

 僕たちは部屋のなかの薄闇のその先を見つめた。

「九本首……」

 どうやらこの三組、朝からずっとなすり合いをしていたらしい。


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