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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒(迷宮の鍵)4

 かつて吸血衝動に駆られた村人が互いに襲い合い、村を一つ滅ぼした事例が存在する。村の名はハサウェー。実際にあった歴史の一頁だ。

 原因はカルトによる集団催眠だと言われている。コウモリ。ヒルやカ、ノミ、ダニなど、吸血動物は数あれど、人間ほど生き血を啜るのが下手な生き物はいなかったらしい。

 現場は凄惨を極めた。老若男女、村人は元より、家畜まで生きとし生けるものすべてが犠牲になった。派遣した騎士団も壊滅、手を焼いた領主は村ごと火に掛け、すべてを焼き払った。

 その後、当時の原始的で野蛮な狂気を、人の持つ生命力の発露だと、勘違いした者たちが現れた。それが『闇の信徒』だ。

 当然そんな物騒なカルト集団は即行で潰され、今日に至る。

「物語なのです」

 その通り。マリアさんが物語の概略を説明し終わったところで、リオナが突っ込んだ。

 世間で言うバンパイア伝説は、リオナでも知ってるこの物語がベースになっているのである。

「物語に出てくる『闇の信徒』の方が迷宮の番人のことをまねたものなのよ。この物語の作者、ハサウェイ・シンクレアが作家になる前にしていた職業知ってる?」

 僕たちは首を振った。

「冒険者ギルドの事務員よ」

 目が点になった。

「それじゃ、バンパイアは?」

 ロザリアが尋ねた。

「村を留守にしていた青年が村に帰るとそこには変わり果てた家族の姿があった。怒り狂った彼は自らバンパイアとなる道を選び、超人的な能力で領主に復讐するのよね。領主の娘と恋に落ちて、自ら死を選ぶ最期のくだりは秀逸よね。子供の頃悲しくて何度も泣いたわ。でも、残念。バンパイアというのは、ハサウェイが飼っていた猫の名前なのよ」

 周りにいた職員たちまで吹き出した。

「それって、常識?」

「まさか、かつての同僚が築き上げた偉大な作品の種明かしをギルド職員がするはずないでしょ? これは内緒。『闇の信徒』を退治してくれたお礼よ。まあ、知ってる人は知ってるけどね」

「つまりバンパイアって……」

「架空の産物。でもかつては飼い猫だった」

 結局、迷宮のなかの『闇の信徒』と吸血に関する疑問は何一つ解決されなかった。

「なぜ装備に吸血効果なんて……」

「迷宮を改修したとき、教会の人間が逆にあやかって何かいたずらしたんじゃないかしらね? この迷宮の改修はまだ日が浅いから、時系列で言うならそうなるわよ」

 たらい回しか……

「あの…… 迷宮に鍵のかかった部屋ってありますか?」

「あるわよ、たくさん。そうね、あなたたちのメンバーに足りないのはそこかしらね。鍵を開けるスキルを持った人が必要だわ。あるいは魔法が。お姉さんなら知ってるはずだから今から身につけておくといいわ。急に憶えても使い物にならないからね。深く潜ろうと思ったら必ず必要になるから」

 新たな問題発覚だ。ロメオ君の解錠魔法とも言えない、造形魔法による怪しい方法ではいつか先に進めなくなるというお告げである。早急に対処することにしよう。

「迷宮の鍵を手に入れるって手段もあるけどね。あれを見つけるのはスキルをマスターするより難しいからね」

「迷宮の鍵?」

「わたしも一度しか見たことないけど、これくらいの金色の鍵よ。形状は意味がないわね。迷宮内の鍵はすべてその鍵を近づけるだけで開くのよ」

 まさか……

「しかも、その鍵でしか開けられない部屋の扉もあるって話よ。教会ですら開けられなかった部屋があるとかないとか」

「他の迷宮でも使えるの?」

「さあ、使った人の話は聞かないわね」

 ちょっとのつもりが随分長話になってしまった。

 気を取り直して僕たちは迷宮に向かった。



「あのさ……」

 ゲートを潜った先で、誰もいないことを確認すると僕は言った。

「迷宮の鍵、見つけたかもしれない」

 三人は冗談だと思って笑った。

「下手な冗談なのです。神様が空から降ってくるのです」

「きのう『闇の信徒』が持ってた物なんだけど」

 僕は懐から恐る恐る鍵を出してみんなに見せた。

 三人とも言葉を失った。

「いるのね、強運の持ち主って」

 ロザリアが鍵を指でつつく。

「悪運かも知れないけどね」

 ロメオ君もなめ回すように見ている。

「すごいのです」

 リオナは素直に喜んだ。

「開かずの扉か……」

 ロメオ君がまだ見ぬ扉を思い浮かべている。

「なかにバンパイアがいたりして!」

「怖いのです」

「飼い猫が?」

 ロザリアが笑いながらリオナに抱きついた。

「後で試してみよう。宝箱は例のコボルトの丘に山ほどあるから」

 ロメオ君が言った。

 例の事件に巻き込まれた場所か。確かにあそこなら宝箱に事欠かない。


 とりあえず今は、地下七階を突破することに集中しよう。

 僕たちは装備を確認した。

 ロメオ君は新たに手に入れた指輪を装備した。本人曰く、攻撃力五割増しだそうだ。

 余った装備はロザリアとリオナが身につけた。

 一発しか撃てない重い杖は雷魔法を習得する際のイメージトレーニングのため、保管しておくことに決めた。現在は光魔法以外の魔法を習得したいというロザリアの練習用になっている。より良いものが手には入った時点で売り払う予定である。

 黒いローブは今すぐ羽織りたいくらいの性能なのだが、やはり出所の怪しさが気になって誰も着たがらなかった。修繕だけしてお蔵入りである。


 地下七階の敵は火蟻たちである。ワーカーとかトランスポーターとかウォーリアとか細かい分類はあるが面倒くさいので一まとめだ。性能はほぼ同じ、ウォーリアは特に好戦的だという情報だが、こいつら一匹攻撃すると仲間を呼ぶので結局、選択する意味がない。火鼠とはまた違った鬱陶しさを持っている。

 さらにこいつらの吐き出す炎は火蜥蜴タイプの粘液攻撃である。ただしこいつらの粘液は爆発する。魔法で言えば爆炎(フレア)に近いものだ。火蜥蜴の燃え続ける粘液とは別の危なさがある。

 どちらにしても、得られるものは火の魔石(小)しかないのでさくっとクリアーする予定だ。

 接近戦は禁止、粘液を吐かれる前に殺る、が原則だ。


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