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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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闇の信徒3

 その後スケルトン先生とやり合ったが、集中力が切れてメタメタだった。

「やる気のないやつはとっとと帰れ」と思い切り殴られた。

 唯一の収穫はあれほど苦手だった『雷魔法』を習得できたことだ。『雷の杖』を雑魚相手におもしろ半分に使っていたら、いつの間にか身に付いていた。

 結局、やる気が失せたのと、疲れたのとで、これ以上の継続は不可能と判断し、地上に戻ることにした。

 一階に飛び、地下蟹を一匹仕留めると、全身丸ごと解体屋に送った。

 転送した瞬間、感動が込み上げてきた。

 冒険当初の苦労が偲ばれたのだ。蟹の脚を荷台に詰め込み、右往左往していたあの頃の自分が脳裏によみがえったのだ。

 もっともこの制度を当時の自分が知っていたとしても、契約料は払えなかったはずだから、結果は同じなのだが。


 解体屋のレンタル占有制度の最低ランクの契約(一日、占有スペース一メルテ四方)で一月金貨一枚。

 地下蟹の大きさを送ろうとするとランクが上がって、一月金貨五枚は必要になる。それも縦に積んで一日三、四杯が限界だ。

 これに解体手数料がプラスされることになる。一日に狩る量が決まっている人向けの契約だ。

 一方、歩合制は一月の儲けで決める契約で、占有スペースはゆるめの契約になっている。

 契約保証金は最低で一月金貨十枚だ。

 保証金というのは、この場合、歩合制で金貨十枚以上、解体屋に儲けさせることを保証するためのお金だ。つまり歩合一割の場合、金貨百枚の純利益があって始めてチャラになる契約のことである。

 足りないと、歩合の支払いと保証金の両方が取られることになるが、普通は取り返そうとは思わない。一割は解体費用だと思っているし、保証金は契約基本料だと思っているからだ。もちろん僕もだ。取り返せればラッキーぐらいな感覚だ。

 僕の場合、今回エルーダの解体屋でした契約は、スポットで、契約の第三ランク、スペースフリーで歩合一割、保証金金貨五十枚である。

 まあ、火鼠の支払いだけで既に十五枚ほど払っているので楽勝だろう。


 解体屋で蟹の肉をお持ち帰り用に二つのブロックに分けて貰い、残りは売り払った。

 両手が塞がり歩きづらくなったので、途中で杖と蟹肉の包みを中庭に送った。杖は支え棒になるので盾の方を送ればよかったと後悔した。

 回収したいらない小物を現金に換えてから修道院に向かった。


 修道院に戻ると中庭に通された。今回装備品はさっき送った杖以外は不作で銀のメイスぐらいしかこちらに送らなかった。

「申し訳ない、午後は不作だった」

 実際、小物は豊作だったのだが、言ってもしょうがないことなので黙っておく。

 変わりと言ってはなんだけどと注釈しながら、シスターにお土産の蟹肉の包みを一つ手渡した。

 子供たちは包みを抱えてはしゃぎながら台所に消えた。

「これは午前中の売り上げです」とひとりの少年が小切手と小銭の入った袋と伝票を僕に見せた。

 どうやら彼がギルドに売りに行ってくれたらしい。直立不動で、こちらの返事を待っている。大金に若干ビビっているようだ。

 午前中の売り上げは、金貨七枚ほどだった。

「意外に多いな?」

「ええと、付与装備の一つに高値が付いたんです。それが金貨三枚分です」

 金貨三枚では高値ではないのだが。あの程度の付与でというのなら確かに高値な気もする。

 僕は自分の巾着から報酬の一割を取り出すとそばにいたシスターに手渡した。そして約束の仲介料、銀貨一枚を少年に渡した。少年はすぐさまそれをシスターに預けた。

「ありがとう、助かった」

 僕は笑顔を少年に向けた。

「たった一日で、銀貨七十一枚ですか……」

 シスターは困惑していた。

「収入は不規則ですから、当てにされると困りますが、これも神の思し召しです。それから、今度からギルドには大人が行くか、付いていってあげてください。見ての通り大金ですから」

 シスターは頷いた。

 そんな大金を無造作に鞄に詰め込む自分はなんなんだと、どこかむなしさが込み上げた。

 一日の糧を得られる喜びを知る彼らの方が幸せなのではないか? この村に初めて来たときの自分もそうではなかったかと。

 僕はアンニュイな気持ちになりつつ、お土産を持って家路に就いた。

 リオナの顔が見たい。美味しそうに肉を頬張る彼女の幸せそうな笑顔が見たい。



「蟹なのです……」

 リオナは残念そうな顔をした。

 蟹ステーキの何が不満だよ!

「うんまい!」

「これが蟹かぁ? うんまいなぁあ」

「変な味だけど、うんまい」

「ジューシーです。お肉とは全然違うおいしさですね」

「ほいひい。ほいひいね」

 今日も五人組が来ていた。

 まあ、お前らの笑顔でもいいや。


 食後、アンジェラさんに『闇の信者』の話をした。

 彼女は知らないと言い、「迷宮のことはギルドか教会に聞けばいい」と言うので、ソファーに転がっているロザリアに尋ねた。

「管轄の教会なら何か知ってるかも知れないですね。建設中の資料なんかも残っているかも知れません」ということだった。

 少年三人と風呂場で馬鹿騒ぎをして、僕はすぐ床に就いた。思った以上に疲れていたのだろう、すぐに深い眠りに落ちた。

 リオナは氷の指輪で池の水を凍らせ、アンジェラさんに怒られるまで、ロザリアとエミリーと一緒に遅くまで遊んでいたという。



 翌日、僕たちは迷宮に行く前に修道院に出向いた。今日の相手は地下七階の火蟻(ファイアアント)と地下八階の火蜥蜴だからゲートの利用はたぶんないと断った上で、『闇の信徒』について訪ねてみた。

「ああ、そのことですか」

 シスターはあっさり答えた。

「一言で言うなら迷宮の警備兵といったところですかね。昔から迷宮がなんらかのダメージを受けると、目撃されるようになるらしいです。傷つけた人を排除するために迷宮が生み出す暗殺者だとおっしゃられる方もいますね。最近迷宮が傷つけられるようなことがあったのでしょうか?」

 大当たりですよ、シスター。

 壁の一件を思い出して僕たちは顔を見合わせた。

「毎日出るんでしょうか?」

「それはわたくし共ではなんとも。ただ過去の事例だと一週間もすれば消えるらしいですよ」

「一体だけですか?」

「数が出たという話は聞いたことがございませんね。その辺はギルドに聞かれた方が確かかと思います」

「吸血の方は?」

「古い伝説の名残でしょうかね。迷宮はかつてバンパイアが造ったものだと言う風評がございまして」

「眉唾よ」

 ロザリアが即行で突っ込んだ。

「その通りでございます。バンパイアは想像の産物。実在はしません」

「じゃあ吸血というのは」

「単に伝説にあやかったものではないでしょうか?」


 それ以上の情報は得られなかったので、マリアさんの所に行って同じ質問をした。

 すると「あんたたちまた何かしたんじゃないでしょうね?」といきなり勘ぐられた。

 やったのはカミール氏で、僕たちじゃ、ありませんから。

 職員がそそくさと動き始めた。

「警戒レベルを上げるのよ。で、あんたたちはどこで遭ったの?」

 すぐさま地下三階から五階までのフロアーが凍結になった。ギルド職員によって隅々まで調べられるのだそうだ。つまり、信徒は一体ではないということだ。日が変われば再沸きする可能性もあるらしい。

 僕は吸血装備のことも話した。ロメオ君が着るのを嫌がったのでお蔵入りになっているが、どういうことかと尋ねてみた。

 意外な答えが返ってきた。

「いるわよ。バンパイア」

 マリアさんはからかうように笑った。


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