スケルトン先生
一日働いたら一日休む。
みんなは私用で出ているので、僕も出かけることにした。
スケルトン先生に会いに行くのである。久しぶりのソロプレイだ、緊張する。
エルーダに着くと修道院に物資搬送用のゲートを使わせてもらう許可を貰って、お布施を行う。
どうやら修道院の惨状が教皇様の目に止まったようで、改修の話が出ているらしい。治外法権ではあるが営業許可も一応領主にとって、ゲートも教区教会が改めて用意するらしい。シスターが嬉しそうに話してくれた。
一方既に詰め所にいたメアリーさんは僕の顔を見るなり嫌な顔をした。
「君のおかげでわたしは懺悔する羽目になりましたよ」
厳密に言うと僕というよりロザリアだが。同罪ではある。
「すいません。強引すぎました」
「納得したわけじゃないですからね」
「はい……」
「お昼一回分で手を打ちましょう」
「はい?」
「忘れてあげます」
「ありがとうございます。では昼頃には戻ります」
リオナの腹時計がないから、時間が読めないんだが。早い分には構わないだろう。
地下四階、スケルトンナイトのエリアだ。
先客は一チーム。狩りというより、通過が目的のようだった。
「では始めるとするか」
最寄りのスケルトンを探す。ナイトではなかったので燃やした。
前回の教訓から付与装備以外は放置する。
三匹目でスケルトンナイトに当たった。
「いざご教示願います」
僕は二匹目のスケルトンから回収した剣を構えた。僕の剣では勝負が一瞬で付いてしまうので、今は鞘のなかだ。
僕はジワジワと接近し間合いを詰めた。間合いは当然、リーチの長い先生の方が遠かった。
いきなり喉元目掛けて突いてきた。
僕は咄嗟に身体を捻り、剣を跳ね上げた。
切り返して首を刎ねてやろうと、腕に力を込めたところに盾が飛んできた。
はじき飛ばされて、全身を壁にしたたかぶつける。
「いってぇ……」
さすが先生。いきなり『シールドバッシュ』かよ。
「今度はこっちから攻撃だ」
剣を振り、切りつけるもことごとく盾で防がれる。
「くそー、やりづらいな」
まるで隙がない。生前は名のある剣士だったとか変な設定ないだろうな?
何合か目のこと。
やった!
一瞬の隙ができた。
今度こそ!
盾が後ろに大きく流れたところに僕は剣を撃ち込む。
だがそれも身体を捻られてかわされる。
剣を退くタイミングに合わせて先生が剣を薙いだ。
大振りだ。ただ牽制するために横に大振りしたものだと思った。
フェイントだった。
当てる瞬間、手首をゆるめ、剣の先を後方に寝かせたまま振り抜くことで、切っ先の到達を遅らせるのだ。身体の回転だけで切るので威力は落ちるが、当たり所が悪ければ死ぬのは同じだ。
一瞬遅れて剣先が届く。
サリーさんによくやられた技だ。切られた方はなぜ切られたのかわからない。完全にやり過ごしたタイミングで切りつけられるのだ。
サリーさんの剣は見えなかった。でもスケルトン先生の剣の軌跡は目で追える。
さすが教官。指導に抜かりはない。
僕が避けて姿勢を戻すタイミングで、先生の剣の切っ先が通過する。
鼻先をかすめた。
「あぶなッ!」
僕は仕切り直すために回り込む。盾のない方、ない方に。
先生がいきなり突っ込んできた。
『ステップ』だ! 跳躍距離が急に伸びた。
僕も咄嗟に引き下がるが壁にぶち当たる!
しまった!
間髪入れずに先生が『連撃』を放つ。
僕は結界を張る。
剣が弾かれて、先生のバランスが崩れる。
僕は首を刎ねた。
骨はガラガラと崩れ去り、剣は骨のなかに埋まった。盾がゴンッと重い音を立てて床に転がった。
「結界を使ってしまった……」
戦いに勝って勝負に負けた。
装備品を回収する。身体強化の指輪が一つあったので自分の指に嵌めた。ただの盾だがそれも回収した。
新たな先生を見つけた。
僕は盾を前面に押し立て突っ込んだ。低い姿勢から突き上げる感覚で盾を押し出す!
先生も負けじとぶつかった。と思ったらすかされた。僕は転んだ。振ってくる剣を慌てて避けた。
「こえぇええ……」
あんな動き普通するかよ。
駄目だ、技量が違いすぎる。まさに先生と生徒だ。
さっきの先生とはまるで違うタイプだった。同じスケルトンナイトなのに。
この先生は盾捌きがうまい。
どんな攻撃も軽くいなす。
「くそっ、鈍器だ! こういうやつには鈍器しかない!」
でも僕の腕じゃ、それすら簡単に捌かれるに違いない。
僕は距離を置いた。
そして最初の先生が見せた戦法を試そうと剣を構える。
『ステップ』からの『連撃』。
僕は床を蹴った。
盾が顔面に飛んできた。
先を越された!
ガンッ! 大きな音がして気が遠くなった。
また負けた……
結界を張り、這いずるように必至に距離を取ると、また燃やした。
「畜生…… 頭蓋骨にヒビが入った」
転がってる装備を確認した。盾に軽量化の付与が付いていた。僕は使っていた盾を捨てて乗り換えた。
気分転換にスケルトンを数匹燃やした。
銀装備を持っていたのでそのまま修道院送りにした。後で溶かしてやる。
三人目の先生を見つけた。
ううむ、なんか今度の先生は弱そうだ。
次の瞬間、氷の矢が飛んできた。
え?
ソーサラーの存在を探した。もしかして見落としたのか?
だが、目の前にいるのは先生だけだ。
「付与装備か……」
スケルトンの魔力なんて高が知れている。精々撃てて数発。
僕は盾を構えて、先手を打つ!
『ステップ』を発動して間合いを詰めると、盾をぶつけて盾ごと相手をはじき飛ばす。
いなされても姿勢を崩さないように。前のめりにならないように腰を落とす。
手応えがあった。
先生の盾を持つ片腕がもげていた。
このまま攻勢を掛ける!
僕は隙だらけの胴を薙ぎに行く。
先生が距離を置こうと後方に飛び退く。
次の瞬間氷が僕の胸に命中する。
一瞬の間ができた。
先生は、床を蹴って間合いを詰める!
そこへ『シールドバッシュ!』。
出鼻を挫くためにこちらも踏み出し、一撃を加える。『連撃』に入ろうとしたところで、先生の頭が床に転がった。
呆然と立ち尽くした……
頭蓋骨の行方を目で追った。
「やった……」
やった!
「勝った!」
勝てた! 魔法を使わずに勝てた……
嬉しくて全身が震えた。久しく感じたことのない感動だ。
あれ? 僕『シールドバッシュ!』使った?
おおっ! 新スキルゲットだ。
『認識』スキルを自分に使ったら、新しいスキルが増えていた。
僕は装備品を確認した。案の定、氷の矢が発動する指輪を見つけた。
「リオナにやるか」
それから昼になるまで、僕は雑魚敵数体と先生ふたりと対戦した。
雑魚は燃やし尽くしたが、先生には全敗した。
雑魚からは銀の武器が二本手に入った。後は宝石の入った指輪が五つと付与装備が一つ。
僕は万能薬をすすり気を取り直してから、メアリーさんとの昼食に臨んだ。