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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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ロメオ君育成計画(火鼠編)2

「数が一向に減らないんだけど……」

 地下六階に降りたって早一時間、僕たちは火鼠(ファイアラット)に苦しめられていた。

「いっぱいいすぎて分かんないのです」

 リオナもさじを投げている。小物ばかりだと思って歯牙にも掛けていなかったのに。あまりの数の多さに音を上げていた。


『火鼠、レベル十、オス』


 まだ隙間に隠れていたか……

 僕は火鼠を凍らせる。

 ほとんど雑魚のはずの鼠がこのフロアーでは悠々自適に生活していた。建物はすっかりこいつらの生活圏になっていて、壁にも床にも天井にも崩落跡や亀裂、鼠の巣穴が開いていた。

 彼らはそこを塹壕にしてゲリラ戦を挑んでくるのである。

 おかげで来ると分かっても手が出せないことがしばしば。

 リオナはそれが悔しくてならないのである。たまに遠くからなめきった視線を向けてくる無防備な愚か者を銃で仕留めて憂さを晴らしている。

 魔法使いがいなかったら相当攻略に困るフロアーになっていたことだろう。

「ロザリア、蛇召喚して、蛇」

 リオナはだれている。解体要員が板に付き始めていた。

「できるわけないでしょ。わたしは召喚士じゃないんですからね」

 リオナの面倒はロザリアに任せるとして。

「たいしたことないと思ってたのに、実践はハードだよね」

 ロメオ君は敵を察知すると淡々と穴のなかに爆発(エクスプロージヨン)をぶち込んでいく。するとなかで爆発が起きて穴という穴から火鼠がポンポンポンと飛び出してくる。

 鼠といっても猫ぐらいにはでかい奴らで、こいつらの皮から作られる装備は耐火性抜群の高価な品々になるのである。鍛冶屋の衣服も確かこいつらの革でできているはずだ。皮一枚じゃ価値はないが、集まれば高値で取引されるのである。


『依頼レベル、C。依頼品、火鼠の皮。数、三十。期日、土前月(つちのまえづき)五日。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨三十枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 壁の穴から四、五匹が飛び出してきて反対側の壁に激突して地面に転がっていく。壁のなかで繋がっているので、爆風に押されて他の穴から飛び出してくるのだ。

 本来壁が壊れてもおかしくない威力である。まず間違いなく弾丸になって飛び出してくる。

 壁の向こうに押し出された分は、間に合えば回収する。気絶して原形を留めていればラッキー、火の魔石(小)になっていたら残念賞だ。

 皮を傷つけないように腹を割いて、手分けして核を分離していく。そしてある程度数がまとまると紐で縛って解体屋に送る。ちなみに鼠の肉は養殖ワニの餌になるので安いけど引き取ってもらえる。

「今度は床か」

 なかなか前進させてくれない。

 思わずロザリアの魔除けの呪文に頼りたくなってしまうが、ギルドランクを上げるための苦行だと思って我慢する。

 僕は水流(カレント)で床を水浸しにする。

 しばらくすると、洪水を免れようと穴から火鼠がワラワラ出てくる。それはもう通路の遙か先まで。そこへロメオ君が電撃をぶちかます。床はちょうど濡れているから濡れ鼠共は一匹残らず感電して昇天していく。穴で死んでる奴らも水で押し出してやるとぷかぷかと浮いてくる。

 捌くのが大変である。一度に十匹はざらである。魔石になる前に捌くだけでも一仕事だ。

「これで二回分ぐらいは獲れたね」

 確かに六十匹以上は仕留めたはずだ。それなのに『魔力探知』に引っかかる敵の数は減った様子がない。隙間が空くとそこへゾロゾロと周囲から集まってきて元の木阿弥になる。

 その間に僕たちは出口に向かうので無駄ではないのだが、焼け石に水ではある。


鼠男(ラットマン) レベル二十四、オス』


「保護者発見!」

 通路の丁字路にたいまつを持った鼠の顔をした猫背の男が現れた。

 巡回モンスターなのだが、こいつは基本的に攻撃してこない。まさに巡回だけする魔物だ。

「どうする?」

 僕はロメオ君に聞いた。

「あれ、殺らないといつまでたっても火鼠減らないよね」

 資料によると鼠男を殺ると、このフロアーの鼠が完全消滅する仕組みになっている。ただ通り過ぎるなら殺るべきだが。

「とりあえず拘束しましょうよ。また探すの大変でしょ」

「さっき落とし穴あったよね」

 ロメオ君が吹き飛ばし、僕が死なない程度に凍らせた。それを担いで落とし穴に放り込む。

 ちなみにこのフロアーには罠はない。たまに床が崩れて落とし穴になっているが、判定では罠扱いされていない。でも落とし穴は落とし穴だ。

「ゴールに辿り着けることを期待しててくれ。でないとあんたを」

 かっこよく捨て台詞を吐くとロメオ君に失笑された。


 僕たちは出口を探しながら狩りを続ける。そうこうしていると突然リオナが「大勢入ってきた」と言って、入り口の方を振り返った。

 火鼠が多くてはっきりとは分からなかったが、二十人近い人数が脱出部屋に集まっているのが見て取れた。

「なんだ?」

「このフロアーを数で攻略するつもりなのかな?」

 ロメオ君が言った。

「数には数を、ってこと?」

 ロザリアが呆れている。

「問題は、隠れた敵をどう引きずり出すかということだろ? 火鼠自体は弱いんだから、数だけ揃えても」

『魔力探知』で見ても魔力の高そうなやつはいない。

 戦闘が始まった。

 火鼠も賢くて一定のエリアまで冒険者を引き込んでから囲いに掛かっている。

「敵の動きが見えていないですね」

「まさか、この迷宮に素人が来るとは考えにくいんだが……」

 全員が顔を見合わせた。

 どうせすぐ引き上げるだろうと僕たちは先を急ぐことにした。

 じっとしているとこっちまで囲まれてしまう。

 何が起きたのかは地上に出てからのお楽しみだ。こんな馬鹿げたことをしている奴らなら噂になるに違いない。

 僕たちは後ろ髪を引かれつつも、踵を返してゴールを目指した。


 ポンポンポンと火鼠が飛び出してくる。

「なんかもう飽きてきたな」

 既に依頼書五枚分ぐらいは狩ったよな。解体屋もさぞ泣いていることだろう。

「これくらいにして、お昼にしましょうか?」

 僕たちは結局、昼まで火鼠の相手をして鼠男を置き去りにしたまま、次のフロアーの階段を降りた。団体さんは火鼠と乱戦になっていつの間にか消えていた。


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