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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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ロメオ君育成計画(共同炊飯場建設案を作る)1

 東の高地の調査依頼は後追い確認が取れないことには報酬が出ない。つまり、湿地帯がなくならなければ、測量班たちも現場に辿り着けず、みんなで提出した三十枚にも及ぶ調査レポートは埃をかぶったままになる。

 そうかと思えば、この町が開放される以前に作られた周辺地域の二百枚にも及ぶレポートに対する報酬が今になって支払われたりする。

『依頼レベル、不問。依頼内容、地域偵察。数、指定場所一件に付き所定のレポート一枚。期日、火後月の末日まで。場所、ユニコーンの森。報酬依頼料、金貨一枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドスプレコーン出張所』

 確かこんな依頼だった。

 三十枚のレポート用紙と引き替えに僕は金貨二百枚を手に入れた。

 僕は家に戻ると長老議会を招集した。


「金貨二百枚ですか?」

 ユキジさんが驚いた。

「そりゃ、またすごいの」

 トビ爺さんが笑った。

「それで、使い道なんだけど。みんなに還元できるいい方法はないかな?」

 レポートは元々この森に住んでいた獣人とユニコーンによってもたらされた情報だった。

「ユニコーンには新しいブラッシング用のブラシがいいじゃろう。古くなってへたれて来たからの」

「いったいいくつ買う気じゃ。金貨一枚分にもなりゃせんて」

 トビ爺さんの発案にホッケ婆ちゃんが突っ込んだ。

「冬に備えて避難所に代わる場所がほしいところですね。ユニコーンも滝の裏では寒いでしょう」

 ユキジさんが提案した。さすがユキジさん。

「それならいい案がある。温室なんてどうだろ?」

「温室?」

「ガラスの棟の展望室みたいなものかいの?」

 僕は老夫婦に頷いた。

「あの子たち、もうちっと軽ければガラスの棟に入れてやるんじゃが、いかんせん重いからのぉ。床抜けるじゃろ」

 ホッケ婆ちゃんが言った。

「温泉の排湯があるから、熱源には困らないよ。ガラスの棟の近くで日当たりのいい場所に作ってやろう」

「ユニコーンへの報酬はそれでよいとして、村の連中の分はどうしましょうか?」

「それなら、要望があるっぺよ。村のなんつった? 若さんが作ったあれ。なんとかいう箱あったっぺ」

「『目安箱』じゃろ?」

「そだ、それ。『目安箱』。そんなかの金の掛かる依頼片付けてやったらいいっペよ」

 相変わらずの訛りだな、ポンテ婆ちゃん。


 僕たちは早速目安箱を回収してきて、中身を開いた。

「『夫のいびきが酷い』? 名前を書かにゃ、誰の悩みか分からんじゃろ。そそっかしいやつじゃの」

 トビ爺さんが却下した。

「『妻の料理の味付けをどうにかしてくれ』? こりゃ、サラんとこの旦那の悩みだっぺ。結婚してから三十年も経って、今更何言っとんじゃ? あのボケナス」

 ポンテ婆ちゃんが撥ねた。

「『この熱い想いをどう伝えればいいんだか。肉か? 肉なのか? 彼女の肉の好みを聞いてきてけろ』……」

 ユキジさんが、黙ってゴミ箱に投げ捨てた。


 依頼というよりどれもお願いレベルだった。

「おお、これなんかどうじゃ?」

「うむ、これはなかなか」

「依頼者はムムカか。あの子はほんにできた子じゃ」

 選ばれた依頼は『共同炊飯場を冬でも快適に使える場所にしてほしい』というものだった。

 共同炊飯場とは人族でいうところの台所だが、人族と違って一軒一軒に必ず付いているものではない。元々狩猟をしてきた獲物をその場で捌いてみんなで分け合うのが獣人族の習わしだ。井戸と共に広場にまとまってあるのが当たり前なのだそうだ。解体する場所も調理する場所も一箇所に固まっていた方が何かと効率がいいらしい。

 そんなわけで共同炊飯場もモダンな温室にする案が採択された。

 煮炊きする場所なので風と天候さえしのげればそれなりに温かいので暖房はいらないそうだ。

 僕は早速、井戸に掘っ建て小屋の現状を変えるべく、井戸を中心に丸く煉瓦で囲ったおしゃれな炊事場を設計した。絵にするだけだけど。天井は八角屋根。中央に換気口代わりの越屋根(こしやね)を付ける。側壁には明かり取り用の雲母ガラス。床は土間にしてかまどに調理場、水場を設ける。調理場と分けて解体スペースも設置する。

 何となく形になったところでいつも通り、長老と大工さんに丸投げである。



 家に帰るとちょうどロメオ君が訪ねてきた。

 リオナもロザリアも準備万端である。

 夏の後半戦。僕たちは本格的に迷宮攻略に挑むことにした。そうは言っても週三日のペースだけどね。

 いつも通り振り子列車で現地に向かうと、僕たちはまずマリアさんに会いに行った。先日の割り符を返して貰うためだ。

 割り符を受け取ると裏手に回って、商業ギルドで現金に換えた。

 金貨二千枚になった。ロザリアは口を開いたまま、しばし呆然としていた。

 僕たちはその足で迷宮入り口の詰め所にいるはずのメアリーさんの元を訪れた。

「どうやら無事だったみたいね」

「おかげさまで」

 僕は挨拶を済ませると本題に移った。

「修道院の庭を貸してほしい?」

 メアリーさんが聞き返した。

「はい。迷宮で回収したものは解体可能なものならば解体屋が引き取ってくれますが、装備や魔石などは引き取ってくれません。自力で外に持ち出さなくてはなりませんが、迷宮の階段構造がスムーズな荷物運搬を妨げています。ですから回収したアイテムの転送先にお庭を貸して頂きたいんです。物件を借りて勝手にやるのも手ですが、どうせなら生きたお金の使い方をしたいんです」

「そのようなことが可能なのですか?」

「可能です。我々『銀花の紋章団』には携帯型の転移ゲートがございます。元々軍事用のものですが、それを設置させて頂ければ問題ありません」

「しかし、そんなことをしては」

「修道院は治外法権ではありませんでしたか?」

 ロザリアが口を挟んだ。

「それは……」

「報酬の一割を寄付させて頂きます。それとこれは準備金です。修道院の壁の修理にでもお役立てください」

 僕は金貨の袋から二十枚ほど取り出した。

「一存では決められないので今夜相談してみます」

 粘っても彼女に迷惑なので、立ち去ることにした。明日改めて話し合うことにする。

「いっそのこと教皇様に頼んでみる? 修道院に予算付けるか、でなきゃゲート置かせろって」

 ロザリアが仲間内の会話をこれ見よがしに聞こえるように発言する。

「そうだな。正式にゲートを置いて運用してくれるとありがたいよな。孤児院を運営してるんだから恒久的な収入源は必要だよな」

「前回の事件の報酬一ルプリも貰ってないしね。いいんじゃないかな」

 ロメオ君も乗ってくる。

「じゃ、お母様に手紙書くわね」

 メアリーさんは目を白黒させている。

「一体どういう……」

「ここだけの話、彼女、教皇の孫なんです」

 完全に青ざめた。血の気が失せたようだ。

「つまりメアリーさんたちは命の恩人なんですよ」

 その後話はトントン拍子に進み、ゲートの設置も抵抗なく行われた。

 そして、一ヶ月後、修道院で正式に受け取り業務が開始されることになる。あれほどみすぼらしかった修道院は大きく生まれ変わることになる。まさに捨てる神あれば救う神ありである。


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