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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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これのどこが避暑地なの? 16

 今朝、「領主館に集まるように」と使いの者が来た。

『キックベースボール』に興じてから、一週間ほどが過ぎた木後月(きのあとづき)十六日早朝のことであった。

 十五年前の『教皇暗殺未遂事件』並びに『教皇一族毒殺事件』にようやくけりが付いたとのことであった。

 僕たちはほっと胸を撫で下ろし、領主館に向かった。


 事件の主犯は教会の反主流派の枢機卿数名と、パトロンをしていた北の辺境伯とその一派の貴族たちであった。辺境伯まで関わっていた事実にさすがに国王も驚いたらしく、すぐに人員を刷新、新たな辺境伯を派遣したそうである。

 逮捕された元辺境伯は「家名と引き替えに」と遺言を認め、獄中で自害した。が、「罪を償うことなく自害した者の嘆願聞くに値せず」と言って、国王はその行いを厳しく断罪した。

 部下の罪を減刑してくれというならいざ知らず、家名のためにとは、どこまでも救いようのない御仁であった。

「何も言わずに死んでくれればよかったのに」と、身内からも非難の声が上がる程であったらしい。

 残された家族はお家断絶にこそならなかったが、改宗を条件に辺境の小貴族からやり直しである。

 また本件とは別に、今回あからさまに動いた反教皇派の組織が解体、国外追放となった。枢機卿に騙されたのだと言い逃れするも、実際に武装し、決起した事実に変わりなく、代表者と戦闘に荷担した者たちは全員拘束された。

 最終的な逮捕者は貴族、反主流派含めて二百名を超える事態となった。



 事件に関わった多くの者たちは、既に十年以上に及ぶ教皇の治政において、自然淘汰されて消えていた。

 今回逮捕されたのはそれでもしぶとく残っていた敵の本丸と言えた。

 カミール氏が偽物を演じながら、長年教皇を支え続けてきた苦労が遂に報われたのだった。

 事件は既に教皇一家の十五年に及ぶ復讐劇として語られ始めた。


 半年後改めて、枢機卿の選抜選挙が行われる。空白になった枢機卿の席を選び直すための選挙である。

 兄エドアルドの影武者としてではなく、カミールとしての出馬が期待されているらしい。

 僕にはどうでもいいことなので、この辺は聞き流す。


 それより面白いことがあった。

 あのアルガス卿が退任されたのである。

 何もしないことで有名な怠け者、『存在すれども統治せず』を地で行く彼が、今回珍しく動いたせいでお咎めを受けたのである。いや、動かなかったせいでと言うべきか。

 反主流派の軍勢を国王の許可も無いままに、領土内を越境させ、駐屯させた責任である。

 他の領主たちはポータルの使用は許可しても駐屯まではさせなかった。つまり個人は通したが軍勢を通した覚えはないという逃げ道を用意していたのである。

 まさに何もしないことが仇となった格好だ。それ故、拠点に選ばれたのだろうが。

 拠点を得たことで、エルーダ村の封鎖、スプレコーンへの侵攻、リバタニアへの斥候派遣が可能になったのだから笑い事では済まされない。

 この知らせが何よりヴァレンティーナ様を喜ばせた。

「大義であった。ご苦労」と笑いながらねぎらわれた。

 ロザリアは初めての顔合わせだったせいか、間の抜けた顔をしていた。領主様のざっくばらんさに驚いたようだ。「昔冒険者をしていた」と言ったら納得してくれた。

 それからロザリアは別室にて、急遽ご両親との面会をすることになった。



 そして、二時間後、僕たちはここにいた。

 ロザリアの実の父、エドアルドの遺体回収と、鎮魂の祈りを捧げるためにフェイクドラゴンの巣に向かっている。

 同行者は、姉さんを筆頭に、ロザリアの両親とその護衛。ロザリアとロメオ君とリオナ、そして僕である。

「まさか、人生でもう一度来ることになろうとは……」

 僕はげんなりしながらゲートを潜った。何を好きこのんでまたフェイクドラゴンの巣に来なきゃならんのだ。

 火蜥蜴の団体が僕たちを出迎えた。

 迷宮じゃあるまいし、どうして数が衰えないんだ。

 攻撃準備をしようとしたら止められた。

 護衛とロザリアが、魔物よけの魔法を発動させた。

「近づいてこないです」

 リオナの驚きは当然である。あれだけいる火蜥蜴が皆逃げていくのだ。

 敵は暑さのみになった。大所帯なので僕は姉さんと手分けして冷房を担当した。

 道なりに進むとすんなりゴールに辿り着いた。だが、最後の難関が復活していた。新しい入居者が住み着いていたのである。

「やるぞ」

 僕は最後の曲がり角から出ると所定の位置に着いた。今回は姉さんだけでなく、リオナもロメオ君も遠距離攻撃に参加する。僕の仕事は重大だ。みんなの壁にならなければならなくなった。

 前回同様の段取りをして姉さんが魔力を洞窟の壁に注ぎ込む。

 敵が気付くのと同時に僕は結界を展開した。

 今度のドラゴンは賢かった。いきなり首を突っ込まず、横穴のなかにブレスをかましたのだ。

 僕は『完全なる断絶』がブレスに浸食されていくのを感じた。

「これがブレス攻撃か……」

 高温と膨大な量の魔素が混ざり合った息吹だった。

 明らかにこちらの魔素の量が足りていなかった。徐々に食われていっている。でも、なんとなく分かった。ラヴァルに対して僕がしたことを今まさにやり返されているのだと。

 だったらもう少し保たせることはできる。

 魔素の食い合いなら、僕もたぶん得意だ。

 僕はブレスのなかに含まれる魔素を吸収しながら、こちらの障壁の材料として変換させていく。

拮抗している箇所が実体化して液体のように溶けていく。

 僕はここでいいことを思いついた。「膨大な魔力」と聞けば思い出す。『楽園』開放である。

 僕はブレスの魔素を完全に吸収してやった。

 残念ながら『楽園』を開放するほどの魔素は残っていなかった。『楽園』に閉じ込めて料理してやろうと思ったのだが、残念だ。

 しかし、もはや高温の熱波でしかない。

 僕は結界に加えて、風と氷の魔法で対抗する。吸収した魔素はまだまだあるぞ。というか開放してやらないとまずいかもしれん。


 ブレスが収まり侵入者の排除が済んだと勘違いしたドラゴンが今度こそ、横穴に首を突っ込んできた。

 ゴルルルル……

 僕たちが頭を確認したところで、姉さんはドラゴンの首をギロチンに掛けた。

 暴れようとしても後の祭りであった。

 今回はへし折るような無茶はせず、力をセーブしたようだ。

 ロメオ君とリオナの一斉攻撃が始まった。ドラゴンの結界で減衰してはいるが、どちらも貫通しているから驚きだ。

 僕も溜まっている魔力を開放することにする。ライフルに『魔弾』を装填して、銃が壊れない程度に魔力を込めてぶっ放す。

『魔弾』は易々とドラゴンの結界を貫通する。

 ドラゴンが痛みに悶え苦しむ。

「さっさと止めを刺せ!」

 姉さんも押さえつけているのが精一杯らしい。

 ドラゴンが頭を抜こうと必死に壁を蹴る振動が伝わってくる。

 僕は眉間目掛けて『魔弾』をありったけぶち込んだ。

「お前のブレスを丸ごとお返しだ」

 ドラゴンは断末魔の叫びと共にズシンと頭を地に落として息絶えた。

 僕は残った魔素を冷気に変えて放出した。洞窟内がほぼ適温になった。

 ロザリアの一家は顔面蒼白でこちらを見つめていた。隠れてろと言ったのに。

「まさかドラゴンのブレスを防げる者がいようとは……」

 カミールさんも声が出ないようだ。

「まさか完全に防ぎきるとはな」

 姉さんも正直驚いているようだ。僕以外のメンバーが全員万能薬を口にするなか、僕だけはケロッとしていた。

 僕は却って、魔力過多の状態だった。僕は無駄な魔力を利用して、壁のなかに緩やかな地下通路を作った。ロザリオのお母さんもいることだし、手すりのないむき出しの階段を降りるのは怖いだろう。

 穴を掘ったらようやく僕も落ち着いた。

 ドラゴンの巣の床に降り立った僕たちはドラゴンの亡骸を解体屋に送った。前回よりでかい敵であった。

「これでまた船が建造できるね」

 ロメオ君も興奮しきりだ。

 

 姉さんはエドアルド氏の遺体の場所に家族を案内した。

 骨も満足に残っていない、衣装だけが形を留めている場所に。

 衣装を調べ本人と確認すると、花が手向けられ、祈りが捧げられた。そしてお骨入れに原形を留めた骨だけを粛々と収めていった。ロザリアの目が真っ赤になっていた。

 その場の他の亡骸に対しても、カミール氏と奥方は聖職者らしく祈りを捧げた。

 すべてが終ると姉さんはゲートを開いた。


 かくして一連の事件は終わりを告げ、ロザリアは晴れて我が家の一員となった。

 

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