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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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これのどこが避暑地なの? 15

 翌朝、五人の子供たちが我が家に集まり、僕たちと一緒に朝食を食べていた。

 テト、ピノ、ピオトの他に女の子のチッタとチコが一緒である。チッタとチコは姉妹だ。なぜかトビ爺さんとホッケ婆ちゃんも一緒だった。

「みんな猫族だしの。わしらが面倒みてやらんといかんじゃろ」

 アンジェラさんお手製のベーコンサンドが食べたかっただけだろ。

「なぁ、なぁ、若様、俺たち今日から何すればいいんだ?」

 テトがほっぺたを膨らませながら尋ねた。

 僕に聞くなよ。自分の予定も決めてないのに。

「とりあえず親が来るまでの間暮らす家を決めんとな。それから薪集めと勉強じゃな」

 トビ爺さんが口を挟んだ。

「ええーっ」

 子供たちが不満を漏らした。

「薪を集めんかったら、温かいご飯が食べられねくなってしまうぞ。それでもええだか?」

 ホッケ婆ちゃんの言葉に子供たちは戦々恐々としながらパンを頬張る。

 リオナがパンにごっそりベーコンを挟む。

「あー、お姉ちゃん、駄目ですよ、お肉ばっかり。野菜も挟まないと美人になれませんよ」

 おしゃまなチッタがリオナに言った。

 一番小さなチコが姉に挟んで貰った自分のパンの中身を、周りと見比べて寂しそうな顔をする。

「子供が遠慮してどうするのです」

 ロザリアが、リオナに負けじとごっそりベーコンをチコのパンに挟んでやる。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「ずっけえぞ。俺も挟む!」

 男の子たちも負けじと挟む。

 僕は争いには混ざらず、ベーコン一枚にチーズを挟んでかぶりついた。


 散乱した食卓に野菜がたっぷり盛られたサラダボールだけが残った。

 僕は野菜を小皿にごっそり取った。なぜか子供たちが注目している。

「若様はお野菜好きなのか?」

 隣に座っていたピオトが聞いてきた。

「お肉嫌い?」

 チコも聞いてきた。

「お肉も野菜も好きだよ」

 我が家特製のヴィネグレットソースをかける。酢にオイル、塩、胡椒に秘伝の調味料。

 僕はそんなに美味しそうに食べていたつもりはないのだが、子供たちが真似して野菜を皿に取り始めた。

 そしてモシャモシャと食べ始めた。

「かけて食え」

 僕はドレッシングの入った瓶を子供たちの前に置いた。

「んめええ!」

「これ美味しい!」

 食いつきが変わった。

 どうだ我が家特製異世界風ドレッシングの味は。


「ユニコーンとお散歩の時間なのです。みんな行くですよ」

 リオナが子供たちを引率して出て行く。

「ロザリアはいかないのか?」

「わたしはちょっと。食べ過ぎてしまいました」

 ロザリアとエミリーはこの後リオナが帰り次第、買い物に行く予定であった。

「みんな元気でしたね。リオナもそうですが、獣人というのはみんな、ああなのでしょうか?」

「確かに、たくましいけどね。でもあの子たちは君と同じだよ」

「同じとは? わたしは獣人差別はいたしませんから、そのようなご指摘は――」

「あの子たちの村が最近、奴隷商人たちの焼き討ちに遭ってね。あの子たちも家族を亡くしたばかりなんだ。このままだと故郷も捨てることになるかも知れない」

「そんなことが…… ではあの子たち」

「空元気も空元気。身体を動かして、騒いでいないといたたまれないんだろうね。ここまで子供たちだけで来れたのも、そういう負の原動力があってのことだろうさ。そうだ、この後の買い物、女の子たちだけでも一緒に誘ってあげてくれないかな?」

 ロザリアはじっと僕の顔を見つめた。

 今更値踏みは止めてよね。

「ええと、子供たちも日用品はいるよな。リオナの財布で足りると思うけど。男共はどうするかな」


 男共を誘いに行ったら見事に振られてしまった。

 早くも村の子供たちと仲良くなったらしく、森の散策に一緒に行くことになったそうだ。

「近所付き合いは大変だよな」とか「お土産いっぱい取ってくるからな」とか「夕飯までには帰るから」とか抜かしやがる。

 僕だけ暇になったじゃねーか! て言うか、お前ら夕飯たかりに来る気満々じゃねーか。


 暇だと暑さが身に染みる。

 快晴無風。空が高い。

 避暑地を探していたはずなのに、すっかり辺りは夏に突入している。

 迷宮も快適とはほど遠かった。お化け屋敷で涼む計画もあの劣悪な環境では台なしだ。

 やっぱり閉鎖空間で涼む夏なんて、青春の一頁として不純だったか。


 僕は思い立って『ビアンコ商会』の作業場に向かった。ロメオ君がいるかもと期待したけど、甘かった。マギーさんまでいなかった。

 相変わらず厳戒態勢で忙しそうだった。

 僕個人用の船がもうすぐ完成するという朗報だけ聞いて、工房を後にした。


 やっぱり読書か。僕には読書しかないのか。

 僕は我が家に戻り地下室に籠もることにした。

「ああ、やっぱり地下は涼しい」

 僕は秘密のメモ帳をめくった。

 子供たちのために僕はあることを思いついた。さすがに今回はお咎めないだろうと思えるものだ。

 その名も『キックベースボール』である。

 ローカルルールが多いスポーツらしい。『ベースボール』は道具がたくさん必要なので却下した。

 基本は十一人。遊びだから別に九人でも、七人でも構わない。均等にチーム分けされれば問題ない。最初にボールを投げる投手を置くかはローカルルールなのだが、置かない方向で草案を作ろうと思う。

 ボールは『ビアンコ商会』で売られているものを使う。以前リオナに作ってやったものをプロの手に委ね商品化したものだ。あれならちょうどよさそうだ。

 ホームベースにボールを置いて蹴り出し、一塁に走る。そして二塁、三塁と進み、本塁に帰ってきたら一点だ。五メルテエリア以上飛ばないとアウト。塁上でのリードも禁止だ。

 走者にボールを当ててアウトにしてもよく、ファウルと空振りは二回までだ。三アウトで攻守交代。公式は七回までとする。同点なら延長戦だ。

 ルールブックを作ると僕はグラウンドを作るために家を出た。

「空き地はいくらでもあるけど、どこにするかな……」

 僕はガラスの棟と城壁の間の土地に作ることにした。決め手は城壁があればホームランボールがどこまでも飛んでいくのを防いでくれるからだった。

 僕は風の魔法で茂みを切り開いた。

 生えている木々は伐採して、グラウンドの横に寄せた。生木なのですぐには加工できないので引き取って貰うことにする。

 ベンチや得点ボード、フェンスの材料は『ビアンコ商会』で調達するとして、大工仕事ができる獣人を長老に用意して貰おう。

 魔法で土を掘り返して、大きな石や木の根っこなど、転んだら危ないものを取り除いていく。

 ありったけの魔法を半分やけになって使い、広大な土地を一気に整地した。グラウンドからボールが出ないように周囲の土地を一メルテほど盛り上げ、そこに観覧席を設けた。席といってもただの傾斜地だが。後で芝生でも植えようか。


 ガラスの棟で温泉に浸かっていた連中が物珍しそうにこちらを見下ろす。

 長老がやって来たので、ルールブックを渡して説明すると、早速やってみようと言うことになった。

 今日のところは足で削ってラインを引く。ベースも四角く線を描いただけだ。そうこうしてるとボールも到着して、ゲーム開始である。

『長老ポンタチーム 対 長老ホッケチーム』

 子供の遊びにするはずが、全員年寄りメンバーである。

 大丈夫か骨。


 結果は大成功であった。

 爺ちゃん、婆ちゃんがグラウンドを飛び回り、ファインプレーを連発させていた。

 なんというか、遊びじゃないみたいだった。

『二十対二十一』でホッケチームが劇的サヨナラ勝ちを収めた。

 温泉に入りに来た客がゲームセットまで食い入るように見ていた。

「これはまた面白いものを発明しましたな、若様」

 ユキジさんもやりたそうにウズウズしていた。

 その日は結局、日暮れまでもう一試合が行われ、ユキジさんも大活躍を収めた。

 残りのグラウンド整備は長老たちが任せろというので丸投げすることにした。


 もちろん子供たちの間でも人気の遊びになった。

「若様、俺、ホームラン蹴ったらベース二周してもいい?」

「蹴り返してランナーアウトにしたらこっちの得点にしてもいいよね?」

「百点ポイント溜まるごとに、景品ほしい。ベーコンサンドが食いたい」

 もうローカルルールですらないのだが……


 とりあえず大成功である。


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