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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第一章 マイバイブルは『異世界召喚物語』
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エルーダの迷宮13

「普通は範囲魔法で一網打尽よ。氷系で凍らせて、後は手前から順にね。一匹ずつゆっくりシメていけばいいのよ」

 ウツボカズランの巣の前で、なぜかギルドの窓口嬢のマリアさんが講説を垂れていた。

「マリアさん、なんでここに?」

 それになんて格好。ギルドの制服のままじゃないですか。防御力ほぼゼロですよね、それ。男を悩殺する力はありそうですけど。せめてズボンにしてください。太腿がまぶしいです。

「君が困っているというので、少しだけアドバイスをね。これも新人育成プログラムの一環よ」

 今朝、ギルドに立ち寄って姉宛に手紙を出したとき、たまたま世間話で、ウツボカズラン狩りに苦労している話をマリアさんに愚痴ってしまったのだった。

 わざわざ来てくれなくてもいいのに。と恐縮している僕に彼女は核心をズバリと言ってのけた。

「気にしなくていいわよ。これも営業のうちだから。そんなわけで魔法の使えないあなたに、便利アイテムを紹介してあげるわ。これよ」

 それはなんの変哲もない弓矢と矢筒だった。

「必ず命中するという風の加護の付いた『必中の矢』よ。これさえあれば、あなたも今日から弓の名手よ。今なら三十本で金貨六十枚と言いたいところ、新人育成サービス期間中に付き、なんと半額の金貨三十枚! 三十枚のお値打ち価格でご提供よ。今ならレベル二十代冒険者御用達のこちらの弓も無料でお付けして、なんと、お値段変わらず、お値段据え置きの、ジャスト、金貨三十枚でご提供です。お買い上げはお早めにね!」

 お姉さん無駄に気合いが入ってます。

 でも金貨三十枚はさすがに手が出ない。ほぼ全財産である。

「お買い得よ、ほんとに」

 買い渋る僕に彼女は背中から抱きついて耳元でささやく。当たってる! 当たってますよ! 背中に! 幸せの感触がぁ。

 僕は顔を真っ赤にして、うつむいた。

「すいません。先立つものが、その……」

「あら? なかなか財布の紐が固そうね。そうね、冒険者はそれぐらいの方がいいわね。有り金全部お酒に換えちゃう馬鹿よりよっぽどマシだわ。いいわ。それなら実演販売といきましょうか?」

 彼女はすたすたと弓矢を持ってウツボカズランの巣に入っていった。

 きのうほど数はいないけれど状況は変わっていないはずだった。

「それでは篤と御覧じろ」

 一礼すると、なんの気負いもなく彼女は矢を射た。次から次へと一撃で止めを刺していった。ステップも軽やかにノックバックの向きまで計算に入れて、右へ左へと角度を調節しながら殲滅していく。

 ウツボカズランに反応されることなく、手前に安全地帯ができあがった。マリアさんは『必中の矢』を回収しながら、腰に挿した小刀で部位を切り分けていく。そして再び矢を射て陣地を広げていく。『必中の矢』をすべて回収して、切りのいいところで模範演習は終わった。

 どう見てもマリアさんは素人ではなかった。弓の扱い方、解体の手さばき、足の運び、周囲への警戒の仕方、何から何まで上級者だった。僕は呆然と見つめていた。

 揺れる胸や翻るスカートの下の太腿のせいだけでなく、別の意味で頬が高揚するのを感じた。

「これはリカルドには内緒ね」

 そう言うと彼女は毒嚢の入った袋を僕に手渡した。リカルドというのは例の胡散臭い指導担当のことだ。

 僕は黙って受け取った。僕が命がけで戦った相手をいとも容易くあしらった彼女は紛れもない上級者で、ウツボカズランの報酬など眼中にないのだと彼女の態度でわかった。金貨三十枚を払ってもお釣りがきてしまう。

 僕は金貨三十枚を払った。

「いいんですか? ほんとに貰ってしまって」

「どうせ君が狩ることになっていたのだから、結果は同じことでしょ?」

「僕にできるでしょうか?」

「山向こうのヴィオネッティー家の子なら、弓ぐらい扱えるわよね? 動く相手に当てるのは難しいかもしれないけど、矢の加護があれば大丈夫。弓の威力も一撃で仕留めるのに十分だから落ち着いてやれば問題ないわ。というわけで毎度ありー。追加の矢はないから大事に使ってね」

 くれぐれも教育担当のリカルドに言わないようにと念を押しながら、彼女はその場を去っていった。

「これでよかったのだろうか……」

 密集隊形をとっているウツボカズランを見つめながら、どう攻めれば安全に攻められるかマリアさんの戦闘シーンを思い出しながら考えた。

「あの太腿の方が猛毒だよな」

 僕は見よう見まねで狩りを始めることにした。彼女が狩り残したせいではぐれている一匹を最初の練習台に選んだ。

 矢は面白いように命中した。狙って弓を絞らなくても、標的と意識しさえすれば矢は勝手に飛んでいった。

 成功だ!

 あとは、リンクされないように安全地帯を構築しながら、殲滅すればいい。

 残りのウツボカズランを壊滅させるまで、僕は練習を続けた。

 この日の報酬。彼女からもらったものも含めて、ウツボカズランの毒嚢三十二個。触手三十本まで数えて止めた。たぶん六十本ぐらい。土の魔石(小)が三十五個。大戦果であった。

 毒嚢の依頼は三件しかなかったので、金貨七十五枚。触手は買い叩かれて銀貨五十枚。魔石は銀貨百五枚になった。

 鎧代が貯まった。


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