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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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これのどこが避暑地なの? 8

 咄嗟に結界を張ろうとしたが、次の瞬間、喉元に剣先を突きつけられた。

「お久しぶりです。坊ちゃん。ここは黙って従ってください」

 分家の従兄弟だった。相当おっさんだけど。

 兵士に囲まれてリオナですら完全に無力化されてしまっていた。

 どうやってリオナの警戒をかい潜った?

「お菓子の匂いに釣られたです」

 おい、こら。

「この匂いはエルリンのお家のデザートなのです」

 だから味方だと思って安心したのか? 

 ヴィオネッティーの猛者たちに勝てるはずもなく、僕たちは武器を取り上げられて、護送車にしては立派な馬車に押し込まれた。そのなかにはリオナの言うお菓子が用意されていた。


 僕たちはすぐさま最寄りの詰め所に連れてこられた。そこで首謀者ロザリア・ビアンケッティを残し開放された。

 僕たちは用意された別の馬車に乗り込み、屋敷に運ばれた。僕は憤懣やるかたない思いで自宅の門を潜った。

 玄関先でアンドレア兄さんが直々に出迎えた。

「どういうつもりだよ! 兄さん! 彼女は犯罪者じゃないぞ!」

 僕は馬車を降りるなり、兄さんに詰め寄った。

「エルネストさん」

 侍女のひとりが声を掛けてきた。そこにはロザリアの顔があった。

「そういうことだ」

 どういうことだよ?

「まあ、入れ。母さんも待ってる」


 憮然としていると兄が言った。

「そう怒るな。彼女を守る一番簡単な方法だったんだから。彼女はしばらくうちの牢で拘束されることになる。これで敵もしばらく手が出せなくなるだろ?」

「僕たちが来るって誰から聞いたの?」

「彼女の父親からギルドの電信で知らされた。エルーダで君たちが合流したとね」

「それって、父がエルーダにいたってことですか?」

 ロザリアが侍女の格好をしたまま立ち尽くした。

「そういうことになるね。目的は同じだったようだが、迷宮の方は任せるそうだよ」

「とりあえず、全員湯浴みしておいで。詳しい話は食事を取りながらにしよう」


 リオナは例のアレがないか探っていた。

「急だったのでね。ターキーは用意できなかった」

 料理がテーブルに並ぶなか、兄さんの言葉に皆安堵した。

 母さんだけが残念そうにじと目でこっちを見ていた。

 話を切り出す暇もなく、ロザリアとロメオ君は母の質問攻めにあっていた。それも「ご両親はどんな方?」とか、「教育はどちらで?」とかではなく、「敵に止めを刺すときにはどんな魔法を使うの?」とか「敵を倒すときは手前から? それとも後ろから? わたしは真ん中からぶっ飛ばすのが好きなんだけど」とかだったりする。

 リオナはリオナでなぜか執事のオースチンや侍女たちと料理談義を戦わせていた。どうやら今日の肉料理のレシピをせしめる気でいるようだった。

 兄さんは面白そうにそれらを見ていた。

 僕は母のターゲットから外れたことで、久しぶりにゆっくり我が家の料理を堪能できた。

 僕が一息ついた頃「何があったか、話せ」と兄さんが言った。

 僕は一足先にお茶を頂きながら、これまでの経緯を話した。

「そりゃ、あれだなカミールの仕業だな」

「カミール?」

「彼女の父さんの本当の名前だ。枢機卿なら迷宮改変の魔法は使えるからな。たぶんお前たちに早く娘を見つけてほしくてやったんだろう。裏目に出たようだがな」

「迷宮改変……」

 教会占有の魔法なのだろうか? 手に入れるのは無理かな……

「元々エルーダの地下二階から五階までは一つのフロアーだったんだよ。立体迷宮というやつさ。でも攻略が難解すぎてね。改変を余儀なくされて、今の形になったんだよ。元々のフロアーの壁を破棄するには大掛かりな操作が必要だが、あの辺りは人が便宜上作った壁だからな。改変のプロセスで手を加えることは可能だろう」

 ロメオ君とロザリアは互いの地図を照らし合わせて違いを確認していた。

「だから迷子になったのね」

 五十年前の改変で一つのフロアーが四分割された様子が地図の差異からうかがえた。

「それで父は?」

「順を追って話そう」


「わたしが君の生みの親エドアルドとカミールと知り合ったのは、わたしがまだリオナぐらいの年の頃だった」

「あの…… 今の父が本当の父を殺して入れ替わったのではないのですか?」

「ふたりは双子の兄弟だ。カミールはエドアルドの弟だ。ふたりは仲のいい兄弟だった」

 彼女はほっとした顔をした。

「今から十五年程前、前教皇の暗殺未遂事件があったことは知ってるかい?」

「教皇の息子が死んだ事件ですね?」

 僕は首を振ったが、ロザリアが答えた。

「亡くなったのは長男と次男、それと三男の妻だ。三男の妻は夫の皿から料理をつまんだせいで代わりに亡くなってしまったのだ」

「その三男が現教皇ですよね」

 ロメオ君が言った。

 そうなんだと僕は感心した。

「長男夫婦には息子がいた。名前は知ってるかい?」

 全員が首を振った。

「エドアルドだ」

 全員を衝撃が襲った。

「それって? ロザリアは!」

「三男の夫婦にも家族がいてね。娘なんだが、名をコンチェッタと言った」

「母さん?」

「君に知らせるのは酷な話だが、こうなってしまった以上話さないわけにはいかないだろう。君はコンチェッタの実の娘ではない。エドアルドとその妻ヴィオレッタの娘だ」

「なっ!」

 思わず声が出た。両親がふたりとも彼女の実の親じゃないなんて。

 ロザリアは震える手を必死に押さえつけて気丈に振る舞った。

「もしかしたらと思っていました。両親と目の色が違ってたから……」

 声が震えている。

「ヴィオレッタは君と同じ瞳の色をしていたよ。だが君を生んですぐに亡くなってしまった。エドアルドは随分落ち込んでね。カミールと付き合っていたコンチェッタがよく君の面倒を見ていたよ」

「兄さんはなぜそのことを知ってるの?」

「カミールとは『災害認定』される前からの古い友人でね。彼は双子の風習を嫌った家から里親に出されて、この地でずっと暮らしていたんだよ。その後、例の事件が起きて、兄のエドアルドと従姉妹のコンチェッタがやって来たわけだ。今思えば亡命というやつだったのかも知れないな。教皇は孫たちの命を守るためにこの地にエドアルドを赴任させたんだよ。そのうちカミールとコンチェッタが恋仲になってね。そんなときだ。エドアルドが消えたのは」

 全員が固唾を飲んだ。


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