エルーダの迷宮12
迷宮の出入り口に立っていた番兵が僕を呼び止めた。
「そこの君! そんな格好のまま村に入れるわけにはいかないぞ。こっちにきたまえ」
僕は言われて初めて気が付いた。全身が毒まみれで緑色に染まっていたのだ。
オロオロしていると、番兵が詰め所のなかにいる誰かを呼んだ。詰め所からローブ姿の女性が出てきて、僕の顔を見て笑った。
「いやー、見事に緑色だねぇ。大丈夫?」
「異常はないようだ」
兵士が僕の変わりに答えた。
毒は吸い込まなければ問題ないらしい。
「あいつに浄化魔法をかけてもらえ。着替えがあるなら小屋の裏手で着替えるといい。そんな毒まみれの格好で村のなかに入れるわけにはいかんからな。お布施に銀貨一枚でも払っておけ」
僕は言われるまま女性の方に歩いていった。
「僧侶のメアリー・コルセットよ。非常事態に備えてここにこうして詰めているの。よろしくね」
ずいぶん気さくなシスターだった。
「すいませんお手数をおかけして」
「いいの、いいの。この程度の毒ならね。即死級の毒を持ってこられちゃうと困るんだけど、これはウツボカズランのものでしょ?」
僕はうなずいた。
「年に数人、絡まれちゃう人がいるのよね。恒例行事みたいなものだから気にしないで」
そう言いながら彼女は僕に魔法をかけた。
「息を大きく吸って、止めてちゃ駄目よ。肺のなかまで浄化するイメージでね。大きく深呼吸して」
喉の奥の煤けた感覚がなくなっていくと共に、全身の緑色も治まっていった。
僕ががま口から銀貨を二、三枚つまみ出そうとすると、彼女はその手を押さえて「できれば触手一本くれないかしら?」と言った。僕は収納袋から触手を取り出すとそのまま手渡した。
「いいんですか、こんなもので?」
「最近ウツボカズランを狩る人がいなかったから助かるわ。服の襟とか袖が伸びてきってしまってみんな困っていたところなの」
なるほど彼女のローブの袖はだぼだぼで紐で結わえてあった。襟元も弛み、僧侶の身だしなみとしては少々色っぽくなりつつあった。
ウツボカズランの触手は伸縮性のある筋でできていて、加工して繊維を紐状に編み上げるとゴム紐になるのだ。袖口などに使えば、一々紐で縛らずに済むので便利なのである。
僕は依頼の報酬を受け取り、荷車の弁償と入手品の売却を済ませて宿に戻った。
食事を済ませると僕はすぐに宿の寝台に横になった。そして暇つぶしに自分のステータスの確認をした。
レベルがまた上がっていた。二十一になっていた。七十匹殲滅は伊達ではなかったらしい。スキルも『毒耐性(二)』が新規に増えていた。
天井を見つめながら今日一日を振り返った。ほとんどが『魔弾』についてのことである。せっかく手に入れたスキルだけれど、今のところ危なっかしくて使えないというのが、感想だ。射程がない癖に威力がありすぎるのだ。威力を弱くすれば、距離も縮まってしまうし、密度を上げると、小さくても射程は伸びるが威力が増大してしまう。今のところ遮蔽物に隠れて使うしかないかもしれないが、盾があれば耐えられるだろうか? 盾を買うお金も捻出しなければならないだろうか?
姉さんに相談してみようかな…… 姉さんなら何かいい案出してくれるかもしれない…… 性格はあれだけど、自称天才魔導士だし…… 首都まで通信費いくらぐらいするんだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にか深い眠りに落ちていた。




