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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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モドキだけどドラゴンでした4

 巣は切り立った断崖絶壁にあった。まるで、渡り鳥が作る断崖の巣だった。

 差し込んできた夕日に僕は目を細めた。

 外を見渡すとそこは山岳地帯、夕日に照らされた人跡未踏の大地だった。

「ここってどの辺?」

 転移に次ぐ転移で僕は自分がいる場所が分からなかった。知らない町ばかりだったし。

「スプレコーンの遙か東よ。国境山脈を越えた暗黒地帯の入り口辺りかしらね。先輩冒険者に教えられた場所だから具体的な場所は知らないわ。わたしたちが最後に利用した町の転移結晶の限界がこの辺りらしいわ。ここから先は歩きってことよ。さすがに無理でしょうけど」

 空を見上げると何やら見たくないものが飛んでいた。

「あんまり頭出してると見つかるわよ。ドラゴンは総じて目がいいんだから」

 そう言いながら杖で元家主が食い散らかした残骸をあさる。

「あ!」

 姉さんが何かを見つけた。

 人骨だった。骨は既に原形を留めていなかったが、バラバラにされた装備が人であったころの姿を辛うじて残していた。

「嫌なもの見つけちゃったわね」

 そういうと杖で一つのペンダントを拾い上げた。

 姉はそれを僕に取れと言う。

「こういうものには呪いとかかかってるケースがあるんだよ」

 文句を言いながらペンダントを取ると「なんのために万能薬を持っているのよ」と馬鹿にされた。

「あれ? これってどこかで見たことある……」

 僕は水魔法でペンダントの汚れを洗い流し、日にかざした。

 金細工に宝石がちりばめられていた。なかなかに高価な聖エントリオ紋章……

「冗談じゃないわ」

 姉さんは衣類を漁って言った。

「これって…… 教会だよね?」

 僕は導き出した答えを一応確認する。

「聖教会の枢機卿の衣装みたいね」

 持ち上げようとすると衣装は崩れ落ちた。

「身元を証明するものは?」

「そのペンダントと…… 指輪ぐらいね」

「この人だけかな?」

 僕は周囲を見回したが、他に人のそれはなかった。

「遺族に送るから回収して。それが済んだらさっさと帰るわよ」

 ドラゴンは宝石を溜め込む習性があると昔から言われているが、元家主にはその手の趣味はなかったようだ。

 宝箱の一つでも出てくるかと期待したのだが……

 姉さんはゲートを開いて「先に潜れ」と手招きをした。



 結論から言うと。収穫は大ありだった。

 特に魔力を通すと浮き上がるとされた羽根の模様が、紋章であると現実に確認できたことは一大成果であった。後に姉さんの名前で発表される『浮遊魔法陣』である。

 魔力を通すことで地面と反発する力を生み出す術式であるが、地面と離れるほど魔力の消費が大きくなる性質があった。一度に吐き出せる魔力量は人それぞれだが、成人男性で大体高度五メルテが限界のようだ。ロメオ君なら倍は浮きそうであるが。

 さらに紋章の面を地面に対して傾けて使うと、そこに今までにない推進力が生まれることが分かった。ドラゴンのような鈍重な生き物がどうやって最初の揚力を生み出すのか、二回りも小さいワイバーンですら崖から飛び降りてようやく飛び立てるのに、なぜドラゴンは平地から飛び立てるのか、その謎が解明されたのだった。


 気球で浮いた状態で推進力として使うのであれば成人男性で一時間は飛び回れるので、辻馬車的利用は不可能ではなかった。

 もっとも浮力なしで自分の体重をゼロから持ち上げようとすると、浮いた姿勢を維持できる時間は遙かに短くなる。フルパワー状態を維持することになるので相当苦労するのだ。そして後々不愉快な思いをすることになる。

 頭痛に吐き気、血圧低下や虚脱感などの症状に襲われるのである。後者のような使い方は事実上不可能であった。

 幅跳びの距離を伸ばすような瞬発的な使い方は有効であった。だが飛び跳ねて速く走るくらいなら、風魔法を使った方が速かった。術式をお金を出してまで買う必要はない。

 やはり飛行船など元々浮いているものの推進装置として使うのがベストな使い方になるだろう。

 一方、『第二の肺』であるがこちらも発見があった。

 高温を生み出すとかいう以前に、袋の大きさと生み出す浮力に大きな差があることが判明したのだ。なんと直径一メルテ、最長部二メルテほどのフェイクドラゴンの肺二つで飛行船が浮くことが判明したのだ。

 さすがにこの発見には皆青ざめた。

 肺のなかの超高温の気体こそが強大な浮力を生み出すものと誰もが信じていたからである。

 機密レベルの発見に工房は関係者以外立ち入り禁止になった。そして建屋にはあらゆる結界術式が張り巡らされた。

 すぐさま領主に報告され、情報の扱いについて協議がもたれた。

 そして情報は偶発的な発見として、王宮にも伝えられたのである。

 あっさり開示したのには理由があった。

「素材はドラゴンであり、早々狩れるものではないから、普及する心配がない」というのがこちらの判断だった。

 狩ろうと思えばそれ相応の出費を覚悟することになり、飛行船は金食い虫というロジックになんら変わりがなかったのだ。


 当然、情報が拡散する前に美味しいところを頂くことになった。冒険者でも狩れるレベルのフェイクドラゴン討伐の依頼がギルドを通して各地にこっそり出されたのだ。依頼内容は丸ごと回収というおかしな依頼だったが、報酬額に目がくらんだ者たちは誰ひとり、気にすることはなかった。

 二ヶ月の間に五匹が狩られ、十個の肺が手に入った。依頼は現在も継続中である。


 結果的に期限付きで行われていた道楽は、ビジネスラインに乗ることになった。領主とマギーさん家の商会との間で合弁の観光会社が設立されたのだ。

 ゴンドラも大型化して、貴族専用のコンパートメントまで設けることができた。ちなみに料金は金貨十枚である。

 船は旧態依然の大きさの気球を抱えて、偽装した状態で飛んでいる。今更気球を小さくすると不安がる人が大勢でるからというのが表向きの理由だ。要は技術を隠匿するためである。ドラゴンの肺が使われているなど乗客は知るよしもなかった。

 飛行船は合計で三隻が建造された。一番古い実験船は解体され、二番船からの採用になった。


 後の研究で、『第二の肺』にも魔法陣に通じる紋様があることが発見された。「繊維だか血管の構造に練り込まれている」とか、じいちゃんの子飼いの魔法使いが訳の分からないことを言っていた。スルーしたから詳しいことは知らないが、その魔法陣は浮力を生み出すもので微量な魔力を加えると発動するらしい。しかもその微量な魔力は肺のなかを少し暖めると自然発生する仕組みになっていたのだ。ドラゴンてやつはとんでもない生物である。

 ドラゴンは空気を大量に吸って肺を小さくすることで、肺のなかを加圧してその微量な熱を作り出していたらしい。それもたいした高温ではないらしく、魔石で代替しても消費は微々たるもので済むそうだ。例の魔力伝導ケーブルで直接魔力を送れば、その面倒もなくてすむらしいのだが、どちらが効率的なのかはまだ実験段階らしい。

 報告書にあったブレスのような高温を生み出す仕組みだが、逆のプロセスなのではないかという話だった。魔力を消費することで温度を上げるとか、紋章の連続使用とか、そういうことらしい。今度実験で見せてくれるそうだが、その辺のことには余り興味はない。


 姉さんですら、ギルドの依頼で小遣い稼ぎをしていたのに、僕への報酬はどうなったのか? というともちろん頂戴したのである。そう、プライベート・シップである。

『第二の肺』を丸ごと一つ使った小型船舶だ。

 肺を外から見られないように、二つの船体を貝のように貼り合せ、挟み込んだ形状をしている。流線形の美しい船に仕上がっていた。

 ゴンドラは肺の真下にあり、外装と一体構造になっていた。操縦席はガラス張りになっていて、馬車の御者台のような座席が付いていた。つまり足元にもガラスが張ってあって、その上に浮いた状態になっているのである。視界は良好だがちと怖い。内装はソファーにベッド、シャワーなどが付いた豪華仕様である。

 外装は貴重な肺を守るためと、『浮遊魔法陣』が効果を及ぼす範囲に高度を維持するためのおもりの役目もしていた。積載量に応じて重量を調節するためのバラスト槽も用意されている。バラスト水は水魔法で自給自足だ。

 幅四メルテ全長十五メルテ程の船体に車輪と方向転換用のラダーが付いている。推進力は『浮遊魔法陣』であるが同時に姿勢制御にも使われている。

 つまり魔力以上に高く飛ぶときはバラスト水を捨て帆とラダーで風任せ、それ以外は『浮遊魔法陣』でという具合である。

 魔力は操縦士が担当するのは飛行船と同じだ。

 実験では一日中飛んでも僕の魔力が枯れることはなかった。リオナですら低空なら半時間ほど航行が可能だった。ちなみに半時間はリオナが飽きるまでの時間である。


 実験終了後、僕たちの船と同型の船が合弁会社から販売されることになった。

 自分たちしか乗っていなければ目立つので、「売っていますよ」というポーズを取るためである。もちろんそう簡単に作れるものではない。作りたくても作れない。『第二の肺』は完全ブラックボックス化、材料がなんであるかも一切秘密。当然、値段は『浮遊魔法陣』の使用料込みで、法外な金額になる。

 とりあえず、『第二の肺』が手に入り次第、同型の船が三隻建造される予定である。一隻は国王への献上品として、もう一隻は領主の持ち船として、もう一隻は商会の会長、マギーさんのお爺さんへ、マギーさんからのプレゼントとしてである。会長さんへのプレゼントは回り回ってマギーさんたちが自分たちで使うためである。オーナーとして名を借りるらしい。何せ法外に高い船というお題目の船であるから誰でも持っていていい船ではないらしい。

 ちなみにうちの船にはヴィオネッティーの家紋が付いている。家を出たはずの僕が家紋をぶら下げている。多少気が引けるのではあるが、背に腹は代えられない。獣人村の大将が持てる代物ではないのだから。

 装甲も厚いし、機動力もある。低空飛行が主なので魔物が飛んでる地域でも、いざとなったら機体を捨てて逃げることができる。ドラゴンがいる場所はさすがに無理だけどね。


 リオナは空はもう飽きたのか、関心を示さなかったが、ロメオ君とオズローははしゃいだ。やっぱ船は男のロマンだった。

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