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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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モドキだけどドラゴンでした1

タイトルでネタバレ……w

「長い間お世話になりました。エルリン、リオナはもう駄目です。目もかすんできました。最後のお願いです。リオナに…… お…… お肉を……」

「がんばれー、あと一日だ」

「ほら、馬鹿やってないでテーブルからどきなさいよ」

「お肉……」

「あと一日だよ、リオナちゃん。明日からまたお肉食べられるからね。今度こそがんばって」

 リオナの小芝居にはもう誰も付き合わない。すっかり耳にたこができてしまったからだ。

「今度こそ」…… 

 そう、リオナの最後の一日は今日だけではなかったのだ。

 つまみ食いがばれて、延長に次ぐ延長。もうすぐ一月になろうとしていた。

 カンニングの準備を一生懸命するくらいなら勉強しろよという、あの類いがやらかすことだった。昼間いなくなったと思ったらアルガスで串カツ食ってたり、森の奥で肉焼いてたり、端から見てると面白いのだが、その度に刑期が延びる。本人はもはや正常な思考ができないほど飢えていた。最近はばれることを平気でしようとするので、結果的にズルズル一月も罰を受ける羽目になっていた。

 さすがに今回はエミリーに泣かれて渋々がんばっているようだが、あと一日どうなることやら。

「ふたりは今日でしたっけ?」

「ああ、そうだよ。ようやく順番が回ってきたよ」

 飛行船のチケット二枚をアンジェラさんは嬉しそうに眺めている。フィデリオはオズローのお母さんが預かってくれる予定だ。

「朝日が見られる早朝の部の方がよかったんじゃないですか?」

「朝は仕事がありますから」

 エミリーが真面目に答えた。

 たまには休んでくれても構わないのに……

「ほんとにあの飛行船は廃止になるのかい?」

 朝食の料理をテーブルに並べながらアンジェラさんが言った。

「期間限定の馬鹿高い術式を使っているからね」

「確かに大人金貨一枚は誰でも出せる額じゃないよね」



 現在飛行船は町の周りを回る三十分ほどのクルーズをやっていた。高いという値段設定でも、満席の状態で日に五回飛んでようやく一日の燃料代になるくらいだった。つまり投資分は永遠に返ってこないのだ。もはや完全なボランティアだ。


 試験用に二番船を用意した。一番船の問題点を改修したもので、現在、操作系をすべて操縦席に回す試みをしていた。マギーさんが調達してきた、魔力を通すと伸縮する素材でラダー操作を遠隔操作する計画だった。素材はウツボカズランの上位種の触手から作るとか。

 劣化版として気球を既に数機建造していた。紐付きで空に浮かべるだけのもので、火の魔石(中)で三十分ほどのフライトが可能だった。警備の足しにでもなれば幸いである。

 要するに許可を出した領主も、出された商会側も「何を無駄なことやってんだ」と非難を浴びないための、お茶を濁すための、それなりの成果というやつである。

 後顧の憂いを絶って実験に邁進するため、店のスタッフたちが速攻で作り上げたものである。


 根本的な問題解決を目指すべく僕は過去の資料の閲覧を姉に要求。姉さんは王宮に戻って資料を持ってくることになり、結果としてのアシャン老との約束も果たすことになった。


 そして姉さんが持ち込んだ資料とアシャン老からの伝言が突破口になり、僕たちは最大の懸念を払拭することに成功したのだった。

 じいちゃんの伝言はこうだ。


『ドラゴンはなぜ飛べるのか?』


 姉の書庫をひっくり返しドラゴン関連の書籍を当たったが答えは見つからなかった。そのほとんどが討伐方法や戦略、使用武器選択の解説などだったからだ。ドラゴン自体を専門的に研究した資料はなかなか見当たらなかった。

 だが、探せばあるもので、資料は意外なところからもたらされた。この世でもっともドラゴンを倒している組織、そう冒険者ギルドである。

 ロメオ君の両親が、飛行船のチケットのお礼にと、探してくれたものだった。

 僕たちは答えを見つけた。もうあの馬鹿高い保温術式を購入する必要はなくなったのだ。


 答えはドラゴンの『第二の肺』であった。


 ドラゴンの第二の肺には浮力を生み出す驚くべき仕掛けがあったのだ。それは魚が持つ浮き袋のような機能だった。

 ドラゴンは第二の肺に空気を取り込むと一気にその温度を上げるのだ。それを溜めたまま空を飛び、降りたくなったら肺のなかの空気を吐き出すのだそうだ。その息は鉄をも溶かすブレスの元にもなる超高温の気体だった。第二の肺はそれ自体が保温性を持ち、尚且つ超高温に耐える素材であったのだ。


 文献にはさらに目を引く記述があった。

 それは『ドラゴンの翼』に関する実験結果であった。資料には『魔力を通すと翼が飛び跳ねたとあった。筋力ではない、全く別の力が作用した結果である』と記されていたのだった。別の記述には『紋章のようなものが浮かんだ』とも記してあった。


 これはもう拝み倒すしかない。


「肺なんて捨てちゃうものよ、持ってるわけないでしょ。皮を剥いで有用な部位を取り出したら普通はそれで終わりよ。翼は装備の素材としては一級品だからすぐになめされちゃうし。他の用途で使った話は聞かないわね」

 姉さんならもしかしたら持っているかもと思ったのだが、さすがになんでも持っているわけではないらしい。

「ドラゴンの革ならあるんだけどね……」

 どうにかならないかと拝み倒す。

「そうね。少し早いけど、例の結界もあることだし、一番弱いのならいけるかしらね」

 何やら怪しい台詞を呟きだした。雲行きが怪しくなってきたので僕は後ずさった。

 姉は僕の手を取り、書庫から飛び出した。

「うぎゃぁああ、姉さん、僕はこれから、急に急用がぁあああ」

 広間で木箱を見下ろしているヴァレンティーナ様を見つけると姉は大きな声で言った。

「ちょっとドラゴンを狩りに行ってくる」

 僕の血の気が一気に引いた。やっぱりその気だったのかぁああ。

 なんでそんなに気軽なんだよ。

 ドラゴンっていったらレベル百だぞ。世界最強だぞ。レベル判定の基準だぞ。ドラゴンの強さを百等分したものがレベル一だぞ。

 ヴァレンティーナ様が振り返った。

「エルネストとリオナに届け物だ」

 僕とリオナに? っていうかドラゴンスルーですか?

 僕はすっかり涙目だ。

「ドワーフからだ」

 僕たちはヴァレンティーナ様の目の前に置かれた頑丈に梱包された木箱を見下ろした。


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