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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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揺れるしっぽと青い空(挑戦は終らない)6

「財産を全部没収するわけじゃないから勘違いしないでよ。お小遣いの限度額を二百枚までにするだけよ。自動振り込みも今日限りで打ち切りだから。没収するのは現在運用で出しているあぶく銭と小遣いとの差額。元金には手を付けないわ。今のところ一月金貨千枚は硬いから、研究開発に回せる資金は保温術式が切れるまでの三ヶ月間。総額で金貨八百枚かける三ヶ月で金貨二千四百枚よ」

 僕をよく知らない人たちは僕を化け物でも見るような目で見た。

 マギーさんは手を叩いて喜んでいる。

「月の支払いとかは?」

「あんたはいつもにこにこ現金払いなんだから、小遣いから出しときなさいよ」

 僕はがくりと項垂れた。

 お小遣いが十分の一になってしまった。元々使える額ではなかったから構わないけど、補充されないのは心理的に痛い。もし二百枚以上のものがほしくなったら、ツケか、お金を貯めてからってことになる。アンジェラさんたちの給金とか解体屋との契約金とか装備の維持費とかもあるし、このままでは我が家の書庫の蔵書集めも滞る……

 これはまずい…… 手持ちのお金だけでも増やさないと。

「ちなみにリオナへの罰は、一週間のお肉抜きよ。もし食べてたら取り上げなさい」

「げっ、それって一番キツい罰なんじゃ……」

「あんたの感覚はどうなってんのよ? 肉抜きなんてたいした罰じゃないでしょ。食事抜きじゃないんだから」とサリーさんは言った。

 リオナにとって肉はこの世の存在意義そのものなんだよ。

 可愛そうに…… 辛い一週間になるな……


「さて、大事な質問がもう一つある」

 ヴァレンティーナ様の視線が真剣なものになった。

「軍事転用への可能性について、思うところを聞かせてくれ」

 やっぱりそうなるよね。採算を度外視する唯一のケース。戦場での運用……

 頭の痛い問題だ。僕が心底裁かれるときはあるとすれば、それは飛行船によって戦死者が出たときだろう。

 発明に付いてまわるコインの裏側。僕たちが罰を受けなきゃいけない理由だ。もちろん罪を犯したからじゃない、行動が軽率だったからだ。


 異世界は科学が発達した世界だった。一度に何万人も殺せる兵器があって、全世界を七度滅ぼせるほどの大量の武器があったとあの本には書かれていた。幼い頃、姉さんに読み聞かされて泣いたことがある。

 発明家の多くはそんなこと望んでいなかっただろうと姉さんは言った。ただ発明で生活をよくしたいと思っていただけだと。

 豊かさの代償が強力な武器を持つことならどこかで妥協しなければならない。人が利口でないのなら、どこかで妥協しなければならない。でもこの世界には魔物がいる。弱ければ滅ぼされてしまう。強さとの共存…… やっていいことといけないことの狭間…… 賢くなるしかないのだが……


「軍事転用の可能性は限定的です。一つはコストの面。もう一つは運用の難しさです。この森にはユニコーンがいるおかげで、空を飛ぶ魔物は皆無ですが、他の領地には旋回竜(サークルナーガ)以上の魔物が普通に存在します。当然、対抗手段が必要になりますが、見ての通り積載量には限界があります。迎撃用の武器の持ち込みは限定されるでしょう。さらに運行が風任せというのも問題です。風が強過ぎても弱過ぎてもいけません。仮に運用できたとしても、できることは斥候の運搬、夜の闇に紛れさせて空から城内に進入させるような運用が関の山でしょう。魔物対策に上空にも大概結界がありますから、それですらままならないでしょうが」とマギーさんがスラスラ答えた。

 用意していた回答なのか?

「あの…… 部外者がすいません」

 スタッフのひとりが恐縮しながら手を上げた。きのうの操縦士さんだ。

「何?」

「ご質問させて頂いてもよろしいでしょうか? 航海に携わる者として是非お聞かせ願えないかと」

「何かしら?」

「ユニコーンがいると空の魔物がいなくなるというのはどういうことなのでしょうか?」

「ユニコーンも自分の子供をさらわれたくはないでしょう。空飛ぶ魔物がいたら容赦しません。ユニコーンの使う攻撃手段は雷撃ですから、空飛ぶ魔物にとってこれ以上の脅威はないわけです。この森から空飛ぶ魔物が淘汰された理由です」

 サリーさんは捲し立てると操縦士さんを黙って下がらせた。

「エルネスト」

「はい」

 姉さんが声をかけてきた。

「空を飛ぶ気球の原理は昔からあったんだ。魔法使いの間では自明のことでね。王都でも研究されていた時期がある。お前の好きな物語にも書かれていたくらいだ、当然だろ?」

「そうなの? だったらもっと人は空飛んでる気がするんだけど」

「今、マギーが言っただろ。コストが見合わないと。誰もあんな馬鹿でかい物を造ろうとは思わなかったんだよ。お前以外はな。空は今も昔も竜の領域だ」

 だから僕たちを泳がしたんだな。

「そう落ち込まないで。今わたしたちは紛れもなく飛んでいるのよ。理由はどうあれ、誇っていいことなのよ。勲章ものよ。胸を張りなさいな」

 ヴァレンティーナ様がフォローしてくれる。

「この広大な景色を大勢の人に見て貰いましょう。いつか誰かが、そこから新しい発見をするかも知れない。話はここまでにしましょう。さあ、残りの航海を楽しまないと」

 ヴァレンティーナ様は話を打ち切ると楽しそうに甲板に出て行った。

 姉さんたちも思い思いに景色を楽しみ始めた。

「よかったわね。この程度のお咎めで済んで」

 マギーさんが小声で僕に言った。

「これって、却ってお墨付きを貰ったようなもんなんじゃ……」

 僕も呟いた。

「お姉さんたちに感謝しないとね。三ヶ月は好きにできるってことだから。それでね。ものは相談なんだけど、今度はドラゴンの革を使った飛行船を造ろうと思うのよ。あれなら温度をもっと上げられるから、もっとコンパクトにできると思うの。水蒸気を使うって手もあるわね。あ、でもそうなると骨格が必要になるのかしら? 困ったわね。何かいい方法ないかしら、凧蛸の革を裏張りするとか――」

 マギーさんはまだまだやる気のようだった。僕は思わず苦笑した。

 こうなったら、ギリギリまで有り金全部使ってやる!

「ようし! 目標はプライベート・シップだ!」

 僕たちの挑戦は終らない。



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