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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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揺れるしっぽと青い空(お仕置き)5

「あんた、なんてもの造ったのよ……」

 姉さんが窓の外の景色に感動しながら文句を言った。

 朝日が世界を照らす瞬間だった。

「きれいです。造ったかいがありました」

 マギーさん、今そのせいで僕たち怒られてるんですけど……

「思ったほど揺れないものね。馬車より快適かもしれないわ」

 ヴァレンティーナ様も窓にかじりついている。

「戦略上問題の多い乗り物です」

 そう言いながらサリーさんも外を覗き込んでいる。

「物がこれ以上積めないというのはネックよね」

 クルー三名と甲板の護衛二人を除くと以上が精一杯の人員だった。

 ヴァレンティーナ様が残念そうに言った。

 鎧着込んだまま乗船するからだろ! あれほど脱げと言ったのに! おかげで棟梁もロメオ君も乗れなかったんだぞ。

「さて何から尋問しようかしらね?」

 ヴァレンティーナ様がなぜか哀れみの目で僕を見ていた。


 あの夜、僕たちの帰りを待っていたものはマギーさんが残したメモ書きが一枚だけだった。

『明日、もう一度フライトあり。準備されたし』

 恐れた事態はどういうわけか起こらなかった。ばれなかったのかも知れないと僕たちは胸を撫で下ろした。

「明日はまだ乗ってない人たちの番だね。ロメオ君も呼ばなきゃ」なんて言いながら帰宅したら、姉さんが待っていた。

「ばれるに決まってるだろ、全く。明日は覚悟しておくんだな」

 怒っているのかいないのか判断がつきかねた。

 それから「で、どうだった?」という話になって、リオナと話を弾ませていた。アンジェラさんとエミリーも巻き込んでのかしましい夕食になった。

 リオナの話を聞いた姉さんは自分たちも朝日が見たいと言い出した。

 出発の時間を急遽早めることになってしまった。

 知らせはすぐさま関係者に伝えられた。

 明日も早起きとは…… いい迷惑である。



「まずことの発端はなんなの?」

 ヴァレンティーナ様の質問にマギーさんは僕を見た。

「飛びたかったから」

 今更子供たちのために、希望の片鱗を見せたかったなんて言えない。恥ずかしくて言えない。

「そういうことにしておきましょうか」

「みんな知ってるわよ」って顔だった。リオナがあることないこと全部、姉さんにしゃべってるんだ。今さらいらんだろ、こんな尋問。

「で、あの子たちの村に行って来たと」

「はい」

「村の様子は?」

「半分が全壊、残りは半壊。村の半分が完全に焼け落ちてました。情報通り、男たちは怪我人以外ほとんど残っていません。現在様々な物資が不足しているようで、復興の兆しも見えません」

「医薬品は?」

「え?」

 気まずい沈黙が訪れた。

「偶然持ってたもので…… その…… 町からの援助物資ってことにしておきましたけど…… まずかったですかね?」

 ヴァレンティーナ様は「またやったわね」と呆れた笑いを見せた。人命救助だったし怒ってはいないようだ。

「マギー、見繕って追加の補給物資を手配しなさい。それと人手もね」

「かしこまりました」

「あちらの長老はなんと?」

「こちらに向かってる途中らしくて、すれ違いでした。明日にはこちらに着くそうです」

「こっちの長老たちはなんと?」

「村が存続可能かもわからないから話し合って決めるそうです」

「受け入れは可能なの?」

「あの村だけならギリギリ可能です」

「だけなら?」

「もう一つの村も今回のことで考えを変えるかもしれないと……」

「想定外ね」

「一極集中はこちらの望むところではありません」

 サリーさんが言った。

「長老たちにはこちらからあとで話を伺いたいと伝えておいてちょうだい」

「はい」


「話を戻しましょう。マギー、この船の建造費とコストの説明を」

「はい、工賃を抜きにしますと建造費はおよそ金貨七百枚になります。そのうち六百枚は保温術式六枚分の値段になります」

 全員が目を丸くした。

「七千万ルプリ?」

 サリーさんが呆然としている。

「ただの布きれが金貨百枚?」

 ヴァレンティーナ様も呆れた。

「雪の国ファーレーンはその名の通り一年のほとんどが雪のなか。地下街が発達していると聞いておりますが、産業と呼べるものはあまり…… 鉱脈から出る宝石でたまに潤う程度です。年間に使われる火の魔石の量は他国に比べても圧倒的です。それらを買い付ける外貨を稼げる数少ない手段が――」

「布きれか?」

「はい」

「それにしても法外だ。楽して儲けていては働く気力もなくそう」

 思わずぐさっと言葉が突き刺さる。薬で同じことをしている自分が言われたようだ。

「建造費は分かった。運用コストは?」

「一回の村との往復で必要な費用はこちらも人件費を抜きにしますと、火の魔石(中)が二個、風の魔石(中)が二十個で時価金貨四十五枚ほどになります。なお、保温術式を使わなかった場合、さらに火の魔石(大)が五、六個必要になります。時価にして金貨三百枚程になります」

「誰も建造しないわけね…… 道楽にも程があるわ」

「それで姫様、保温術式が有効な間は……」

 マギーさんが揉み手でヴァレンティーナ様に擦り寄った。

「勿体ないから使い倒しなさい。それとさらなる可能性と技術転用への模索。マギー、あんたへの罰はそれよ。人員を提供しなさい」

 僕は約束を破ったんだから折檻されても仕方ないけど、マギーさんは別に法を犯したわけじゃないんだから。休暇中に何やってんだって感じだろうけど。これだけでかいと『領主の許可を取ってからやれ!』ってことなんだろうな。実際郊外の土地を無断使用してるわけだし。

「エルネスト、あなたはそのための資金提供よ。余計なお金はすべて没収してあげる」

「ええッ? そんなぁ」

 さすがの僕も膝のテンションが下がる。

「二度とこんな馬鹿なことができないように、資金源を絶ってやるわ」

「罰金で没収されるより、いい案だろ。技術転用できたら、そこから生み出される儲けはマギーと折半できるんだぞ。もちろん税金として上前ははねさせてもらうがな」

 姉さんが言った。

 そういうのを異世界では『捕らぬ狸の皮算用』って言うんだよ。

「そこから生まれた利益はどうなるんですか。また没収されるんですか?」

 僕は棒読みで姉さんに言い返した。

「今回は罰金の要素が強いから、一時的なものよ。永遠に搾取する気はないわ。あんたがまた馬鹿をやらなければね」

「ぐっ」

「馬鹿な子に大金持たせちゃいけないって、今回しみじみ感じたわ」

 みんながクスクス笑った。

 ヴァレンティーナ様もゴンドラの開放感に当てられて饒舌だった。



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