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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮

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揺れるしっぽと青い空(ビアンコ商会)2

「マギーさん?」

 店は客たちでごった返していた。

 新築ラッシュで建材屋は芋洗い状態だった。店の奥が倉庫になっていて加工された木材が山のように積まれている。

 店先で商品の陳列をしていたマギーさんを僕たちはたまたま見付けた。

「あら、弟君にロメオ君。何かご入り用ですか?」

 手袋の埃をパンパンと叩いた。

「知り合い?」

 僕はふたりに尋ねた。

「ギルドは冒険者から買い上げた品物を商会にも卸したりするからね」

「打ち合わせで何度か会っているんですよ」

「近衛の仕事は?」

「今日は非番です。館が完成して、警備も使用人も増えましたから、溜まった休暇を消化しているところです」

「休みなのに働いてるんですか?」

「この商売って、専門知識が必要でしょ。誰でもすぐって訳にはいかないんですよ。来週には人が増えるらしいんですけど、それまではね」

「マギーさんて近衛の方だったんですか?」

 ロメオ君は商会の人だと思っていたらしい。どっちも正解だけど。

「そうよ。あ、元ね。今はユニコーンズ・フォレスト騎士団だから」

「え? その名前いつから?」

 僕は咄嗟に尋ねた。

「式典の後です。ほんとは前に決める予定だったんですけど、忘れてたみたい。みんなは『スプレコーン騎士団』でいいかなって思ってたんですけど、姫様ったら『町の名前って、町だけしか守らないみたいで嫌よね。了見狭そうで』て、いきなり駄目出しするんですよ。あれには参りましたよ。備品とか、銘を入れる予定の商品を急いで差し止めたり大変だったんですから。元々王家の直轄地だったでしょ。ていうか放棄地だったでしょ。だからこの地域の正式な呼び名ってなかったんですよ。アルガスからは『南の森』、公国からは『北の森』って呼ばれてただけの場所だったんですからね。でね、この森に住んでた獣人が呼んでいた名前を採用したわけです。『一角獣の森(ユニコーンズ・フォレスト)』ってね」

 マギーさんが早口でまくし立てる。

「じゃぁ、領地の名前も?」

「姫様の家名だと王家とかぶるじゃないですか」

 そりゃそうだ。王家なんだから。

「だからみんな最後まで悩んだんですけど。もう忙しいからいいやって感じで、こないだ決まっちゃったんですよね。これ、内緒ですよ」

「聞きたくなかったです」

「同じく……」

「で、御用はなあに?」

 マギーさん、寝てないだろ? テンション上がり過ぎてるぞ。

「ええと、エルネストさんが空気が漏れない丈夫な布みたいな素材を探してるんです。僕は凧蛸の革なんかがいいんじゃないかと思ったんですけど」

「まあっ! また何か発明するんですねッ?」

 人を金のなる木みたいに。きらきらした目で見ないでください。

「ちょっと作りたいものがあって、重量が掛かるので丈夫なもので加工がしやすいものがいいんですけど」

「重量はどのくらい?」

「一応考えてるのは子供が十人ほど。大人だと……」

「四、五人ね」

「あ、そうだ。熱にも強くないと」

「ドラゴンのブレスも防ぐような?」

「いいえ、暖めた空気を溜めるだけですら」

 ドラゴンって…… 一体何を作ると思ってるんだ?

「それでしたら凧蛸の革でいいでしょ。値段的にも安いですしね。どれくらい入り用ですか?」

「そうだな…… マギーさん、優秀な設計技師の知り合いって…… います?」

 マギーさんのニターッと笑う顔を見ていたら、丸投げしちゃおうかなという思いがふつふつと沸いてきた。素人考えより、プロに任せた方が早いし、確かだしね。

 今は時間が惜しい。

「当商店には優秀な人材が揃っておりますので。なんなりとお申し付けください」

 マギーさんが満面の笑みで答えた。

 ほんと、惚れちゃいそうな笑顔だ。

 ロメオ君は怪しそうに僕たちを見詰めている。

「善は急げですわ。倉庫に案内しますね。そこに大工の棟梁がおりますから今すぐお話を」

 僕たちは店の裏手に連れられて、スタッフと顔合わせをさせられた。

「こちらはレジーナさんの弟さんでエルネスト君。こちらはお友達のロメオ君。ふたりとも優秀な魔法使いよ」

 僕は魔法使いじゃありません。多少は使えますけど。

「エルネスト君は知ってるわよね。我が商会に富をもたらしてくれた天才発明家よ」

 マギーさんが思いきり僕を持ち上げた。

 マギーさん、やっぱり仮眠取った方がいいよ。

「もしかして、『万能薬』の!」

「『完全回復薬』もだろ?」

「ライフル銃もだ」

「懐中電灯もだろ? あれ地味にミリオンヒット商品だぜ」

「例のあれもだろ?」

 特殊弾頭のことね。

「こりゃ、たまげた。若いどころの騒ぎじゃねーやな」

 スタッフは僕を実物以上の何かと誤解していたようだ。

「で、今度は何を作るんですか?」

 こりゃ、もう乗っかるしかないな。この商会とは前世できっと何かあったんだろう。

「気球を作ろうと思ってね」



 まずは模型実験を行った。

 職人たちがあっという間に模型を作り、火の魔石で袋のなかの空気を暖めた。

 すると……

「おわっ! 浮いた! 浮いたぞ!」

 何度目かの改造で模型が浮いた。

「信じられん…… 奇跡だ」

 これって…… 実際に作ると相当でかくなるんじゃないか? 

 僕は周りの喧噪を余所に、模型の重量と大きさの関係に正直驚いていた。

 イラストでは幌馬車の幌ぐらいの大きさの袋で木箱ぐらいのバスケットが浮くようなバランスで書かれていたのに。

 実験模型のバランスでは置くところに困るほど気球部分が大きくなりそうだった。

「直径で十五メルテは必要だろうな」

 でかい。目立つ。見つかる。呼び出される。怒られる。

「うわぁあああ、お仕置きだぁああ。今度ばかりは見逃して貰えないよ」

「どうかされましたか?」

 僕が悶えているとスタッフから声を掛けられた。

「い、いいえ、こっちのことです」

 今更引けないよなぁ。

「魔石はどれくらい使うことになるんでしょうか?」

 ロメオ君が興味本位で棟梁に尋ねた。

「やってみないと分からんが、たぶん全体を暖めるだけで中くらいの魔石が…… いや、でかいのがいるかも知れんな」

 げっ! 金貨五十枚! 火の魔石(大)は魔石のなかでもダントツに高い代物だ。

「温度を維持するだけでも魔力の放出が常にいるだろうしな。こりゃ金食い虫になるぞ」

 マジですか…… いくら潤沢な資金があるといっても、一回飛ぶのにその予算は…… せめて十分の一にならないでしょうか?

「保温の術式ってありませんでしたっけ? 無茶苦茶寒い地方なんかで使ってる。それを使えば一度暖めれば追加の燃焼はいらなくなりませんか?」

 若いスタッフの兄ちゃんが意見具申する。

「おお! そうじゃ、その手があったわ」

「そんな便利な術式があるんですか?」

 僕は飛び跳ねた。そんな術式があるなら避暑地なんていらないじゃないかと。

「術式一枚、金貨百枚だ」

「へ?」

「直径十五メルテなら二枚…… 念のために三枚かの」

 金貨三百枚? 火の魔石(大)より高いじゃないか!

「その寒い国の専売特許なんじゃよ。セキュリティーも掛かっておるから覗こうったって無理だぞ」

『楽園』のなかにあったよ、確か。抜かった、記憶しておけばよかった。

「どうします?」

 スタッフがマギーさんに指示を仰ぐ。

「あれってワンシーズンしか保たないのよね。それに作動させるために結局魔石使うしね。効率はいいんだろうけど。そんなものに金貨三百枚はね……」

 えええ? 何? 期間制限があるの?

 あこぎだ…… あこぎ過ぎる。

 だからこの国の気候程度じゃ、誰も使わないのか。

「どうしますか?」

 マギーさんが僕に意見を求める。

「試乗やら何やらで本番までに何度か乗ることになるんだよね? その度に火を入れることを考えたら結局値段は変わらないんじゃないかな。手間を考えたら購入した方が得だよ。問題はバレたら飛行差し止めを食らって何もかも無駄になるかも知れないことだ。見つからない場所で準備しなくちゃいけない」

「じゃ、決まりね」

 マギーさんがその場で発注の伝票を切った。

 僕は金貨三百枚を支払うことにした。

「あれ? この革…… 硬くなってない?」

 ロメオ君が模型の気球部分を叩いた。

「ああ、凧蛸の皮革は熱で固まる性質があるんだよ。温度を下げるとまた柔らかくなるよ」

「それって…… 気球の形状を支える骨格がいらないってことですよね?」

「そりゃ、いい。思ったより軽くできるぞ」

「こりゃ、面白いもんができそうだ。商売やってる場合じゃないぜ」

 商売しろよ。

「これは忙しくなるわね」

 マギーさんは寝てください!



 かくしてわずか二日の徹夜作業で試作品は完成した。

 気球部分は空気抵抗を考えて横長の細長い楕円形になった。

 当初の予定を大幅に上回り、最長部で五十メルテほどの大きなものになっていた。

 それに伴い術式をさらに三枚購入する羽目になった。さすがに小切手を切る手が震えた。

 これで機体が無下(むげ)に没収されたら、術式だけ剥がして我が家の夏に利用してやるからな!

 楕円の袋の真ん中に人が乗るためのゴンドラが吊されている。

 気球の表面には上下、前後左右に複数の風の魔石が仕掛けられている。魔石の起こす風によって上昇下降は元より、機首上げ、機首下げ、左右への旋回が可能になっている。推進も可能ではあるが、燃費を考え、こちらは帆による推進がメインになっている。帆は気球とゴンドラの間を繋ぐメインポールに三角帆が張ってあるのみである。こんな小さな帆でも進むというから驚きだ。

 気球は二重構造になっていて外側の第一槽は密閉型の一度暖まると冷めない槽になっている。弁を開かない限り空気が外に漏れ出ることはない。全体の浮力の約九割を占めている。

 第二槽は調整用の袋で、気球内部、ポールの真上にあり、温度を調整することで、浮力の調整をする仕組みになっている。ポールの先端には赤々と燃える火の魔石が輝いている。

「これはもしかして…… 気球じゃなくて、飛行船というやつなんじゃ……」

 実験は数日間、夜中のうちにこっそり行われ、不備がないことを確認すると、当局に押えられる前に計画を実行に移すことにした。



気球じゃなくて飛行船ができてしまいました(汗

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