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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界12

「届け物だ。ハンニバルから頼まれた」

「なんですか?」

「急ぎの品らしいぞ」

 姉さんたちも集まってきた。

「陛下からだ」

 それは小さな包みだった。包装を解くと中から手のひらサイズの木箱が出てきた。文の類いは一切ない。

 箱のなかか?

 封をしてある木箱の蓋を開けるとなかから人数分のミズガルズ行きの年間パスが入っていた。箱の底からメモ書きが。

『これは祝いだ。長老たちの分は自前で頼む』

「陛下……」

「剣をおまけに付けて正解だったかな?」

『追伸。師団長もあの鎧を気に入った様子で、譲れとうるさい。すまぬが暇なときで構わぬからもう一式頼みたい。金は奴に払わせるので吹っ掛けてよし』

「……」

 吹っ掛けてよしと言われても、あの老人に交渉で勝てる気がしない。

 もう一着か……

 わざわざ希望する付与効果のメモまで入っていた。

 現役いつ引退するんだ、あの人は……


「船はもう動かせるそうですよ」

 マギーさんがワインに口に付けながら言った。

「早いですね。もう終わったんですか?」

「終わらせていかないと溜まる一方ですからね」

「フル稼働ですもんね」

「おかげさまで新設した工房の建設費を一括で払えそうです」

「あなたたちの戦い振りを見て欲しがる人たちが増えたそうですよ」

 エンリエッタさんが言った。

「個人で中型艇を買って行かれる方も増えましたからね」

「そうだ、コモド狩りもしないと」

「我らも最近、演習がてら狩らせて貰ってるからそっちは気にしなくて構わないぞ」

 サリーさんが言った。

「演習、続いてたんですか?」

「市街戦の訓練には持って来いのフロアだろ? おまけに他の冒険者の邪魔にならない独立仕様だ」

「苦労して秘密を暴いた甲斐があったかな」

「ゲート資格欲しさに騎士団の一部も休みの日に潜っているようだからな」

「姫様がご一緒のときは宝物庫も開けられますから資金的にも助かりますね」

 力業か……

 うちも『鍵開け』スキル持ってるのいないから、他の迷宮ではリオナに切って貰おうか。

 兎に角、後でドックに寄ってみよう。

 条件も揃ったし、通行パスも貰えた以上、いつでもあちら側に行けるからな。

 早々に準備しないと。

 ゴーレム開発も順調のようだし、要塞建設も始めないといけない。材料はダンディー親父の装備を揃えるついでに結構集まったし、誰の目も憚らずに現地で生産するのも面白いかもな。

 小さな浮島からコツコツと。『飛行石』はあるから増設はいくらでも可能だ。

 問題は簡易ゲートをどうやって手に入れるかだけど…… あれがないと地上から乗り移れないからな。一々地上に降ろしていては不便極まりない。大きくなればなる程小回りが利かなくなるだろうし。

「エルネスト、これをやろう」

 アンドレア兄さんが僕に紙束を差し出した。

 転移ゲートの設計図らしかった。

「現用の物とは少し違うが、設計理念に変わりはないはずだ」

 それは物も人も同時に大量に運べる優れ物らしい。スペック通りなら、一パーティーぐらいは一瞬で送れるようだ。物も中型艇ぐらいまでならそのまま運べるだろう。ミコーレが開発したあれと現行機の中間ぐらいの性能を発揮する物であるようだ。

 ミコーレのときと同様、大人の事情でポータル採用は先送りされそうだが、もしかすると異世界との移動手段としてなら採用されるかも…… 問題は魔力消費だけど、これなら効率化で浮いた魔力と相殺できるんじゃないだろうか?

「いいの?」

「どうせ採用されまい。なら有効に使わないとな」

 使うって?

「空中要塞を造るそうだな?」

 リオナに教えて貰ったと言った。

「要塞というより、空に浮かぶ生活拠点みたいなものだけど」

「完成したら見せて貰おうか。でもそのためには空の上に移動する手段が必要だろう?」

「図面貰っても僕には造れないよ?」

「誰も造れなんて言ってないだろう。レジーナを使え。これでゆすって簡易ゲート一つと交換して貰ってこい。嫌なら自分で造るとな」

「何気に酷くない?」

「妹を脅すわけじゃないぞ。『魔法の塔』の次官様をだ」

「だったら爺ちゃんに言ったら?」

「この歳で『お仕置き部屋』はごめんだ」

「素直に頼んでくるよ。これ渡しちゃっていいの?」

「新しいアイデアと引き替えに、ちょうどいい交換条件になるだろう」

 弟妹で遊ぶのはやめて欲しいんだけど……


「アイデアと交換でなんとかしてやる」

 姉さんが渋々折れた。

「ありがとう」

「祝いの品が思い浮かばなかっただけだ」

「エルネスト」

 エルマン兄さんが手招きした。

「何?」

「相変わらず、お前はチョロいな。すぐ兄さんに乗せられる」

「それを言ったら姉さんもでしょ?」

「あいつはお前に弱いからな。兄さんが直接頼み込むより確実なのは確かだが」

「そんなことしなくても…… 兄さんは姉さんを知らないね」

「まったくだ」

「ところで異世界に行った第一陣は戻ってきたの?」

「いや、行ったままだが」

「噂とかないの?」

「目下、情報統制中だ」

「何か悪いことでもあった?」

「いや、何も」

「状況が分かれば、持っていく物も決め易いんだけどな」

「取り敢えず日帰りでいいだろう?」

「そうなの?」

「…… まあ、食え」

 ごまかされたが、要は自分の目で確かめろと、そういうことらしい。

 年間パスじゃなかったら発狂するところだ。

「エルネスト君、少しいいかね?」

 窓口の職員さんが呼びに来た。

 商談だった。

 王様の装備を揃えるために大量に出たソウル品のはずれ装備をエルーダのギルドハウスに卸していた件で、まとめてあるだけ欲しいと本部経由で頼みに来た商人がいたのである。

 本部がそれでいいならと、師団長のための装備を狩るついでに出るはずれを回すことになった。

 なんでも金の工面に困ったお貴族様パーティーが一攫千金を狙って迷宮に潜りたいらしい。そのためにはまず外面からというわけだ。たまたま見て気に入ったそうでパーティー分の装備が欲しくなったらしいが、貴族なら工房で造った方がいいのではないか?

 今はどこも満杯状態だと言われて納得した。タロス戦役で傷んだ装備の修復、新調。順番待ちで数ヶ月後だ。

「値段を吹っ掛けられるのが関の山ですね」

 一瞬、悪党の類いかと思ったが、普通の時勢の波に乗りたいだけの商人だった。鍛冶屋が駄目なら少しでもいいドロップ品を。誰でも考えることだった。

「異世界楽しみなのです」

 お菓子を食べながら談笑するリオナをヴァレンティーナ様がどこか苦笑いしながら見守っていた。

「何か隠してない?」

「明日にでも行って見てくりゃいい」

「兄さんは行ったの?」

「俺にあのチケット代は無理だ。パトリツィアも今の状況ではうんとは言わんだろ? お前が元が取れそうな情報を持ち帰ってくれたら考えるさ」

「兄さんたちが一番早く送り込まれそうな気がするんだけど」

「そう言う意味では何か起きてるのかもしれんな。まあ、あの王様が我慢している段階で既にどうかしてる」

「言われてみればそうだね。あの王様や師団長がきょうまで我慢してるはずないもんな…… でもこっそり行ってたりして」

「本当に砂漠だけなのかも知れんな」

「砂漠はミコーレで充分だよ」

「俺も今週はこっちにいるからな。何かあったら帰ってこい。何もなくても帰ってこい。親父も話を聞きたがってるからな」

「来ればいいのに」

「残務整理で書斎が隙間なく書類で埋まってるんだ。見たら笑うぞ」

「兄さんも前線に出てたからね」

「母さんもな」

「……」



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