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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界(S級昇進)11

「これがA級のギルド証か!」

 透かしたところで見た目は変らない。ただ表記が変っただけだ。

 残念ながらいつもお世話になっているエルーダ村ではなく、スプレコーンのロメオ君ちでの登録更新となったわけだが、こればかりはしょうがない。『銀花の紋章団』に属する以上、強制依頼がアルガスからというのはよろしくない。

 当然の如く、冒険者ギルド、スプレコーン支店での登録変更となった。

 そしてダンディー親父の計らいで、リオナとピノも晴れて見習いが取れ、正式な冒険者資格を得た。そしてふたりの過去の清算が行なわれた。一緒に行動していたリオナはA級に、ピノはEを飛び越してD級に飛び級を果たした。

「おめでとう!」

 息子も昇格したロメオ君のお母さんがふたりに新しいギルド証を提示した。

 ふたりは弾けることなく、喜びを噛みしめるように無言でギルド証を見下ろした。

 ヘモジとオクタヴィアが代わりに部屋中を飛び跳ねて喜んだ。

 ピノのパーティーのみんなもピノのギルド証見たさに駆け寄った。

 そして部屋の外に引っ張り出すとリーダーの胴上げを始めた。

 周囲の冒険者もこの日ばかりは笑いながら光景を共有することを選んだ。

「一緒なのです」

 僕のギルド証と寸分違わぬそれを見比べながら、リオナは満面の笑みを浮かべた。

「やったな」

 やはり今まで仮免だったことをどこかで気にしていたようだ。

 チームランクは元より、周りのランクが上がってもランクのない仮免はずっと仮免のままだった。置いて行かれる自分を気にしないわけがなかった。下積みが後二年も残っているという現実もそれはそれで苦痛だったに違いない。

 ほっとした笑顔がそれを物語っていた。

 ふたりで冒険を始めた頃のあの無邪気な笑顔が返ってきた気がする。

 ご苦労様と言う前に、リオナはみんなに揉みくちゃにされた。


 その日のうちに領主館ではなく『銀花の紋章団』の本部から呼び出された。

 普段と変わらず、裏口から入ろうとしたら鍵が掛けられていた。

 開けてくれるように頼んだら、この日に限って「正面に回ってください」と言われた。

 渋々僕たちは戻って、街道沿いの入口から入り直した。

 重厚な大扉を開けると正装した職員たちがずらりと整列して待ち構えていた。

 そしてホールの正面にはヴァレンティーナ様と姉さんがこれまた正装して待ち構えていた。

「何これ?」

「これよりS級冒険者のギルド証を授与する。アールハイト王国第二王女にして、スプレコーンの領主、さらに『銀花の紋章団』のギルドマスターであるヴァレンティーナ・カヴァリーニ様より最高位のギルド証をここに送るものである。冒険者として他の手本となるよう、今後の活躍に期待するものである。これより呼ばれた者は順に前へ――」

「リオナ、気付かなかったのか?」

「ここのセキュリティーがきついのはいつものことなのです。不覚だったのです」

 A級のギルド証を貰って本人はそれどころではなかったか。

 ヴァレンティーナ様の御前にひとりずつ呼ばれて、S級のギルド証と賞状が手渡された。

 それから粗品として書状を入れる額縁も頂いた。それ自体が高価な芸術作品と称される、粗品と言うには余りに贅沢な品だった。

 しかもこれ、証書を入れて本部のロビーに飾るらしく、受け取るとすぐ手渡しで職員に戻された。

 リオナが後ろ髪を引かれるような思いで貰ったばかりのA級のギルド証を返却する姿を見て僕たちは笑った。

 それからホールには酒や食い物がふんだんに並べられて、宴会が始まった。

「公務は全部丸投げしてきたから飲むわよ!」

 リオナに抱きついて頬摺りするヴァレンティーナ様がいた。妹の昇進が余程嬉しかったのか、己が城にいる安心感からか、もはや外聞も気にしていなかった。可愛いからという理由だけでもごまかせはするだろうが。

「お前もとうとう年貢の納め時だな。あれ程自重しろと言ったのに」

 うちの姉も僕の首を絞めに来た。

「もっとゆっくり出世すればいいものを」としんみり囁かれて、少しじんと来た。

 ロメオ君もギルドの代表として出向いていた親父さんの太い腕に肩を叩かれていた。

 もはや息子の将来は安泰。冒険者ギルドの幹部への道も開けたようなものであるから、親父さんは大喜びだ。

 もっともゴーレム工房もあるし、魔法使いとしての道もある。ロメオ君の未来はもはや一本道ではないことを心しておいて欲しいものである。


「ロザリア、祝いに来てやったわよ!」

 突然、ギルド本部の扉が豪快に開かれ、かつての学友にして、トラブルメーカーの弟を持つファビオラが召喚獣のネーロと共にやって来た。

「どこで聞き付けた?」

「偶然、向こうであっちゃったのよ」

 困った顔もどこか笑っていた。

 身分が高いが故に僕たち以外の友人になかなか恵まれない彼女の数少ない気の置けない友人である。

 ネーロとヘモジとオクタヴィアはテーブルの下を行軍しながら、どの料理から手を付けるべきか、品定めをし始めた。


 外がなんだか騒がしい。

 お客か? 今日は臨時休業なんだけど。

「ここか? エルネストの家の隣じゃないか!」

「だからそうだと言ってるだろ!」

「これのどこがギルド本部だ。まるで大商会の倉庫じゃないか」

「今の『銀花の紋章団』の活動母体は商業だ」

「それくらい俺でも知ってる! それより早く覗いてこいよ、兄貴!」

「なんでわたしが!」

「俺じゃ、女子供の家人が出てきたら怯えるだろうが?」

「この町じゃ、お前より強面が山程いるんだぞ。気にしなくて平気だ」

 会話は丸聞こえだった。姉さんは頭を抱えた。

 二枚目の優男が扉の隙間から顔を出した。

 アンドレア兄さんを見たことがなかった女性職員たちがはぁーと溜め息をついた。

「さっさと入ってきなさいよ! 恥ずかしいッ!」

「おお、やはりここだったか、可愛い妹よ。エルマン、ここだ! やっぱりここであっていたぞ!」

 扉がぞんざいに開け放たれた。

『災害認定』者がふたり揃ってやって来た。

「すまん、エルネスト! 慣れん身支度で遅れてしまったわ。祝いに来てやったぞ!」

 ズカズカとやって来て、いきなりでかい手で僕の頭をかき乱した。

「来るなんて聞いてないよ!」

「授賞式ももう済んだわよ。サプライズゲストが遅刻してどうすんのよ!」

 どうやら姉さんが手配していたらしい。

 エルマン兄さんは姉さんに怒られて苦笑いしている。

「ああ見えて弟思いなんだ。ギリギリまで土産が決まらなくてね」

 アンドレア兄さんはスルリと姉さんをかわし、ヴァレンティーナ様の隣に収まった。

「大戦ではご活躍だったそうで、父も大変喜んでおりました」

「陛下はお飾りにされてさぞ気を揉んでいたことでしょうね」

「そうでもなかったみたいですよ。なかなかスリリングだったみたいで」

「最初の遭遇戦は不運でしたね」

「殿を務めてくれた者たちには手厚く武功に報いるつもりです」


「ほお、これがS級冒険者のギルド証か…… 代わり映えしないな」

 サリーさんとエンリエッタさん、それにマギーさんもやって来た。



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