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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界10

 雪はやみ、一日挟んで肉祭りの二日目も無事終わった。

 パスカル君たちはその翌朝、何倍にも膨らんだ手荷物を抱えてゲート部屋の前に集まっていた。

 お世話になった学院長には僕から、エンシェントドラゴンの肉入り『ドラゴンステーキ肉の豪華詰め合わせセット』と、学院の紋章の入った中型艇を一隻、送る旨を伝えた。船は公務で使って貰っても構わないし、生徒の送迎に役立てて貰っても構わない。

「あのお歳でお肉なんて喜ばないんじゃ?」

 ビアンカが疑問を呈した。

「学院長、家族いたろ?」

 パスカル君が答えた。

「死ぬ前にいろんなドラゴンの肉が試食できるんだから本望だろ?」

「お前、ひどいこと言うね」

 ファイアーマンの軽口にアルベルトさんは呆れた。

「お世話になった僕たちがお返ししちゃ駄目なんてね」

 ダンテ君が友人たちへのお土産がパンパンに詰まった手荷物に埋まっていた。

「教師への贈答は賄賂に該当する」

 ナタリーナさんとシモーナさんが身支度を終えて階段を下りてきた。

「これ、お願いね」

「任せるのです」

 フランチェスカがリオナに運搬する荷物の送り状を全員分、預けた。

 荷物の半分はこの町の贈答用の土産品で、残りは衣類や魔法関連の蔵書やアイテムの類いであった。

「それじゃあ、長い間お世話になりました」

 全員が僕たちに頭を下げた。

「すぐ春だ。また遊びにおいで」

 アンジェラさんが涙目で笑った。

「ばいばい」

 フィデリオが手を振った。

「気を付けて」

「また来ます」

「師匠ーっ!」

「うるさい、サッサと帰れ!」

「ほら、行くわよ」

 ゲートに押し込まれたファイアーマンを先頭に皆、ゲートの光のなかに消えた。

 フィデリオが面白がって、キャッキャと喜ぶものだから切なさが二倍になった。


「静かになったな」

 アイシャさんがソファーに身を投げて言った。

「最長老も帰ったことだし、これでのびのびできるな」

 エテルノ様がチビなりにおおきく伸びをした。

「ロメオ君と工房ですか?」

「エルフ統括の領事館を造ってくれるというのでな。姉上と場所の下見をする予定じゃ。それが済んだら合流する予定じゃ」

「じゃ、僕はこれを配送業者に頼んでくるかな」

「リオナも行くのです」

「ナーナ」

「オクタヴィアも」

 配送業者といっても、魔法関連の高価な品を扱える所に頼まなければいけない。

 となれは『銀花の紋章団』の窓口が最適だ。団員割引もあるし、何かあったときの保証も確かだ。

「結構、溜まるものだな」

 全員の分をまとめると木箱に四つ程の量に相当した。なかには割れたら困るビアンカの高価な調合器材も入っていた。『銀団』のオークションの日に見付けた掘り出し物だそうだ。競る相手がいなくて安く買えたと喜んでいた。


「ロザリアはまだ帰って来ないのか?」

「お父さんが行くはずだった寒村の慰問に代わりに行くと言ってたです。前からの約束だったから断われないって」

「照明担当がいないと、ソウルのいるフロアは暗いからな……」

 僕たちはいつもと同様に中庭の廊下に面した本部の裏口に荷物を下ろすと、カウンターに顔を出した。

 事前に書いて貰った送り状をリオナが窓口に提出した。

 戦の後始末でお金のやり繰りに困った貴族や金持ち連中が家財を売り払う頃合いなので、今度のオークションは狙い目だと教えられた。

 競売品のリストができたら一部、貰うことにした。リストは参加料込みで有料である。

「今からお金貯めるのです!」

「ナーナ!」

「頑張る!」

 リオナは兎も角…… お前たちが欲しがるような物はないぞ。むしろ同時に開かれる雑貨市の方にあるんじゃないか?

 代金とリストの前金を払うと僕たちは建物を出た。

 裏口から外を覗くと雪景色のなかに余り見たくない物を見付けた。

「やっぱり造るのか……」

 今年は戦のせいで自重していたので、このまま造らないのかと思っていたら、この大雪で疼いたのか、ソリの滑降コースを村の男たちが老いも若きも関係なく、総出で造り始めていた。

 気の早い子供たちがひよこスタイルのお尻の膨らんだつなぎを着て、ソリを抱えて森に入っていく。

「やっと新しい年が来た気がするのです」


 家に戻るとピノがいた。

「兄ちゃん、照明係、俺がやる!」

 相変わらず耳聡い。

「自分のパーティーは?」

「開店休業中」

 迷宮探索よりソリ遊びか。

 でも、そうなると光の魔石が入り用になるな。

 僕たちは装備を整えに地下に下りた。


 結局、ピノとリオナを加えた、この面子で今日も迷宮に入ることになった。

 索敵要員三人と戦闘員二人、内一人はサボり気味みたいな感じだ。回収品になる鎧は傷付けられないから、リオナの出番も正直余りない。宝物庫漁りのときに頑張って貰うことにしよう。

「兄ちゃん、俺も異世界(ミズガルズ)に行きたい!」

「うちのパーティーがA級になったらな」

「俺、A級じゃなくて平気?」

「パーティーがA級なら問題ないよ。他のパーティーだって荷物持ちとか連れてるだろ?」

「あ、そっか」

「ただ、通行パスは自腹だぞ。一年間有効で金貨千枚だ」

「高いよなぁ。兄ちゃんと宝物庫漁りしてなかったら絶対溜まんなかったよな」

 ドラゴンの首を何度も獲ってるからな。ピノもこう見えて金には不自由していない。ただ、これが十年先まで続くとなると家族が難色を示すかも知れない。何もないところだというから、それに見合うお宝が向こう側にあるとも思えないしな。

 通行料がそのうち安くなることを祈ろう。



 その後、帰宅した僕はオブジェとして残されたままになっていたエンシェントドラゴンの頭を博物館まで運ばされることになった。

 王様の依頼が完了したのはそれから一週間後のことだった。



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