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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界7

 今後、各国の首都、並びにそれに準ずる都市のポータルにはミズガルズ行きの案内が出ることになるらしい。それによって一旦、ゲートキーパーが管理する専用ポータルに飛び、そこから荷物検査や身体洗浄などの入念なチェックを受けたのち、あちら側の端末に飛ぶことになる。あちら側の端末は要塞内にあり、同じ手順で地上に設置したポータルに飛ぶ予定になっている。いずれ要塞も落ち着ける場所を探すようだが、今は警戒モードを維持するらしい。だが、問題は最後の行程にあった。

 タロス残党や、システムを破壊しに来る不心得者が侵入する可能性を考えて、最後のポータルポイントには管理者自らが封印を施したらしい。

 そのせいで当分の間、渡航資格が厳格化されるとのことだった。

「半年を目処に、先方への派遣資格をA級以上の冒険者、並びにそれ以上の能力を有する者のみに限定する。一般の者の渡航は今しばらく待っていただきたい。さらに異世界への渡航には転移一回に付き、魔力の消費量等を鑑み、一人に付き金貨百枚とする。これには渡航に関する身体検査費用等も含まれる。向こう側の整備が整い次第順次緩和していく予定だが、今のところ厳重に制限を掛けるものとする」

 さらに向こうから持ち帰った物に関しても検閲が掛けられるそうだ。

 タロスの亡骸の調査も進んでいる。未知の病原菌などの可能性も考え、管理者やハイエルフたちの指導の下、徹底される予定である。

「えー、俺も行きたいのに!」

「僕たちはどうなるの?」

 ピノやテトが不安がった。

 普通、金額を聞いてまず怖じ気付くものだが。

「それ以前に僕たちB級だしね」

「あう……」

「何? あんたたちまだB級なの!」

 姉さんに言われた。

「呆れたわね」

 マリアベーラ様にも呆れられた。

「あんまり依頼こなしてなかったんで」

「魔石の売買だけでも結構行ってるはずなんだけどな」

「リオナは見習いのままなのです」

「魔石は頭打ちになるよ。小さい物だと数が必要だし、大きい物だと依頼自体が少なくなるから」

 ロメオ君が言った。

「最深部は有料情報になってるから、その辺りの依頼が掲示板に並ぶこともないからなぁ」

「なら、依頼を出そう」

 ダンディー親父が帰って来て言った。

 猫耳フード脱ぐの忘れてただろ? まあ、ここは獣人村だから、そういう演出だと思われたかも知れないけど。

「あの熊娘に取ってきたレベルの装備一式をそうだな…… 俺が着られるサイズの物を王宮に収めよ。それでA級に上がれるだけの金額を依頼料としてギルドに払おう。お前たちには今回の働きに対する礼らしい礼もできんしな。それにリオナとピノ、お前たちの見習い資格もわしの方からギルド長に相談してみよう」

「はい! ありがとうござます」

 ピノ、噛んでる。

「ありがとうなのです」

 船を持ち込めないのかと聞いたら、当分必要ないだろうと言われた。

 どういう意味だろう?

「A級と言わず、S級にもなってしまった方がいいのではなくて?」

 マリアベーラ様が言った。

「そうじゃな、ギルドの枠に収まりそうにないからの」

 爺ちゃんが言った。

「今回の大戦の働きで資格は充分でしょうしね」

「なら、A級になり次第、ヴァレンティーナに承認するように言っておくといい」

 トントン拍子に話が進んでいくが、要するに国難に際してはいつ、いかなるときでも召集が掛けられるということだ。今回以上のことがそうそう起こるとは思えないが。

 ダンディー親父的には向こうの世界を探索する人手が欲しいのだろう。

 こちらの世界では大戦の後始末にもう少し掛かるし、西方遠征だってまだ道半ばだ。ミコーレの砂漠緑化もまだまだ始まったばかりである。

 こちらの世界だけでもやるべきことが山積している。


 勅令は新天地に赴きたい者たちには期待を裏切る結果になったが、それは得てしてこちらの世界の安全をまず考えてのことだ。

 王様が自ら半年と期限を切ったことで大方、好意的に受け止められた。


 日暮れと共に予想より早く雪がちらつき始めた。

 村人たちと勝手知りたる町人たちはガラスの棟や、滝壺裏の洞窟で二次会を始め、外から来た人たちは帰路に就いた。

 ユニコーンの子供たちは温泉に浸かりながら雪景色を堪能しようと泊まり込むことに決めたようで、人気のなくなった村のなかを散歩し始めた。

「ほお、あれがユニコーンの子供たちか」

 ダンディー親父が我が家のベランダから町を見下ろした。

 帰らなくていいのか?

 爺ちゃんはドナテッラ様が迎えに来て、城に何年かぶりに帰った。

 酒場は盛況だった。そこだけ眩しく輝いていた。

 ここまで騒いでいる声が聞えてくる。

「セキュリティを強化するためだと言ってましたけど? 具体的には?」

「それは現地に行ってのお楽しみじゃな」

 最長老たちが帰ってきたとエミリーが知らせに来た。

「どこ行ってたんだ?」

 祭りの最中、どこかに消えていたふたりが戻ってきた。


「エルネスト、お主たちの別荘地をハイエルフの窓口にすることにしたぞ」

「え?」

「あそこ?」

「森の難度も高いし、少し行けば隠れ里もあるしの」

「どこが少しなんですか! 大山脈越えですよ。この町からの方がよっぽど近いし楽ですよ。それにあっちからいったらロック鳥の主もいるし、森にはウィスプも徘徊してる。飛空艇なしじゃ不便ですよ」

「だからよいのじゃ。誰でもやってこられる場所であっては困るじゃろ? あくまで最初の寄港地として、人族たちと接触するための橋頭堡として利用させて貰おうというのじゃ」

「僕に異存はないですけど、あそこ管理してるの実質、姉さんですから」

「姉はどこじゃ?」

「パスカル君たちに最後の授業をしてるんじゃないですか? アイシャさんと一緒に」

「そうか…… あやつらも学院に帰るのか」

「まだ休みじゃないですからね」

 最長老はダンディー親父と話し込んでいた。

 子供たちも自宅に帰って、すっかり静かな夜を迎えていた。

 夕飯の席でエンシェントドラゴンの肉を初めて食べた最長老が絶句した。

 ハイエルフとの交流は意外にすんなりいく予感がすると皆が笑った。

「エルネスト君。お土産、分けて貰ってもよいかの? 里の者たちにも食わせてやりたいのじゃが」

 顔に似合わずハイエルフの語り口はやはり年寄り臭かった。



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