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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界3

「報奨はあったんですか?」

 アサシンさんに聞いた。

「依頼の報酬ならさっきな。他にも現場に来た商人たちに回収品を売りまくったからな、いい稼ぎになったぜ」

 どうやらソーヤたちは飛空艇の購入を考えているらしい。この町に寄ったのは半分そのためのようだ。ドラゴンタイプでも倒したかな?

 戦場では回収品はその地域を担当した国や領主の物になるのがルールだが、ソーヤたちの話ではファーレンから今回、兵は出ていなかったらしい。暫定政府にはまだ外に出せる程の兵力がないのだそうだ。

 その結果、ノルマはソーヤたち冒険者に丸投げ、ギルドのルールが適応されたらしい。つまり自己責任だ。

「商人の話じゃ、結構、冒険者で頭数を揃えた地域が多かったらしいぜ。小さいところは特に常備兵だけで手一杯だからな」

「地元のギルドがでかければそれでもいいけど……」

「ファーレンはその点、恵まれてたな」

 倒した獲物にはタグを付ける。複数のパーティーで倒したなら参加したパーティーすべてのタグを付ける。

 他人の獲物に手を出さないように戦う面倒臭さはあるが、冒険者なら手慣れたものだ。途中参加は許可されてから、がセオリーだ。

「船を購入するなら早い方がいいと思いますよ。同じことを考えている人、多そうだから」

「もう列ができてたよ」

「リーダーが受付に並んでるわ」

「そりゃ、お気の毒」

「おっと、みんなが呼んでる。じゃあ行くわ」

 エミリーに呼ばれて、僕も裏方に戻った。

「あの……」

 エミリーが言葉に詰まっている。

「何かあった?」

「来てます」

「何が?」

「猫耳フード」

「何?」

「フードを被った王様……」

「へ?」

「王様です」

「王様、どこの?」

「戻ってきました。だ、ダンディー親父さん……」

「はぁあ?」

 思わず声を上げてしまった。

 エミリーの後に付いて我が家の関係者専用のテーブルに向かうと、さっきまで僕が着ていた猫耳フードの外套と同じ物を着て飯を食ってる奴がいた。

「エルネスト、ピザだ、ピザを焼いてくれ」

 ブレスを吐く前のドラゴンみたいに肉を頬張っているダンディー親父がいた。

 リオナが甲斐甲斐しく給仕をしていた。

「お酒じゃなくてもヘモジのジュースは最高なのです」

「その格好、なんです?」

「王の威厳を隠すために決まっておろう。な」

 声を掛けられたピノたちが固まっている。

「手が止まってるぞ」

「おおーっ!」

 呆けてる自分に驚くなよ。

 みんな威厳じゃなく奇行振りにどん引きしてるんじゃないのか?

「エミリー、窯に火、入ってるか?」

「レオがもう焼かされてます」

「焼かされてる?」

 釜の所に行くと見慣れぬ人影が。

「うっ…… 最長老…… 様」

「やあ、挨拶が遅れて申し訳ない。いつもエテルノたちが世話になって、すまないね」

 こ、声が若い! やばい、美男子過ぎる! 

 裏方のおばちゃんたちがチラチラ覗き込んでいた。心なしか若い女性が多いと思ったら……

「い、いいえ、世話になっているのはこちらの方です。いつも勉強させていただいております」

「ほら、レオ。炎が乱れてますよ」

「は、はい!」

 さすがにアイシャさんを相手にするより恐縮しているようだ。

「へー、これがピザ窯という奴なのね。なかはこうなってるのね」

「か、母さん?」

「レオ君、炎は乱暴者に見えるけど、そんな炎ばかりじゃないのよ。蝋燭の炎は優しいでしょ?窯の炎はどんな炎なのかしら?」

 集中してるんだから邪魔するなよ。

「自分がどう炎を制するかじゃないのよ? どう手助けしたら気持ちよく燃えてくれるか考えるのよ」

 どういうわけか、レオは何かを悟ったようで、急に制御がうまくなった。

「ああそうだったわ。ピザ一枚追加で」

「ああ、わしらも何枚か貰おうかの」

 爺ちゃん?

 なんで再集結してんの?

「この家で護衛が必要になるとも思えんが、一応、頭数は揃えとかんと」

 同伴してきた帰還組の年寄り連中とゼンキチ爺さんたちが酒を酌み交わしていた。

 僕は完成したピザ一枚を持ってダンディー親父の元に戻った。するともうひとり、増えていた。

 ミコーレの皇太子…… ジョルジュ殿下だ!

「やあ、久しぶり。さっき食べただけじゃ物足りなくてね」

 年寄り標準だったからな。皇太子殿下には足りなかったのはよく分かる。却って部下たちの方がたらふく食えていただろう。

 テーブルに皿がリオナともうひとりの後ろ姿の手で並べられていった。

 その細い指は覚えてる。マリアベーラ様だ。

「ほんと珍しい料理ばかりね。ヴァレンティーナったら、こんな食材があるならもっと早く教えてくれればよかったのに」

 肉ばかりではなく、母さんが持ち込んだ最近の食材のことも指しているようだった。

 姉と一緒でリオナも嬉しそうだ。

「今回も活躍したみたいね」

「おかげさまで」

「うちは何もしてないわよ」

「なんで戻ってきたんです?」

 王様に尋ねた。

「バーターじゃよ。ロッジが取引したんじゃ。陛下も元々大事にする気はなかったんじゃよ」

 振向くと爺ちゃんがピザの皿を持った姉さんを連れて立っていた。

 姉さんは捕まっちゃったという顔をした。

「母さんと喧嘩しないでよ」

「しないわよ!」

「各国との交渉を有利に進めるために、色々な。差し詰め秘密パーティーへのご招待という奴だ」

 だから食いながらしゃべるなよ。

「門扉は開かれてますよ」

「肩書きが邪魔をするんじゃよ。顔を会わせたこともない相手の屋敷に他国の元首クラスがひょいひょい顔を出すわけにはいかんじゃろ?」

「前々から噂になってたのよ。この家の祭りのことがね」

 マリアベーラ様が言った。

「店子との内輪の祭りですよ?」

「今や町の祭りを通り越して、全国区になり始めてるわよ。今回の件で国境越えたわね」

「春と秋の町の大祭のときはイベントの一つとして開催してますけど、普段は門扉は閉めてますし、開ける気はありませんからね」

「だから伝説になるのよ。開催日時も不明、参加する条件も不明。この町の物件がどれだけ値上がりしてるか知ってるの?」

「そうなの?」

「住人は条件なしで入れるという噂だけ一人歩きしてるからな」

 姉さんが言った。

「子供を区別する気はないからね」

 遠巻きに町の子供がこっちを覗いてる。

「あの人が王様? 猫耳フード被ってるよ」

「この国大丈夫?」

 側にいた給仕のおばさんに話し掛けた。おばさんを始め、周囲の大人たちは凍り付いた。

「やっぱりその格好は無理があったのです」

「今日は無礼講じゃ、気にするな」

 だからその格好で言われても……

「若様の知り合いじゃ、しょうがないか?」

「そうだね」

「リオナお姉ちゃん、ヘモジちゃんのジュースまだありますか?」

「い、いいっぱいあるのです」

 リオナが笑いをこらえながら相手をした。

 みんな爆笑寸前だった。

「弟君も大変ね」

 マリアベーラ様の一言で会場全体が笑い転げた。



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