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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界2

 いきなりハイエルフの最長老が現われて周囲を圧倒。全員が喉を詰まらせた。

 最長老というから爺ちゃん並の年寄りかと思ったら、アンドレア兄さんぐらい若く見えた。

 王国の貴族連中はドラゴンの肉料理を食べ慣れてきていたが、周囲の国ではまだまだ伝説級の珍味レベルで、用意された様々な肉が驚きを持って迎えられた。

 それは最長老も例外ではなかった。

 (さなが)ら国際会議の昼食会の様相を呈してきた。

 報酬の再分配など喧々囂々となる事態は既に昨日のうちに済ませたようで、和やかなムードで時が流れた。

 獣人の子供たちは今頃、どこかで地団駄を踏んでいるに違いなかったが。

 本日の本命その一、タロスのドラゴンタイプの料理が出された。タレは数種類用意されたが普通に焼き肉だった。各国が持ち帰る報酬の一部だから、さぞ興味を引くだろうと思ったが、感動は意外に薄かった。

 よくよく考えたら他の代表たちも昨日のうちに試食を済ませているわけで、悪い肉ではないだけに至極残念な反応であった。

 勿体振らずにあれを出せと伝言が来たので出すことにした。

 ほんとにせっかちなんだから。

 エンシェントドラゴンの肉とブルードラゴンの肉を一皿にして、食べ比べて貰う趣向にしたようだ。他にエンシェントドラゴンの肉だけで数種類の料理が提供された。

 食べ放題の肉祭りなのに、保安上の理由からその趣旨は大きくねじ曲げられた。

 ただ、随行している人たちには今まで通りの趣向で、お代わりも自由だった。

 代表たちに随行する多くの人たちで会場の椅子がそれなりに埋まったから、領主館でやればよかったのにとは言わないが、ここでやる意味があったのか? 祭りにお忍びで来る程度でよかったのに。これではリオナも余所行きの仮面が外せない。これはヴァレンティーナ様とダンディー親父側のミスである。

 式典であんなことを言ったら、流れで全員引き連れてくる羽目になるとは思わなかったのか? お忍びがお忍びでなくなった段階で、こうなると。

 こんなことなら先に肉を提供しておいた方がよかったか? こっそりエンシェントドラゴンの肉を目玉に出そうと奇をてらった僕たちが悪いのか?

 兎に角、今更起きたことを悔やんでも仕方がない。酔わない程度にしか酒を飲めないダンディー親父が既に報いを受けている。


 とはいえ、食事会は盛況だった。

 特に随行者たちには大いに喜ばれた。正規のルートでは一生お目にかかれない食材のオンパレードなのだから、当然と言えば当然だ。

 エンシェントドラゴンが五十階層には出ないことはヤマダタロウに聞いて既に分かっている。

 異空を越える敵など出現させたら、階層を無視して暴れ回られてしまうからとのことだった。異空を越えない種なら出るかも知れないと臭わされたけれど…… 眉唾だと思いたい。ゴールに死刑台が置かれているようなものだ。

 転移に代わる追加スキルなど考えたくもない。


 母さんが言った通り、時間を掛ける食事は皆、苦手のようで、重鎮たちは一時間もするとソワソワしだした。忙しさが染みついているようだった。

 おかげで予定より早くお開きになって、ピノたちの顔をほころばせた。

 帰り際にお土産をごっそり領主館の使用人たちに持たせた。

 一見大量に見えるが、エンシェントドラゴンはカラードよりさらにでかいのだ。ドラゴン博物館の展示スペースも再考しなければならない程に。


 そして入れ替わりに入場してきたのが、散々待たされた村の子供たちだ。雰囲気があっという間に変った。

「お腹減ったーッ」

「若様、こんにちはー」

「外套脱いじゃったの?」

 さすがにあれを着て重鎮をお迎えするわけにはいかないだろ?

「オクタヴィア、やっほーっ」

 オクタヴィアはおざなりに尻尾を振って挨拶した。

「ヘモジは?」

「あっち」

「あーっ、兎の先生だ!」

 料理研究家のキャロル女史だ。取材が入っているようだった。

 今日は講演ではなく料理のアイデアで協力して貰っている。

 親たちも入場してきて、いつもの定位置をほぼ確保したようだ。

 門扉から外部のお客さんたちがどんどん入って来る。用意した席は満杯。敷物を敷いて森のなかにまで人を入れ始めた。

 夜通し続くので食べられない人はいないと思うけれど、明日、第二部を開く予定になっているから時間のない人には整理券を発行して出直して貰うことも考えている。

「ユニコーンたちにもお裾分け終わったよ」

 テトたちが戻って来た。

 ユニコーンたちも今日は無礼講である。ヘモジが全国から厳選した野菜や果物を食べ放題だ。一応雑食なのだけれど、ドラゴンの肉より野菜や果物の方が喜ばれる。肉切り歯じゃないので飲み込むだけになってしまうからだろう。

 早速リオナが壇上に上がった。

「皆さん、一月遅れですが、新年明けましておめでとうございます。人類史上最悪の日は去りました。ようやく安堵できる日々が戻って参りました、です。というわけで今年最初の肉祭りなのです! 今日のメインはあれなのです。では頑張って食べるぞーッ! かんぱーい」

「かんぱーい!」

 子供たちが口を揃えてコップを掲げた。

「酒だ、酒だ! 領主様から今年もご寄付いただいたぞー」

 酒屋の亭主が声を張り上げた。

 既にドワーフ連中が酒樽を積んだ荷馬車に群がっていた。

「元気でやってるかー」

「誰だ、お前」

 アイシャさんがいきなり手痛い一言で迎えた。

「ひ、ひどい!」

 琥珀色の肌をしたガッサン・ヒクマトである。

「背が伸びたんじゃないか?」

 ミコーレ三傑のひとり『ミコーレの突撃将軍』こと、ヒクマト・へサームの息子である。学院の卒業生でパスカル君たちの先輩に当たる。

 今日は妹さんと一緒で将軍を迎えに来たついでらしい。

「あれってなんだ?」

 僕にこっそり聞いてくる。

 ごにょごにょごにょと僕が答えると「エンシェントドラゴン! マジか?」と驚いた。

「他の肉が食えなくなるぞ」

 アイシャさんに真顔で言われた。

「う…… それは困る」

 もしそうだったら、この場に獣人たちはいない。

「よー。遊びに来たぞ」

『氷の精霊』こと『グラキエース・スピーリトゥス』の一行も現われた。今回手を貸してくれたファーレンの冒険者も一緒だった。

「席はあるんですか?」

「ああ、ばっちり予約席だ」

 予約席?

 他の冒険者が席を用意したらしい。戦場で袖触れあったという奴か?

「変な噂を聞いたんだが……」

「なんでしょう?」

「ドラゴンの肉が食えるというのは本当か?」

 情報が一週遅れている……

「今回、回収したタロスのドラゴンも出ますよ。ゆっくりしていってください」

「マジかよ!」

「へー、ここがお前たちの家か。でかいな。さすが空飛ぶ船を持ってるだけあるな」

 ソーヤがガラスの棟を見上げて感心した。

「家はあっち。それは獣人たちの福利厚生施設だ」

「え? あっち?」

「壁で見えん」

 お得意のスキルで飛び上がった。

 そして下りてきて言った。

「変な家だな」

「余計なお世話だ!」


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