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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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始まりの日(憲章発布)5

「この町のガキは獣人もユニコーンも整列ひとつ満足にできないのか? 所詮獣と魔物ということか?」


 兄さんがつぶやいた。

 耳のいい獣人とユニコーンが聞き逃すはずがない。

 獣人の子供たちの手が止まった。それに併せてユニコーンの子供たちも止まった。

 騒ぎがあっという間に収まった。

「やればできるじゃないか。さすがは獣人とユニコーンだ」

 大人たちが苦笑する。

『やれやれ』

 ユニコーンの親たちも項垂れる。

 そもそもの原因は自分たちだろうに! 

「今日のおやつ代はリオナ嬢ちゃんの奢りじゃな」

「えー、なんでぇ?」

「小さな子もいるこんなときに干し肉食ってたリオナちゃんが悪いべさ」

 さすが長老、本質を見誤っちゃいないな。

 でもあんたらも寝たふりしようとしてたからな。

「わたしのせいだ。わたしが持とう。ポポラの実でよかったかな?」

 と言いつつ兄さんが僕を見る。

 分かりましたツケですね、お兄様。高めに付けておきます。

 子供たちはおやつが確約されたことで安心したのか、すっかり大人しくなった。現金な奴らである。

「――新たな都市の誕生をここに宣言する!」

 あっ、ヴァレンティーナ様の演説を聞き逃してしまった……


 式典は憲章の発布に移行した。

 この領地独自のもので最大のものは、やはりユニコーンに対する規定である。

 同等に扱うというこれまでの暫定ルールが踏襲される形になった。

 僕に関係することでは、やはり獣人の森に関することがいくつか上げられる。

 まず、うちの敷地の西側、中央広場寄りの公園を憩いの場として人族にも開放すること。公園の造成完了に伴う入場制限の解除が告げられた。

 合せて、この地での植物採取は管理者以外には認められないことも発表された。私有地故、勝手に薪や薬草を取ってはいけないということだ。当然管理者は僕だが、事実上長老議会が代行する。管理事務所はガラスの棟に設置することになっている。

 一方、それ以外の森への侵入は基本不許可。住人以外はすべて許可制になる。ユニコーンがいる以上、止むを得ない処置だろう。こちらの管理も長老たちの仕事になる。

 ユニコーンたちによる朝の散歩を兼ねた運搬依頼も、ガラスの棟が窓口になることになっている。これもこれまで通り、慣行を維持することになった。大工や配達作業員たちとの間に既に信頼関係が築かれていたので市場に任せることにしたらしい。

 さらにガラスの棟の温泉大浴場が一般にも開放されることになった。

 ひとり五百ルプリ。子供は十歳まで無料ということで最終決定がなされた。

 移住開放を前に人族の入場をどうするか話し合われたが、既に気にせず利用する者たちがいることから一切の条件を排除した。

 ユニコーンの子供たちも入りたいと言ったがさすがに体格的に無理なので、そちらには天然の温泉を別に森のなかに造ることで解決した。大人たちも入りたいというのでさらに大きい物を目下、造成中である。ちなみにこちらはユニコーン以外入浴禁止である。聖獣と共に湯浴みなどおこがましいというのが理由だが、滝壺では子供同士がいつも楽しそうに水浴びをしている。禁則が解かれる日は遠くないだろう。


 余談であるが、東門近くの街道横に建築途中の店舗がある。『マギーのお店』なる軽食&お土産の店である。一階がお土産売り場、二階が見晴らしのいい喫茶スペースになっている。

 やがて大人のユニコーンの入場も頻繁になると踏んだマギーさんの先行投資物件である。

 東門は既にユニコーンの専用通路と化していた。

「一目、本物のユニコーンを見たい」という観光客たちが押し寄せる、出待ちスポットになるとマギーさんは踏んでいた。別に町中を闊歩する子供たちが偽物というわけではないのだが、みんな角が生えた一角獣を見たがるに違いないと予想したのだ。

 街道を通過するのは東門からガラスの棟へ続く門扉までのわずかな区間だけである。

 観光客相手に出待ちスポットを提供し、軽い食事と観光みやげで儲けようとはさすが商人の娘、利にあざとい。

 残念ながら道の向こう側なので僕の実入りにはならないのだが…… 獣人たちの盛り場にならないことを祈るばかりである。


 公共ポータルの利用料金も決定された。

 ま、行き先は限られているのだが、アルガスへはあちらの設定と同額の金貨一枚を設定した。「安くしろ」というこちらの申し出が無視された形で、結果的に北の砦にも自前でポータルの設置を行うことになった。予定より早いが、領界ギリギリに第二都市の礎を築く決定がなされた。

 現在、あそこのシェフの料理が美味しいと評判で、わざわざアルガスから泊まり込みで食べに来るお客も増えてきているそうだ。

 その足をこちらにもというのが領主の企みでもある。利用料金はわずかに銀貨一枚。同じ領地間の移動なので二重取りは発生しない。片道に直すと五百ルプリ、小銀貨五枚である。

 さらにまだ開通していないが、実家のあるリバタニアとも小銀貨五枚、往復でも銀貨一枚での往復を可能にする予定だ。

 両領地間で物資搬送用の地下列車。例の振り子列車を本格稼働させる取り決めもなされた。いざというときの兵士輸送を考えてのことだが、平常時は商業移送施設として稼働させる予定である。ドワーフの町ゴリアテを経由しての弾丸列車だ。ちなみにゴリアテへの入村は許可制なので許可証のある商人限定の利用になる。こちらは少々お高く、どこまで行っても基本個室利用で片道金貨一枚である。積載は基本超過につき、一定重量ごとに金貨一枚ずつプラスされる。どんなに高くても金貨十枚が上限である。

 きょう、たまたま会談を持った領主同士が場当たり的に決めたことだが、多分にしてアルガスに対する嫌がらせが含まれている。

 どれもこれも姉さんの仕事になりそうだったが、母さんのおかげでブースト状態の姉さんにはちょうどいい鬱憤の捌け口になりそうである。



 式典後、入居地の選定抽選会の段取りの説明がされていると、壁の向こうから煙が立ち上った。それも一箇所ではなく町を囲むように複数で。

 何事かと皆空を見上げる。

「襲撃だ!」

 誰かが叫んだ。

「退屈しないね」

 兄さんが不敵に笑った。

「始めるかの」

 長老のひとりトビ爺さんが振り返った。

 突然獣人の列に向かって杖を掲げた。

「何?」

 一斉に獣人の男たちが動いて、列のなかにいた十人ほどの別の獣人を拘束した。そのなかには突然叫んだ奴も含まれていた。

「何しやがる!」

「離せッ!」

 僕には何が起きたのか丸で分からなかったが、兄さんは涼しげに言った。

「捕縛完了」と。



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