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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(終結)29

 さて、とっても重要な検分がこの後行なわれることになった。

 何を考えているんだか、僕がいる間にやっておきたいことがあるようだ。

 アイテム回収までやらせるつもりかとも思ったが、違った。なんと連結部のテントスペースの最上部のデッキスペースでドラゴンタイプの試食を行なうことになったのである。

「価値があるものか、ないものか、早急に判断せねばならん」

 回収班がこれから大忙しになる。森の魔物たちとの争奪戦が待っている。その前に肉の価値を見極めておきたいらしい。

「なんで僕たちが……」

「戦場に焼き肉セットなんて持ち込んでる馬鹿はお前たちしかいないだろ?」

 姉さんが言った。

「おーすげぇー。広いなぁ、兄ちゃん」

 荷物を届けに来たピノとピオトが広いデッキを駆け回る。

「こら、手伝え! 火を起こせ!」

「僕たちまで呼ばれちゃってよかったんでしょうか?」

 パスカル君たちもこの際、人脈作りの足しにでもして貰おうと呼び寄せた。

「皿運びやらせようって腹だよ」

「ああ、なるほど」

「焼けたよ」

 下から持ってきた簡易テーブルに皿が置かれた。僕は万能薬を取りだしてテーブルに置いた。自分で飲めなくなることも想定して、いつも通りロザリアが待機している。

 国の重鎮たちを前にして僕たちは何をしてるんでしょうか?

 見た目はいつも食べてるドラゴンの肉と変らない。エンシェントドラゴンの肉に比べるとやはりさしの入り具合とか、脂肪の付き具合とか一段見劣りする気がしないでもないが…… 怪しい様子はない。

「じゃ、いくぞ」

 僕は肉を一噛みする。

 痺れる様子はないな……

 ピノとピオトが思いっきり顔を近付けてくる。

 主人の食事に群がる子犬か、お前らは!

 問題なさそうなので口に放り込んだ。

 咀嚼を繰り返す度に肉汁が…… うん、油も上質だ。口のなかでとろけた。

「ドラゴンの肉にしては並かな?」

 ピノとピオトがガックリ首を落とす。

 しばらく放置された後、ロザリアに治癒魔法を掛けて貰う。

「反応なし」

 ロザリアの検分が終わると、一斉に肉が焼かれ始めた。

 匂いに釣られてお偉いさんたちが我先にと押し寄せる。

 さすがに王様は全員に異常がないことを確かめてからになるので、辛抱溜まらず顔が険しくなっている。

 気の毒だがしょうがない。国王に万に一つがあっては困るのだ。

「おー、これはいけますな」

「まさにドラゴンの肉だ」

「等級は如何程になりますかな?」

「……中の上と言ったところでしょうか?」

「我らの口には充分ですな」

 指揮官クラスが一通り感想を述べると、いよいよ陛下の出番だ。

 が、その前にデメトリオ殿下の番だ。

「早くせい!」

 親父は息子をせかした。

 が、王子はどこ吹く風、美味そうな肉を物色していた。

 殿下は僕の顔を見て、笑った。

 何かする気だ!

「あ!」

 しまった、遅かった……

 焼き上がった肉をごっそり、陛下の分まで平らげてしまった。

「あち、あち、あちッ!」

 熱くて飛び回りながら水を要求した。

「アー、貴様ーッ!」

 それまで大人しくしていたダンディー親父が椅子を蹴飛ばした。

「デメトリオーッ!」

 でも一番の被害者は王様ではなく、ピノとピオトだった。

 ふたりは膝を落としてうなだれた。

「肉……」

「あ! すまん……」

 デメトリオ殿下は自分のミスに気付いた。

「まったくお前という奴は!」

 次男てみんなこんな感じなのか? だから馬が合うのかな?

「肉は山程ありますよ、陛下」

 調理担当の兵たちが切り分けた肉を大皿に載せて厨房から持ってきた。

 パスカル君たちも皿運びを手伝っていた。

 王様が肉の味にややがっかりしたのち、『回収の価値大なり』の宣言がなされ、一斉に遅めの昼食会が執り行われた。

 下の階にいた兵士たちも無礼講で一斉に上がってきた。

 それからは大忙しになった。

 食い盛りの連中ばかりで、こっそり『楽園』から予備の焼き肉の道具セットを追加するぐらい盛況だった。

「あっちの肉はないのか?」

 こっそりダンディー親父が聞いてくる。

「あれはリオナの管轄なので」

「あの肉の味を知ってしまったら、この肉では満足できんぞ」

「総評では中の上らしいですよ」

「そうか? わしにはそうは思えんがな」

「回収するか決めなくていいんですか?」

「決める必要はなかろう。これを見れば回収するなとは言えんじゃろ?」


 回収リストにドラゴンの肉が加えられ、回収班が投入された。

 見越していた各地の商人たちは既に地元の騎士団や冒険者を金で雇い、お宝回収に荷馬車を西域に投入し始めていた。

 荷が動けば、領主が儲かる仕組みは相変わらずなので留め立てする者はいない。西方に出るには各関所を抜けるしかなく、取りっぱぐれることもない。

 騎士や冒険者たちが潤えば町が潤うから、戦場に出られない連中にもお鉢が回ってくる。

 出費がかさんだ各国の代表たちも血眼になって戦費の回収に勤しんでいることだろう。

 こんなときに一番利益が欲しいはずの北軍はボロボロ、何もできないとは愚かを通り越して哀れである。



 時に水前月十六日、人類の命運を賭けたタロス戦役は人類側の大勝利で終結した。


 死者、推定一万四千人。傷者九千人。そのほとんどは不幸な遭遇戦と、北軍敗退の犠牲者たちであった。

 タロス側の犠牲は確認できた数だけでもその五倍に上った。その六割は柱の崩壊に巻き込まれた者たちである。

 戦いの規模に比べて犠牲者が想定の十分の一程度に収まったのはひとえに『万能薬』と教会の後方支援の賜と言えた。


 そして影の功労者たる僕たちは数日後の馬鹿騒ぎに備えて、目下爆睡中である。



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