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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(合流)17

『ナーナ……』

「マンダリノで気力回復するって」

 いつからミカンが動力源になった。

 今回は再召喚したのでさすがに凍えていないようだが、ヘモジが帰還したことで地上の進攻速度は二割減だ。

「梃子入れするしかないか」

 合流が遅れたら、嬉しくない状況になりそうだからな。

 鳥ゴーレムのミスリル弾も巨大鏃も打ち止め。そろそろ精鋭対策に残しておいたミスリル弾を使う頃合いか……

『赤いカートリッジ弾』も地上部隊を狙うようになって目に見えて減ってきている。地上にバリスタを撃ち込むわけにもいかないし。

 湖と湖との狭間に造られた迎撃砦が突然、爆発した。

 敵の襲撃に耐えきれなくなって最終手段を取ったようだ。

 地上部分を抉るついでに砂嘴(さし)を渡ってくる敵を根こそぎ巻き込んだ。

 これで対岸には泳いで渡るしかなくなった。

 砦にいた連中はちゃんと転移して逃げ出せたのだろうか?

「止むを得んじゃろ」

「二、三発落とすしかなさそうじゃの」

 ふたりのハイエルフが言った。

 柱がどこに落ちてくるのか…… 恐らくタロス側でも干渉できないことなのだろう。おかげで助かっている部分もあるが、だからといってこちらの希望が叶うわけでもない。

 南軍が残党狩りをしているような僻地や下手をすると本隊の頭上にというケースもありえるのだ。北に落ちたらそれこそ目も当てられない。

「博打じゃな」

 狙える範囲に出てくれればいいが……

「今は本隊に向いている敵の数を減らすことが先決じゃ」

「せっかくの包囲網を壊す結果にもなりかねないけど……」

 このままで本隊や北軍が保つのか?

「撃ち込めば本隊との距離は縮められる」

 近距離に落ちなければ…… 戦犯もいいところだ。

「何をするにも仲間がいればこそよ。そうじゃないかしら?」

 母さんが真顔で言った。

「柱が遠くに落ちたのなら、そのときはみんなでまたなんとかすればいいのよ。頭上に落ちるようなら好都合。お姉ちゃんたちや、あの王様がなんとかしてくれるわよ」

 そうだった……

 本陣にはみんながいる。生きてさえいてくれれば……

「やるか」

 全員が頷いた。

 どう転んでもすべての命を救うことなんてできないのだ。既に多くの血が流れた。

 ならば今、目の前で苦しんでいる命から救おう。僕たちにはそれしかできないのだから。

 選んで誰かを優先して救うなんて器用な芸当できやしないのだから。

『高度上げます!』

『上空異常なし』

「ゴーレムたちは一時回収じゃ」

 ゴーレムたちが召喚解除されて地の底に消えていく。

 タロスたちがほっとしたのも束の間、暖かい風がタロス兵たちの間をすり抜ける。雪が溶け出し、外縁に水蒸気が立ち昇ると、それはやがて強風吹き荒れる渦へと変化する。

 タロスの軍勢を自分達がよからぬ状況下に追い込まれたことを知る。

「気付いたときには手遅れじゃ」

 溶岩のように赤く染まった大地から吹き出した無数の火柱が気流に巻かれ、幹を太くしながら、合流と離散を繰り返しながら爆発的な勢いで燃え広がった。

 魔法使いがたまにいて結界を張ろうと試みるが、抵抗空しく炎の柱に次々飲込まれていった。

 これがエテルノ様の『地獄の業火』…… 

 外縁程火柱は高く舞い上がり、中央へ中央へと誘われるが、もはや逃げ場はない。

 船の進路に沿って二発目、三発目が放たれた。

 火は周囲の森にも燃え広がったが、北は湖で、南は渓流で延焼は免れた。

 森のなかに退避していた住人たちが皆、焼け出されてしまった。

 湖に逃げた連中は熱波を避けて浅瀬に飛び込んだが、渓流側は河原の石が熱波で焼けるなか、逃げ場を失っていた。

 生存圏を掛けた戦いに別の生存圏を犠牲にしている状況に申し訳なさが込み上げる。君たちの未来のためでもあるのだと自己弁護してみても、煤けた者たちの姿を見れば言い訳でしかないことを知る。

 僕はみんなにばれないように渓流に橋を架けた。大きな動物たちも対岸に渡れるように頑丈な物に仕上げた。今はこの程度のことしかできない。

 知らん顔で戦闘に戻ったら、チッタとチコがニヤニヤしていた。

 僕は声を出さずに「内緒」と口の形を作った。

 ふたりはクスクスと笑った。

 ふたりの笑う姿を見て、周りのみんなが訝しがった。

「ゴーレムじゃ!」

 本陣との距離が狭まって大技はもう使えないと判断したエテルノ様は『地獄の業火』からゴーレムに再び切り替えた。

 ロメオ君が後に続いた。

 僕も召喚しようとしたらピノから進言があった。

 空の敵を一掃したいから本陣の上を一回だけでいいから旋回して欲しいというものだった。

 これには他の全員も賛同した。

 本陣の飛空艇は皆隊列を組んでいるので自由が効かない。基本、横っ腹を向けて迎撃に勤しんでいるだけだ。あれではとどめを刺せない。すぐ回復されてしまう。弾を無駄に消費するだけだ。

「飛空艇の本領は速さにあるのに……」

 パスカル君が呟いた。

「一世代前の船じゃギリギリじゃろう。この船とは違うぞ」

 空中戦では五分五分か。

『兄ちゃんの結界があるから無茶できんだろ』

「結界は無償バージョンアップで同等だろ?」

『でも魔石交換用のスロットが古い型の船にはないからね』

「攻撃を分散させるのが安全なんじゃろ?」

「そうかな…… 魔法使いも乗ってるんだから」

「ブレスを防げる程の魔力持ちなんてそうはいないわよ! エルネストさんたちを基準に考えないの!」

 パスカル君がフランチェスカに突っ込まれた。

「魔石の値段も忘れてますよ」

 ビアンカが言った。

「あー」

 周りが納得した。

「集中砲火を浴びてケロッとしてられるのは確かにこの船ぐらいなものじゃな」

「各国の財務官や領主は今頃みんな冷や汗掻いてますよ」

「魔石(大)一個で金貨五十枚だもんな。そうそう取り替えられないよな」

 ファイアーマンの言葉に皆、頷いた。

 今は魔石も高騰しているから土の魔石ですらその値段では買えないけどな。

「それより、散財しても平気な船がもう二隻あったろ? どこに行った?」

「沈んだですか?」

「雷、鳴ってたろ?」

 ヴァレンティーナ様の船が近くにいるのは間違いない。僕たちは姉さんの放つ雷を目指してきたんだ。

 一番目立つはずの旗艦の姿もないが、もっと北寄りなのか?

「上空に敵! 数、三!」

 チッタが声を上げた。

「まだいたのか?」

「結構散らばってる」

 オクタヴィアが答えた。

「分断されてるのか?」

「お互い決め手を欠いてる感じじゃな」

「ドラゴンスレイヤーのスキル持ってる奴なんていないだろうしな」

「弾をけちってないで、まとめてばらまいた方が結果的に弾数の節約になるのにな」

 シモーナさんが呆れて言った。

 それ程までに味方の攻撃は散発的だった。隊列を組んでいるので基本的に追尾できないのでそうならざるを得ないのかも知れないが。

 ピノの進言を実行に移した。

『ブレス、来るよ!』

 テトが大きく舵を切った。

 船が揺れた。

「まったくもう、目障りだって言うのよ!」

 ナガレが雷を落とした。

「うわっ、一撃だよ」

 一撃は一撃でも一網打尽だから驚きもする。それも混戦のなかで。

 ナガレのブリューナクでなければこれほどの命中率はあり得ない。きっと周囲の船も驚いていることだろう。

「いた! いたよ! ヴァレンティーナ様の船見付けた!」

 真っ赤な船体が隊列よりさらに高い位置で追いかけっこを繰り広げていた。



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