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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(暗雲)12

 昼食を済ませると、僕たちはいよいよ、母さんの望み通り姉さんたちがいる主力部隊の戦場に向かうことにした。

「お前はしばらく船を降りるな」とアイシャさんに釘を刺された。

 嫌な情報を聞いてしまった後だからな。最前線の兵士より船のクルーが先に逝くなんて、考えてみれば船の向かう先こそが最前線なのだから、当然の帰結なのだが。子供たちの動揺を思うと……

「ちょっと、誰よ! わたしのプリン食べたのは!」

「え? これ余りじゃなかったの?」

「ピオト、あんたね!」

「余分ならあるのです!」

「あるの?」

「頂戴!」

「チコも欲しい!」

「俺のやるよ」

「いらない、新しいのがいい」

「なんでだよ!」

「ファイアーマンだから」

「なんだとー、このチビ!」

「チコはチビじゃない! これが標準なの!」

「いつも通りだな……」

「この船のクルーは並みじゃないのです」

 逆に気を使われたのかな?

「そろそろ発進するぞ。それ食べたら出航準備な」

「えー、食後休憩は?」

「空の上で取れ」

 僕たちは一足先に雪に覆われた山岳地帯を跨ぐことにした。その向こうにある大平原こそが主戦場、敵の本丸である。


『吹雪いてきた。このまま山越えは危ないよ』

『遠回りになるけど尾根の反対側に回ります』

「任せた」

 僕は倉庫に譲った分の魔石を補充した。

『気流が乱れるから注意して』

 ロザリアが浄化したティーセットを大急ぎでリオナがケースに収めていく。

「で、どうだった?」

「上々よ。建設中の教会の補助金どころか、建築費全部持って貰えそうな勢いよ」

 聖女様がお金の損得勘定でにっこり笑ってる。

「あんまり宗教色の強い町にはしないでくれよ」

「大丈夫よ。あそこは『銀花の紋章団』の総本山なんだから」

 ロザリアは自分の教会を建設するに際して、同時に専用の飛空艇用ドックを建設する計画を持っていた。飛空艇による移動教会の拠点にと考えていたらしい。

 港建設はヴァレンティーナ様も同様に考えていたことで、中州の宿泊施設が完成次第、現在運用中の飛行船用の港を改築する予定になっていた。

 目的が同じならいっそのこと共同でリバタニアより遙かに大きな飛空艇・飛行船用の港を建築しようという話になったようだ。

 プラットホームは三つに分けて、軍事用、民間用、そして教会専用にする計画らしい。

 スプレコーンは『ビアンコ商会』の工房もあり、飛空艇建造と物資搬送の要の町でもある。

 このチャンスを逃すのは誰が考えても愚行である。

 ただ、うまい話にただ乗りはないわけで、相応のものを要求されたわけだが、教会建設やら施しやらでほとんどの私財を投入していたロザリアの財布は僕が想像していた以上に空っ穴だった。休みの日はほとんど教会の手伝いで狩りをしてこなかったから、みんなとの狩りの日の上がりだけが収入だったわけで、それでも全財産を投入すること自体おかしな話だが、個人の理由で勝手をしようというのだから上層部への根回しも相応に掛かったのかも知れない。

 それもこれも、まだ身分のない学生上がりの子供だというのが最大の理由なのだろう。後ろ盾がなければそもそも見向きもされなかったに違いない。

 次期聖女様と民間の支持が集まる程やっかみも増えるわけで、手のひらを返して貰うには相応のお布施が必要だったのかも知れない。

 でも今回の一件でロザリアは少なくとも聖騎士団とそこに家族を送り込んでいる諸家を味方に付けることに成功したはずだ。

 教会の建設費用を持って貰えるならドックの建造費用に回す余裕もできるというわけだ。

 そもそもこんな回りくどいことするくらいなら、僕と一緒に一日、宝物庫漁りとドラゴン漁りをすればいいだけの話なのだが。


 尾根を越えると別世界が広がっていた。

 空は青く澄んで、太陽が眩しく輝いていた。僕たちを悩ませていた分厚い灰色の雲が、防波堤を越えてくる波のように切り立った尾根を乗り越えてきていた。麓に向かって流れ落ちる雲は日光を反射する斜面を下りながら擦り切れるように消えていく。

 あまりの美しさに戦いの最中だということを忘れてしまいそうだ。

 舟は大きく峰に沿って迂回する形で山岳地帯の向こう側を目指した。

 美しい景色のなかに染みのようにそびえる三本の柱は未だ健在だった。

 旗艦より離れているのだろう。それは取りも直さず旗艦が釘付けにされているという証であった。

 柱一本だけでも聖騎士団は危機的状況だった。雪深い山岳地帯であったためにタロスの上陸部隊との遭遇が遅れて、その分僕たちは間にあったが……

 恐らくこの天国のような景色の先には地獄が待っているはずだ。

 姉さんたちがうまくやってくれていればいいのだが……


「残弾は?」

「もうみんな十発もないのです」

 敵の数は増える一方なのに、こちらの札は減る一方だ。

「どうしたものか……」

「いよいよ魔法戦に切り替えるようかの」

 エテルノ様が言った。

「そうですね。銃弾はすべてリオナたちに預けようか」

「任せるのです!」

「本領発揮じゃな」

「総力戦だ!」

「柱を取りに行くぞ」

「オーッ!」

 パスカル君たちもまだまだ元気だ。


 休憩時間を想定よりも長く取ることになってしまっていた。

 防衛ラインの後方から回り込んで最初の柱までのルートを地図で確認する。

 目測だけで正確な物ではないが、充分攻め手の進行ルートは予測できた。

「この川に沿って来るだろうな」

「なら川沿いにこの柱を目指して…… 西に反転して二本目。これが取れたら楽になるだろうな」

「北の一本は遠いわね」

「東への出口は狭いけど…… 突破されると辛いわね」

「夜になれば南軍と聖騎士団も包囲に参加できるはずだし」

『若様! なんかおかしいよ』

 テトの声だった。

「味方がいないよ」

 チコが言った。

「合流ポイントあってますよね?」

 チッタが聞き直してくる。

「あの山の向こうのはずだけど」

「戦ってる気配がないのです」

「後方だからじゃないか? 案外押してるのかも……」

 言われてみれば静か過ぎる気もしないでもないが。

 あの山の向こうはどうなってるんだ?

 まさかもう突破されたとか?

 柱との位置関係から考えても終結するにも早過ぎる。




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