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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(巨大鏃投下)9

「転進だ。騎士団が接敵してしまう前に地上のタロスを一気に殲滅するぞ」

「ナーナ!」

 ヘモジは格納庫に飛んで行った。

「なんで張り切ってるんだ?」

「行けば分かるわよ」

 ナガレが言った。

「リオナも手伝うのです」

「僕も」

「わたしも」

 パスカル君とビアンカが後に続いた。


 格納庫に向かうと既にヘモジが巨大鏃投下用の装置を用意していた。

「ナーナーナ」

 ヘモジが巨大鏃の入った保存箱を引き摺り出してきた。

 蓋を開けると今回、裸のままだったはずの魔石が球状の物に覆われていた。ご丁寧に属性ごとに色付けまでされている。

「ナーナ」

 今回参加できなかったピノチームの連中がやったのか?

「ナナーナ」

「これ、おが屑か?」

「ナーナ」

「へー」

 おが屑を粉末にして、それをまた糊で固めたのか。

 表面を叩くと、コンコンと木の音がした。

 結構堅くなるもんだな。

「タンポポたちだったですか」

「粋なことするわね」

「でも可愛過ぎるかも」

 色だけでなく、花柄や笑ってる顔などの絵柄が施されていた。

「落とすの勿体ないわね」

 これでこれから大量殺戮すると思うとなんだか急に身体が重くなってくる。

「ナーナンナー!」

「『思いを一つに!』だって」

 オクタヴィアが僕の肩に飛び乗ってきた。

 敵が少なくなってゴーレムから解放されたようだ。

「思いを一つにって言われても…… 花柄だよ?」

 パスカル君も難しい顔をしている。

 どう見ても単に楽しんで書いただけのようだが…… 切っ掛けはそうなのだろう。

「そうだな。タンポポたちが生きていく世界を守らなきゃな」

「投下準備なのです! 落ちないように気を付けるのです」

 全員が安全帯を身に着け、手摺りにフックを引っかけた。

 白く染められた『氷結』付与された大きな鏃を新たに作成した投下装置にセットした。

 それは巨大鏃用の丸い溝が掘られた滑り台だった。そこに鏃を載せ、滑り止めのスプーンの形をした金具で支える仕組みだ。台に鏃を置くとハンドルを回して角度を付けていく。歯車が台の先端を引き下げていき、台が垂直になった位置で固定する。

「準備完了。いつでもいけるぞ」

『こっちも敵影なし。ハッチ開けていいよ。足元注意して』

 僕とパスカル君はハンドルを回して床下のハッチを開けていった。

『投下ポイント到着まで五…… 四……』

 チッタの声と共に船は上昇『浮遊魔方陣』の限界まで高度を上げていく。

 鏃に触れ、魔力を通して起動する。

『二…… 一…… 投下!』

「投下!」

 ハンドルを倒すと歯車に挟ませてある爪が外れて、止め金具が外れる。宙に投げ出された鏃はハッチの景色のなかに消えた。


「見た目変んない」

 オクタヴィアが言った。

 船がゆっくり旋回しながら高度を落とすも見栄えは余り変わっていないような気がする。

「まさか雪に埋まって不発だったとか?」

「いや、魔力の反応はあったからね。そっちは何か見えるか?」

『吹雪いてる』

『それ以外の音がなくなった』

 ピノとチコが言った。

 高度が下がるまで待つしかないか。

『魔石の消耗が増えてきたよ。外は大分冷えてきてるよ』

 影響が消えるまで少し待つか……

『左舷前方! 森の切れ目の先!』

 ダンテ君の声だ。

 僕たちは開け放たれたままのハッチから床に這いつくばるようにして覗き込んだ。

「タロス兵?」

「動いてない…… ですよね?」

「全員無口」

「成功した?」

「気温が元に戻ったら生き返る?」

「それはこれから確かめてみないとな」

 ここからだと完全に事切れているように見えるけど。


「大丈夫だ。みんな凍死してた」

「まるでウィスプが通り過ぎた後みたいだったよ」

 僕とロメオ君がボードで確認してきた。

 被害が山間を越えることはなかったが、その分標高の低い谷間は想定を越えて遙か先まで被害が及んでいた。例の暴走ドラゴンと上陸部隊が交戦している地にまで影響が出ていた。

「それじゃ、二発目は撃てないわね」

 予定していたポイントからだと聖騎士団にまで影響が出てしまいそうだ。

「今はまだ弾丸は残しておきたいんだよな」

 敵の前線は既に山を抜け平地に差し掛かっているはずだ。騎士団が接敵するのも時間の問題だ。

「投擲用の鏃を使うか……」

 僕は『楽園』から保管してあるはずの予備を取り出した。

 巨大鏃を見た後だと手のひらサイズが可愛く見えるがこれでも充分、集団を狙えるはずだ。ただ結界に対する備えは一切していないので、障壁持ちには効かないだろう。

 火力で押し切るしかないが、その辺はやってみないと分からない。指揮官クラスなら狙撃して倒しても構わないだろう。

 一旦数を減らしてから、騎士団と共に折り返そうか。

「高度に注意じゃ。敵の弓と槍の射程を侮ってはならぬぞ!」

 エテルノ様が自分の分の鏃を腰のポケットに詰め込んでいく姿を見て、皆苦笑いする。

 母さんもこっそり持って行った。

「リオナちゃん、リオナちゃん。これどうやって使うの?」

 使い方をリオナに聞いている。

 もう放っとこ。

「ナーナ」

 ヘモジが腕をくるくる回して準備運動している。

「リーダー格はピノとリオナに任せるのです」

 ミスリル弾は封印して『アローライフル』の旧式の火竜討伐用の鏃を使うようだ。火竜相手に使うこともなくなったからな。使い切るのもいいだろう。

「見えてきた!」

 巨大鏃の影響だろう。彼等は進撃しているというより、後方を警戒しながら逃げているようにも見えた。

 魔力を感じ取れる者なら後ろから来る者がどんな相手か誤解もするだろう。それこそウィスプが意思を持って襲ってきたと感じても無理からぬことだ。

「行かせるわけにはいかないんでね」

「『魔弾』装填」

 レンジ外から狙いを付ける。

 お?

 あれは…… 利用できるか。

 僕は明後日の方角を狙った。

「弾は節約するに限る」

 山の斜面に絹のような雪原が広がっていた。

「理想的な急勾配。タイミングもばっちりだ」

 僕は振り返ると先に攻撃すると断わった。

 そして僕は左舷前方にそびえる切り立った斜面に向けて『魔弾』を撃ち込んだ。

 射程はなくていい。

 音が雪の斜面に衝撃となって伝わってくれれば。

 雪肌に亀裂が入った。

「やった!」

 雪の巨大な壁が斜面を滑り落ちていく。周囲の積雪を巻き込んでどんどん大きくなりながら雪煙を舞き上げ、大波のように打ち寄せた。



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