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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(サンダーバード)8

 デッキに戻っても皆、しばらく無言だった。

「あれがタイタン部屋を破壊した奴ですか?」

 リオナだけが平然通りだった。

「まあね。おかげで『切り込み隊長』が手に入った」

「今の…… なんですか? あれも魔法なんですか?」

 ナタリーナさんは動揺していた。

「あんな魔法見たことも、聞いたこともないんですけど!」

 学生たちが僕に詰め寄った。

「合成魔法は学院では教えないものね」

 母さんが笑った。

「『地獄の業火』クラスの魔法じゃ。見ての通り空飛ぶ敵には圧倒的じゃ」

「合成魔法を一人で?」

「この杖あっての大技だよ」

 僕は万能薬の小瓶を飲み干した。染み渡る端から杖に魔力が吸い取られていくのが分かる。

「敵が近付いてこなくなった」

 チコが言った。

「さすがに警戒するでしょ。あんなの見せられちゃ」

 チッタが言った。

『兄ちゃん。地上が大変なことになってるぞ』

 ピノの声に全員が窓から下を覗き込んだ。

 嵐が過ぎ去り、霞一つない澄み切った大地では完全に理性を失った生き残りのドラゴンタイプが手当たり次第に近場の動くものを攻撃し始めていた。

 砂塵に削られ尽くしたすべてのドラゴンに視力は既になく、分厚い装甲も身体に張り付いた羊膜のようだった。

「回復するかな?」

「できるならもうやってるだろう」

 敵上陸部隊は落下物の影響で相当の犠牲が出ていた。指揮官クラスが何体か犠牲になったようで、部隊の再編で身動きが取れなくなっているところだった。そこにこの有様である。進路を塞ぐ手負いのドラゴンを討伐しながらの前進では、無傷で前進し続けている先行部隊との距離は広がるばかりだ。どんどん細く間延びし始めた。

「地上部隊も減らせたね」

 チコが言った。

「でもあのままは気の毒よね」

 チッタは哀れなドラゴンたちが気になるようだ。

「巨大鏃、落としておいてやるか?」

 チッタは首を振った。

「戦争だから」

 チッタとチコの真っ直ぐな視線は何よりいたく胸に突き刺さった。

「早く終わらせよう」

 全員が頷いた。

 味方がああなる前に。

「テト!」

『飛ばすよ!』


 空からの敵は攻めてこなかった。

 山間を行く後方の上陸部隊は前がつかえていることをいいことに暢気に長い列を作って休憩中だった。

 制空権を取ったと確信していたようで、こちらの姿を捉えると座り込んでいた連中が皆立ち上がった。

 兵士たちは呆然とこちらを見上げている。

「南の柱がすべて落とされたというのに暢気なことだ」

 こんな場所で停滞しているくらいなら南に兵を振り分けるべきだろうに。

「ほっといても南軍の餌食だな」

「森のなかに入られると厄介じゃぞ」

「大丈夫ですよ、長老。手ぐすね引いて待ってる連中がわんさかいますからね」

 同郷のよしみなんて爪の垢程も感じない連中だ。

「寒くないのかしら? 残弾ミスリルが十三発。他は減ってない」

 ビアンカが残弾確認しながら言った。

「さあな、焚火一つ焚かないところを見ると平気なのだろう。こっちは五発しか使ってない。お前、撃ち過ぎだ」

 シモーナさんが言った。

「僕のを三発あげるよ」

「だったら俺にくれ。俺、後五発しかない」

「はあ?」

 ファイアーマンが全員に睨まれた。

「ちゃ、ちゃんとその分、落としてるから! な」

 側にいたチコにすがった。

 チコは頷いて言った。

「魔法使いより狩人の才能があるみたい」

 それは微妙な褒め方だな……

 全員が残弾の確認を済ませ、持ち弾の調整を行なった。思いの外消費が多かったので、僕の分をすべて分配した。

 僕たちのチームとチッタやチコやテト、専任スタッフの分は減っていない。あくまで船が墜落したときの護身用だから、もしもの時はその分も配ることにする。

「ヘモジは? ボルトは足りてるか?」

「ナーナ!」

 矢筒を叩いた。

 まだまだあるな。射程の関係でヘモジは突破してきた敵の迎撃要員だからな。

『柱が射程圏内に入るよ』

「迎撃準備!」

 ドラゴンタイプは逃げ腰だった。それでも任務だか、命令だか、単なる帰巣本能だかとの板挟みで空域を離れられずにいた。

「どっちつかずの敵はただの鴨だ」

「カラスが鴨になったのです」

 リオナは冗談を言ったつもりはなかったが、周りは吹き出した。

「ちょっと笑わせないでよ!」

「こら、リオナ! 気を抜くな」

「こっちは真剣なのです!」

 その真剣さがより笑いを誘った。

「じゃあ、さっさと終わらせよう」

 僕は『魔弾』を装填して銃口を柱の下部に向けた。

 今回は兄さんがいないので、根元から小分けにして行く。一本丸ごと倒してもいいのだが、その場合、倒壊の影響範囲は広域に及ぶことになる。後々、戦果の確認やらで苦労することになるので、落下地点は絞ることにする。

 幸い敵は及び腰だ。

 船の垂直上昇に合せて引き金を引いた。

『高度千…… 高度千五百…… 二千……』

『魔弾』を小刻みに撃ち込んでいく。

 ある程度高度を稼いだら、その後は容赦しない。射程ギリギリの高さを狙って撃ち込めば、

今度は地上との衝撃で勝手に押し潰されてくれる。

 巨大な柱が悲鳴を上げて、雪山の上に落ちていった。

「残った鴨はどうするですか?」

 地上部隊を守る気があるのか、そこまで飼い慣らされているのか。

「野生化されるのが一番困るんだよな。何せドラゴンだからな」

「時間が正直勿体ないが、なるべく残さず処理しておいた方が後々のことを考えるとよいじゃろうの」

 じゃあ、逃げられる前に!

 前方に雷が落ちた。

「味方?」

「我を恐れよ、道を空けよ、我は稲妻なり」

「エルリン? どうしたですか?」

「サンダーバードに出くわした旅人が書いた詩の一節。あっちには金色に光る奴らの巣があるんじゃなかったか?」

「サンダーバード!」

「足止めしてくれているうちに急げ!」

「別に我らのためではなかろう」

「好機には変わりありませんよ」

「射程に入り次第、攻撃開始!」

「一体残らず仕留めるぞ!」

 いつの間にはハイエルフふたりが右舷と左舷の指揮を執っている。

「あんたたち、サンダーバードまで取り込んでるの?」

 母さんが呆れ顔で聞いてきた。

「たまたま山向こうに砦を造ったときに」

「ブレスを撃たれたら焼き鳥になってしまうのです! 早く助けるのです!」

「奴らの雷攻撃の方が射程は長いんだから、うまく立ち回るだろ?」

「巣があるってことは砦もあるんじゃないの?」

 ロザリアが言った。

「もっと西から来ると思ったのに無駄になったな」

 船がゆっくり弧を描く。

 サンダーバードの雷が目の前を通り過ぎた。

「こら、危ないのです!」

「怒るなよ。あいつらに取っちゃ、挨拶みたいなもんだろ?」

「そろそろわたしの出番かしらね」

「そうだな」

「よろしく頼むのです」

「ふふん」

 ナガレが嬉しそうだ。

 ナガレがブリューナクを構える。

 サンダーバードがお膳立てしてくれたかのように敵は一箇所に固まっていた。

 ナガレの強力な雷撃が続け様に落ちた。

 敵の障壁が必死にこらえる。が他のサンダーバードたちの攻撃も加わって次々突破された。

 ドラゴンタイプは燃え上がりながら地上に落下していく。

「サンダーバードがドラゴンを倒すなんて……」

 母さんが目を丸くしている。

「それを言ったら人がドラゴンを倒す方が奇跡じゃろ? 要はここよ」

 エテルノ様は頭を指差した。

「あいつらだけじゃ障壁突破もままならなかったんだから、わたしを褒めて欲しいわね」

「そうそう、ナガレが一番凄い」

「魔力消費もなのです。もう空っぽなのです」

「分かってるなら早く補充して頂戴。次が撃てないじゃないの」

「リオナも早く全力出したいのです」

 リオナは自分のリュックを漁って魔石を取り出すとカードに魔力を補充した。



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