タロス戦役(幕間)6
「飛空艇大活躍だったのよ」
「そうなんですか? みんな撃墜されちゃったみたいですけど」
ロザリアが母さんに付き合っている。
「それは敵の多さを見てないからよ。もう凄かったんだから」
「そんなに……」
「今の十倍はいたわね。柱も何本かは倒したのよ。でも弾薬も魔石も尽きちゃったらただの棺桶でしょ? お父さんなんか、さっさと突っ込んで全弾撃ちつくして、真っ先に落とされちゃったのよ。飛空艇がいくらすると思ってるのかしらね。しばらくお小遣いなしね」
むしろ褒めようよ、そこは。
大将として萎縮する味方を鼓舞するためだったんだろうからさ。落とされてちゃ話にならないけど。
「地上戦がやりたいだけなのよね」
それはある。
「で、全部落とされたんですか?」
「落とされちゃいないわよ。落とされる前にほとんどの船は不時着したから」
「じゃあ、お父様のお船も」
「ほとんどって言ったでしょ?」
「……」
ロザリア、無理に付き合わなくていいぞ。
「まあ、こっちにはアンドレアがいるから、余程の敵でも現われなきゃ、大丈夫よ。さあ、今度はエルマンとパトリツィアちゃんの応援に行くわよ!」
「降りるならご随意に」
「どうせ北に行くんじゃないの!」
「でも兄さんは後回しだから!」
「あの子はいいのよ。殺したって死なないんだから。心配なのはパトリツィアちゃんよ。あの子は普通のおうちの子なのよ! 何かあったらどうするの?」
部隊長やってる人が普通のわけないだろ。
「母さんの長話を嫌がらずに聞いてくれるのあの子だけなのよ!」
忍耐力は一流だからな。
「リオナちゃん!」
「分かったのです! できるだけ早く第一師団と合流するのです!」
「おまッ!」
長話に参加したくないからって、白旗上げるの早過ぎだろ!
まったくもう、第一師団は第三軍の向こうじゃないか!
「ヴァレンティーナ様と合流するから、そのとき近くにいたらな」
『そろそろ準備して』
操縦室から笑いを含んだロメオ君の声が。
船は南軍と別れて聖騎士団の後方に付こうとしていた。
「左舷から来るよ!」
「三体」
『一番下貰い!』
ピノが言った。
残りをパスカル君とファイアーマンがやることになった。
『三…… 二…… 一……』
敵はこちらのレンジの長さに驚く暇もなく地上に落下していった。
「撃破確認!」
母さんは命中精度のよさに驚愕したのか、手際のあまりのよさに驚いたのか、パスカル君たちを驚きの眼で見詰めた。
学院の後輩たちが魔法ではなく、銃を使うことがそんなに驚くべきことなのか?
「母さんにもでき――」
「やらせないから!」
「一回だけ、邪魔にならないように撃つから」
そりゃどういう意味だ?
「リオナちゃん!」
もう逃げたよ。
「……」
「そろそろデッキに出させて貰うわね」
ロザリアが席を立った。
「仕事だからな」
僕はテトに船の高度を下げるように指示した。
「リオナ、ロザリアの家の旗を掲揚してきたらどうだ」
「今持っていくのです」
螺旋階段の上から声がした。
「ロザリアちゃんも大変ね」
リオナが母さんを警戒しつつ、掲揚旗を抱えて甲板に出て行った。
ロザリアも普段の装備の上に真っ青でど派手なガウンを身に纏い甲板に向かった。
噂に名高い次期聖女様が前線にお出ましだ。皆、粉骨砕身し、その身を捧げよって感じだ。
そして敵陣に向かう聖騎士団一行の上空に差し掛かると、聖騎士の象徴、グングニルを進路に向けて掲げた。
地上から大歓声が沸き起こった。
「ほんと大変ね」
使用人のルーにお茶を断わられて、母さんは凹んだ。
低いところを飛んでいても仕方がないので、飛空艇は高度を上げた。
「あらー」
随分上陸されてるなぁ。
その数ざっと千体。盾持ちから槍持ち、魔法使いなど色々だ。地上が光り出した。こちらを警戒して結界を張ったようだ。
「衝突までまだ時間がありそうね」
母さんが言った。
あると言っても精々小一時間だ。問題は敵部隊が拡散してしまうことだ。この広い森にばらけられたら収拾が付かなくなる。
「来たよ」
空から迎撃の団体さんがやって来た。