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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(突撃)5

 兄さんの二撃目が今度こそ柱に命中した。

 最初の一発は霞を払うためのものだったようだ。

 威力を増した一撃が射程いっぱいの高さを撃ち砕いた。

 柱が味方陣営とは反対側に倒れていく。

 ああ、最初の一撃で地面を掘ったのは霧を払うためだけじゃなく、安全な向きに柱を倒すためだったのか。

 地上部隊は兄さんの機転で長距離射程から逃れることができた。ついでに敵上陸部隊の進攻も食い止めることもできた。さすがに完全ではないようだが。

 既に上陸した敵と地上戦が始まっていた。

 とはいえ増援が来ないとなれば敵の士気も上がるまい。

 残っている柱の上部からの長距離攻撃は続いていた。味方の飛空艇が北上するにも射程がある分邪魔だった。

 ドラゴンタイプがその空域に逃げ込むものだから、返り討ちにあったり、追撃を諦める船が出てきた。

 だからさっさと新型結界にバージョンアップしておけと告知したのに。格安の五割引だったろうに。

 仕方がないので僕たちが残りを引き受けることにした。

 高度を上げてできるだけ上層部を狙う。

 敵の集中砲火が単機のこの船に襲いかかる。

『魔石が減ってる、減ってる!』

 操縦室のふたりが騒いでいるが、言葉に危機感がない。

 倉庫に眠っている魔石の量だけで一週間は戦えるからな。

「左舷から四体!」

「右舷からも三体来るぞ!」

 四面楚歌だな。

 でもこの船はそれを想定して造ってあるんだ。

『でもちょっとやばいかも』

 テトが軽口を叩く。

「守りはいいから、飛んでくる敵だけに集中しろ!」

 僕は船の結界の外側に『完全なる断絶』を展開した。

「揺れが止まったのです」

「確かにこれはきついかも」

 ブレス程の怖さはないが、一発の威力はそこそこあった。

 というか、これは物理攻撃じゃないのか?

 僕たちの銃と似たことをしている?

 よくよく観察すると敵の攻撃は放物線を描いていた。魔法攻撃なら『氷槍』や『岩石落とし』など例外を除き、消失はしても放物線を描くことはない。

 なんらかの方法で打ち出した塊に魔法効果を纏わせているに過ぎない。見た目に騙されたが、要は敵側のバリスタだ。命中精度のなさから『必中』による誘導ではないことは明らかだが。

「ちょっと接近して仕掛けを見てみない?」

「馬鹿言わないでください!」

 チッタに怒られた。

「こんなときに子供に怒られてどうする?」

 エテルノ様に呆れられた。

『要は打ち出しの威力と高度の優位性があってのあの射程なんだね』

「見た目は魔法みたいだけど、何かを射出してるのは間違いないよ」

「『必中』じゃないとすると純粋に加速する何かかな?」

 味方の船は後退して陣形を組み直し始めていた。

 どうやらこちらに任せてくれるようだ。

 僕たちの周りのカラスも距離を置き始めた。

 テトは敵の攻撃を避けることにもう慣れ始めていた。

 飛んでくる弾道予測の上へ上へと回避するようになった。登り切ると急加速、急降下で距離を詰め、再び上昇しながらのアクロバットである。

 その内敵が次弾を上へ上へと狙い出すと、あざ笑うかのように下降に転じて一気に距離を詰めるあざとさだ。

 射程に入ってくるドラゴンタイプは容赦なくパスカル君たちに銃弾を浴びて露と消えた。 

 唯一、開き直った一体が銃弾の雨を抜けてきたがナガレの雷を受けて地上に落ちた。

「食らえ!」

 目の前に『魔弾』の直撃を受けて輝く多重障壁の光が広がった。結界までワンランク上ときている。

「手を抜くな」

 アイシャさんの衝撃波が障壁を大きくたわませ破壊すると共に外壁を陥没させた。

 押し出されるように『魔弾』が陥没した柱に食い込んだ。

 予想外の大爆発が起こった。

 何もかもが吹き飛んで、きれいに柱が切断された。が、爆発の影響は柱の内部を伝わり、落下する柱を下へ下へと、残った上部を上へ上へと伸びていく。そして第二、第三の爆発が……

「誘爆した!」

「逃げろ! こっちまで潰されるぞ!」

 反転離脱、降下しながら頭上から降ってくる瓦礫のなかを潜り抜けた。

 でかい瓦礫が命中して船が大きく揺れた。

「ピオト、大丈夫か?」

『問題なーし。どこも壊れてないよ』

 お前の心配をしたんだ。

 誘爆はまだ続いている。

「あの長距離攻撃は魔力を蓄える技術によるものだったようじゃな」

 アイシャさんがしれっと言った。

 少ない魔力を無駄なく蓄え、挑んだ結果が……

 真っ暗な穴のなかでときたま閃光が走る。走る度に瓦礫が地上に降ってくる。

 何はともあれ、脅威は去った。

 安全圏に退避すると僕たちは一旦、休息に入った。

 船の損害確認と残弾確認をした後、軽めの食事を取った。

 船はゆっくり高度を落としつつ、南軍の最後尾に付いた。

「光通信!」

「司令部か?」

「いえ、お母様からです」

「母さん?」

「『疲れた。向かえに来て』……」

 チッタが通信を読み上げるのを途中で辞めた。

「勝手に来たから、おいてけぼりを食らったんじゃろ」

「万能薬持ってないの?」

「そう言うことじゃないわよ」

 戦場に置きっ放しにもできないので回収することにした。


「助かったわ。リオナちゃん! ありがとね。元気だった?」

「それはこっちの台詞なのです」

 この間会ったばかりだろうに。

「補給物資を届けに来たら、いきなり戦闘が始まっちゃったのよ。だから帰りの駄賃にと思って」

 そこが間違ってるだろ!

「さすが母上様なのです!」

 そこは感心するところじゃないだろ!

 パスカル君たちも突っ込みたいところをこらえていた。

「相変わらず美人さんばかりね」

 暢気なことをいいながらラウンジに連れられていった。

「申し訳ございません」

 お付きの使用人が代わりに僕に頭を下げた。

「こっちこそ。いつも苦労掛けちゃって悪いね」

「ちょっとルー、ご迷惑おかけしたんだからお茶でもお出しなさいな」

「ハ、ハイ、ただいまー」

 迷惑掛けてるのはあんただろうが!

「進路戻そうか」

 操縦室から覗いていたロメオ君がすまなさそうに言った。

 南軍は順調に包囲殲滅コースを進んだ。

 僕たちは南軍を離れ、第三軍と共に正面を支えている聖騎士団の元に向かった。

 そこにも柱が一本、大地に突き刺さっていた。時間的に見て相当数の敵兵力が上陸を果たされているものと推察できた。



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誤字報告 射程に入ってくるドラゴンタイプは容赦なくパスカル君たちに銃弾を浴びて露と消えた。 ↓ 射程に入ってくるドラゴンタイプは容赦なくパスカル君たちの銃弾を浴びて露と消えた。
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