タロス戦役(突撃)4
「考察は後じゃ。あれだけおるんじゃ、個体差かもしれん!」
「上から来た!」
「真上ッ!」
オクタヴィアとチコが叫んだ。
『二体いる! 両方は無理ッ!』
ピオトが伝声管の向こうで叫んだ。
『大丈夫!』
ロメオ君の声だ。
『あ』
ピオトの中継が途切れた。
船が急加速し始めた。
弧を描きながら遠心力に任せて船体を傾けていく。
「アクロバットだな」
「十体来ても狙えるぜ」
アルベルトさんがもうできあがっている。集中力全開だ。パスカル君チームが全員窓から狙いを定めた。
『上の奴は僕がやる!』
「下は貰った!」
「次弾は任せて!」
『こっちからも来た!』
ピノが発砲した。
ピオトとアルベルトさんもほぼ同時に発砲した。
「当たった!」
『命中!』
アルベルトさんは窓から下がり、次弾を装填。
空いた席にシモーナさんが入った。
船が速度を緩めて正常な姿勢に船体を戻していく。
『三体、殲滅確認!』
チッタが言った。
「エルネストさん!」
パスカル君の示した先に柱が見えた。
まだ距離がありそうだ。
周囲を警護するかのようにドラゴンタイプが飛んでいた。
「カラスかよ!」
ファイアーマンが言った。
言い得て妙だった。
続け様に銃弾が撃ち込まれた。
射程の圧倒的な優位性をもって、僕たちは確実にドラゴンタイプを撃ち落としていった。
柱が近付いてくる。
敵は為す術なく、こちらの攻撃に晒された。
地上はどうなっているのか? 霞んでいてよく見えないが。
低空を飛ぶドラゴンタイプがときたま間引かれていった。
地上部隊は健在のようだ。
「野性の悪いところは、いざとなったら陣形など眼中になくなることじゃな」
エテルノ様が言った。
今、敵がもっとも守るべきは地上部隊を降ろすための柱である。だが、カラスたちは僕たちの船を脅威と捉えて、持ち場を離れ始めたのだ。
そして僕たちは柱を射程距離内に収めた。
柱のなかから魔法や矢が放たれるが、そちらは生憎こちらには届かなかった。
ぼくは銃を構えた。
「『魔弾』装填…… 『千変万化』で魔力アップ…… 『チャージショット』で…… 全開だ!」
「砕けろ!」
柱が光った!
柱のなかにいたタロス兵が結界を展開したのだ。
当然と言えば当然だが、予想だにしなかった。が、柱は衝撃と共に陥没した。
自重に耐えきれずに大きな亀裂が縦横に走った。
迷宮で見た螺旋階段が見える。落下する外壁に引っ張られるように引き千切られていく。
地上を目指していただろう兵士たちがうろたえていた。進路が崩れ、転進するが、後戻りできずに崩壊に巻き込まれて先に逝った者たちの後を追った。
切り離された柱が嫌な音を奏でながら倒れ始めた。
ゆっくりと地上に落ちていく。
大地に先端が突き刺さり、その衝撃で長過ぎる柱は三つに砕かれ、折れた部分がまた地上に落下した。
三本の巨大な柱がゆっくりと大地に横たわるように落ちていった。
そして地響きがなり、噴火と見紛うばかりに瓦礫と土砂が舞い上がった。
「大丈夫かな?」
土煙で霞んだ地上がなおさら見えなくなった。
「柱まではまだ味方の部隊が到達していませんでしたから、たぶん」
チッタが言った。
「でか過ぎる墓標じゃの」
柱のなかにどれだけの軍勢がひしめいていたのだろう?
今なお崩壊を続ける柱の上部から、兵隊と瓦礫が降ってくる。いくら強靱とはいえ、この高度には耐えられまい。
『兄ちゃん、右舷の一番向こう! 柱が落ちた!』
ピノの突然の言葉に僕たちは右舷に張り付いた。
ピノの言うとおり先刻見た景色が、再現されていた。
敵の不幸を思うなら不謹慎なことなのだろうが、笑いが込み上げてしまった。
あんなことができるのは王族しかいない。
「ダンディー親父か…… デメトリオ殿下か、ヴァレンティーナ様か」
「親父なのです!」
リオナが嬉しそうに言った。
死にゃしないと思ってたけど……
「旗艦にいながらにして柱をぶった切るかよ」
「王様がやったの?」
「噂には聞いてたけど…… やっぱ凄ーな、うちらの王様は」
子供たちと子供みたいな一部が歓喜した。
王国はあと百年は安泰かな?
「次、行くぞ! 柱はまだ三本残って」
アイシャさんがそう言い掛けたとき、空からもう一本、槍のように尖った先端をした柱が降ってきた。
そして地面に突き刺さった。
「ええええっ?」
僕たちは上空を見詰めた。
「後出しかよ。一度に落せよ」
ファイアーマンが情けない声で愚痴った。
それを聞いた女性陣がクスクスと笑い出した。
あっという間に笑いは伝播して、全員が笑った。
「じゃあ、まず近場に落ちてきたあれからだな」
追加のドラゴンはなかった。
それは僕たちにとって何よりの天恵だった。つまりそれは飛行タイプが既に打ち止めなのだという証拠だった。
突然、大きな衝撃を受けた。
「なんだッ!」
船の結界に何かが命中した。
『柱から攻撃された!』
テトとピノが同時に伝声管の向こうで叫んだ。
『魔法だよ! 落ちてきた柱から!』
ロメオ君が補足する。
「この距離を当ててくるのか?」
敵にも奥の手はあるものだ。
地上付近を飛んでいた飛空艇が一隻、柱からの直撃を受けて霞のなかに消えていった。
敵の攻撃は地表にも降り注いだ。
爆風で霞が払われ、地表が現われた。
結界の光が見えた。
地上部隊が新たな柱から距離を取るため後退し始めた。
突然、光弾が景色を横切った。
柱の根元の地面を吹き飛ばした!
「兄さん!」
狙ったのか? それとも外れたのか?
今回は敵側も兄さんを狙える射程を持っていた。
柱から兄さんのいる方角に向けて無数の魔法の光が降り注いだ。
「逃げろ! みんな!」
巨大な稲妻が空を駆け巡った。
突如、現われた稲妻は敵のすべての攻撃を撃ち落としていた。
「誰? 姉さん?」
姉さんはヴァレンティーナ様の護衛でこっちにはいないはず……
「母上のようじゃな」
エテルノ様が言った。
「まさか、母さん?」
「来ると思ってたのです」
リオナがニヤリと笑った。
くそ、何分かったような顔してやがる。似た者同士か、お前ら!