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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(時は来たれり)47

 新型弾のお披露目はしたが、市場に投入されないと知ると親父やパトリツィアさんはがっかりした。一応僕の手持ちはすべて置いていくことにしたが。

 全然足りないだろうが、不足分は予定通り『アローライフル』で頑張って貰うしかない。


 その後、僕たちは母さん自慢の農園や麹室や発酵蔵を見せて貰った。

 箱庭農園は今やヴィオネッティー領の一大産業に成長していた。

 城壁の外にまで収獲を終えた田畑が広がっていた。

 ヘモジが興味深げに僕の肩の上で背伸びした。

 視線の先、西方の荒れ地では春の作付けを目指して更なる開拓が行なわれていた。

 この分だと一年を通してお餅や米が流通する日も近いと思われた。

 城壁の外に新たな壁の建設も始まっていた。


 麹室はむっとする暑さだった。

 暖かいと思ったのは一瞬で、湿気も手伝って室から出たときには汗だくだった。

 だから蔵人が半ズボンだった。

 甘い匂いにリオナもヘモジもオクタヴィアも喜んだ。

 オクタヴィアが入室禁止にされそうだったが、浄化魔法と、僕のリュックの中限定で許可が出た。


 別棟には巨大な醤油樽や、大量の醤油壺が寝かされていた。

 さらに別棟ではチーズやヨーグルトなどの乳製品の発酵まで手がけていた。

 それから販売目的とは別の自家製味噌蔵に寄って、できたての味噌で味噌焼きおにぎりを頂いた。

 美味しかった。

 ナガレが珍しくお代わりを要求したが、オクタヴィアにはしょっぱ過ぎた。味噌を削いでやったらちょうどいい加減になったようで満足していた。

「急に羽振りがよくなったんじゃないの?」

「ふふん。母さんには意外にも商才があったのよ」

 自分で意外って言うなよ。

「ご先祖様に感謝ね」

 餅米と醤油、照り焼きソースが稼ぎ頭らしい。

 建物という建物が魔法で建てられた安普請なので、しっかりした物が平行して建設され始めていた。見切り発車から本格稼働になるようだ。町の人たちの労働の機会も増えそうで何よりだ。

 まるで巨大な工房だな。

「これも、飛空艇のおかげよ。定期監視のおかげで魔物の侵入を事前に察知できるから」

 壁ができあがるまでは大変そうだ。

 その飛空艇用の港の足元にも商業船が入港する度に、市が立つらしいし、スプレコーンもうかうかしてはいられない。


 皆が寝静まった居間の暖炉の前で爺ちゃんが水パイプをくゆらせていた。側に置いた書類の山を姉さんと真剣な顔で覗き込んでいた。

 ヘモジたちも疲れて寝てしまったし、しょうがないので睡眠薬代わりにスキル大全を開いた。

 魔法が使えない状況下で露呈した手数のなさを補うべく、候補になりそうなスキルを探した。

 すぐ取れそうなのは『スラッシュ』『パニッシャー』『レイズ』辺りだな。

『スラッシュ』は持ってるけど、ダメージ率が低いから育ててなかった。

『パニッシャー』は打撃技だし、『レイズ』はダメージが倍入るが、その分、スタミナや腕への負担が大きい。求められるステータスが僕には高過ぎた。

 結局『スラッシュ』か。

 既に覚えているスキルだから、実戦あるのみだけど。

 ただ剣を速く振ってるだけのような気もするし、成長したら化けるのだろうか?

 スキルマックスで『ソウルスラッシュ』に進化すると書かれていた。ダメージ倍率が上がるようだが、それでも『レイズ』には及ばない……

 一体この技のメリットはなんなんだ?

 狙って少し育ててみるか。駄目なら諦めよう。

 寝落ちした瞬間、手で支えていた重く大きな本が鼻面に落ちてきた。

 痛ッ!

 僕の声にヘモジが寝返りを打った。

 本を『楽園』に放り込むと睡魔と戦うのをやめて眠りに就いた。

 

 翌日、僕たちは大量の発酵食品を手土産にリバタニアを後にした。

「ミスリル弾、全部上げちゃったからまた作らないとな」

「リオナのも上げられたらよかったのです」

 双剣銃の弾は規格外だし、ライフルは置いてきたからな。『楽園』に入れておいた僕の予備だけだ。

 今生の別れではないと思ってはいたが、見慣れたはずの景色がやけに遠くに感じた。

「では、エルネスト。しっかりな」

 爺ちゃんとは余り話ができなかった。

「必ず迎えに行くから」

「ああ、心配しないで待っておる」

 大きな手がリオナの頭に置かれた。

 僕たちはそれぞれの行き先に向けて、ポータルのゲートを潜った。



 そして時は来た。

 水前月十五日。


『空に異変あり。本日なり。作戦を開始されたし』


 我が家にロッジ卿から出動要請の知らせが届いた。



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