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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(エルネストvsロックゴーレム)46

「ゴーレムの弱点は腰が高いことだな」

 親父は真顔で言った。

「岩だけ投げておればよいものを」

 爺ちゃんも戦評を述べた。

 兄さんは確かに普段の兄さんではなかった。だが百戦錬磨は伊達じゃなく、敵の行動パターンを読んで一点集中で攻め続けた。

 人外な跳躍はできないので、狙いは足回りだ。

 ゴーレムは足元に近い程手が届かない。一見、近接型に見えるゴーレムの適性射程は人にとってはほぼ中距離であり、近付かれる前に叩くのが基本戦術になっている。

 ロックゴーレムに至っては『岩石落とし』でさらに遠距離をカバーしていた。

 兄さんは巧みに足元に入った。

 コアは頭にあって一撃できる距離になかったから『鎧通し』は使われなかった。

 ただひたすら拳で殴っていた。

『魔弾』が使えれば脚の一本ぐらい一撃で粉砕できるのに、すぐ回復されて鼬ごっこだ。

 周りは溜め息をついたが、本人は嬉々として戦っていた。

 僕も感心しながら見ていた。

 ゴーレムの動きをここまでじっくり見られる機会は余りないから。近付かれてからの回避パターンは垂直落下式の地面ごと敵を粉砕する拳の一撃と、スタンピング、足裏で踏みつける行為だ。

 どちらも直接の打撃を意図したものではなく、それによって四散した瓦礫等による間接ダメージを狙ったものだ。

 生憎、訓練場には土しかないが、それでも足場を乱し、視界を塞いだ。

 敵は一旦引かざるを得ない。そして回復だ。

 もう兄さんを出しにしたゴーレムの性能テストはいいんじゃないだろうか。姉さんが魔力を補充している以上、野良ゴーレムと違ってそう簡単に魔力が尽きることはない。

「エルマンに『魔弾』抜きは酷なんじゃないか?」

「何言ってるの。そうでもしなきゃ一撃でゴーレムがお釈迦じゃないの。勿体ない」

 親父と母さんがそれぞれに味方した。

「寒いからほっといてお茶にしようか」

 アンドレア兄さんが屋敷に戻ると言うので、僕も戻ることにした。

「エルネスト、交替だ!」

 突然、エルマン兄さんが言った。

 そう来たか!

「ナナナナ!」

 ヘモジが僕の前に立ちはだかった。

「一緒にやろうか?」

「ナ! ナーナ!」

 ヘモジはミョルニルを構えた。

「コアは頭だ」

「ナナーナ」

「壊してもいいのかな?」

 姉さんに尋ねたら「ルールは一緒だぞ」と返された。

「ヘモジは?」

「好きにしろ」

「ナーナァ」

 溶けそうなくらい嬉しそうだった。

「じゃ、やらせて貰おうか」

 僕は剣を抜いた。

 そしてヘモジは有頂天のハイパーモード。いきなり全力だ。

 ロックゴーレムに殴りかかった。

 が、ゴーレムはヘモジの強力な一撃を防いだ。

「そう言うこと……」

 姉さんは早速梃子入れをしたようだ。

 迷宮のロックゴーレム如き、通常ならヘモジの一撃で難なく破壊できるはずだが、今のロックゴーレムの堅さは異常だった。

 ゴーレムを強化する手段を見付けたのか? 無茶とはこのことか。

 僕も『千変万化』と身体強化でヘモジに続いた。

 そして剣に魔力を込め、膝を狙った。

 切っ先に有り得ない抵抗が! いつもの切れ味が……

 だったら!

『兜割』ッ!

 剣を振り切れた。が、両断できなかった!

 間髪入れずに回復してくる。

「ドラゴンかよ!」

「ナーナンナーッ!」

 ヘモジの一撃を腕で受けたゴーレムは弾け飛んだ。

 いいぞ、ヘモジ。姉さんの想像の上を行け!

 僕も消えた。速さならリオナやエルマン兄さんの方が速いだろうが、ヘモジがいる分、目くらましが効く。

 姉さんからは見えないゴーレムの陰に入った。

 光るヘモジが大いに姉さんの視線を引き付けた。

『雷神撃』!

 ゴーレムが固まった! 麻痺している間は回復できない。

 いや、回復してるし!

「ナーナンナーッ!」

 全力の一撃が、僕が傷を付けた膝に叩き込まれ、打ち砕いた。

 ゴーレムは傾いて倒れ込んだ。

『雷神撃』が効かないと僕もゴーレム相手に有効打がなかった。

 こうなったら武器の性能に頼るしかない……

 が、唯一の有効打が嬉々として暴れ回っていた。厳密に言えばあれはハンデなのだが。

 光明を見つけた……

 ヘモジが敵の注意を引いる間に僕は懐に飛び込んだ。

 そして重い巨体を支えていた片肘を切断した。

 ゴーレムは地面に頭から倒れこんだ。

 僕は『ステップ』を踏んで頭部に陣どるとコアのある後頭部に剣を突き立てた。

「ヘモジーッ!」

「ナーナーッ!」

 宙返りを決めながら飛び込んできたヘモジが僕の剣の柄尻目掛けてミョルニルを叩き込んだ。

 魔法は敵には使えないが、自分の剣を強化する分には問題ない。

 僕の剣が楔になってゴーレムの頭が真っ二つに砕けた。

 が、コアがなかった。

 はかられた!

 太い腕がヘモジを捉えた。

 姉さん、わざと魔力溜まりを作っていたな!

 ヘモジはゴーレムの指の隙間から逃れた。

「急所は胸なのです!」

 そのようだ。

 僕はミスリル弾を装填している短銃をホルスターから抜いた。

 備えあれば憂いなしだな。

「新型貫通弾のお披露目だ!」

 銃口をヘモジに向ける。

「ヘモジ盾を構えろ!」

「ナ!」

 ヘモジは一瞬で理解した。自分の魔法の盾を僕に向けてかざした。

「よけろッ!」

 僕はミスリル弾を放った。

 ヘモジは盾を残して、空高く飛んだ。

 銃弾は盾が作り出した結界を通り越して、後方にいたゴーレムの胸に――

 大きく陥没した穴が氷結していた。

「ロックゴーレムには強力過ぎたな」

 ぼくは銃を胸のホルスターに収め、無傷のヘモジの盾を拾い上げた。

 ヘモジが嬉しそうに飛び跳ねて戻ってきた。

「ナーナ!」

 ヘモジとハイタッチを決めた。

「おいおい! 倒しちまったぞ」

「まさか壊されるとはね」

 エルマン兄さんと姉さんが呆れている。

「最後のあれは?」

「新型貫通弾と言っていたわね」

「まさか転移させるために結界を自ら作り出すとはの」

 親父たちも。

「ロックゴーレム相手にハンデ戦なんてどうかしてますよ!」

 パトリツィアさんが言った。

「一瞬で終わったら余興にならないのです」

「あのね、リオナちゃん」

「リオナの番が回ってこなかったのです! やっぱりタイタンぐらいじゃないと駄目なのです。レジーナ姉ちゃんのゴーレムでもう一回やるのです」

「無理だ。周りをよく見ろ」

 訓練場が……

「凸凹なのです」

「身体を動かしたきゃ――」

「お茶にするのです。身体が冷えてきたのです」

 整地作業でもしろと言われる前にリオナは逃げた。



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