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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(エルマンvsロックゴーレム)45

 ターキーはこれだけの人数がいながら、一皿だけだった。

 全員が一斉に安堵の色を見せた。が、テーブルには別の物が……

 ジャンボステーキ…… 三人前はあろうかという分厚い肉の塊が鉄板の上でぷつぷつと音を立てていた。

『ブルードラゴンなのです!』

 これには姉さんも目を丸くした。

 我が家に新たな伏兵が現われたと言ったところだ。

「伝言通り作りましたが、よろしかったでしょうか?」

 婦長がこっそり聞きに来た。

 誰の伝言だ?

 リオナがプイと明後日の方を見た。

 いつの間に……

「みんなの分も残ってるなら問題ないよ」

「それでしたら―― お気遣いありがとうございます。問題ございません」

 ブルードラゴンの肉なら案外ぺろっといけるはずだ。それが最上級たる所以だからな。

 自分の席に飛び込むように座るリオナの横に、僕も何ごともなかったかのように着席した。

 ヘモジもナガレも、気を取り直した姉さんも後に続いた。

 オクタヴィアが心配する家人に「大丈夫。あれくらいがちょうどいいから」と大して食わない口で言った。

 一口食べればオクタヴィアの言葉の正しさに気付くだろうが、まずはターキーからだ。食べる順番を間違うと、母さんを悲しませる結果になりかねないとも思ったが、懐かしい味は最高のスパイスだった。

 リオナもパクついている。ステーキから行きそうなところだがここは礼儀正しく、家人のもてなしを優先させた。

「おいしいのです」

 もくもくもくもく。

 周りの者たちはそのペースで食べてステーキまで辿り着けるのかという不安そうな顔を見せた。

 他の人はやめた方がいい。が、そう考えると肉を出すタイミングが早かったか……

 僕たちも今回は気負うことなく普通に食べた。

 普段からこの量なら誰からも警戒されることはないのに。

 全員で掛かればちょうどいい分量だった。

 そしてステーキ皿の上の肉がレアからミディアムになりかけたとき、リオナがパクリと最初の一口を口にした。

 目がきらりんと光った。

 続いてヘモジも。

「ナーナンナー!」

 騒いでいるが、話し掛けられているリオナ以外、何を言ってるか分からなかった。

 通訳ふたりは早くターキーから卒業したくて必死であった。

 僕はオクタヴィアの皿に手を出し、リオナはナガレの皿に手を出した。

 それを見た母さんは「やっぱり足りなかった?」と声を掛けてきた。

 全員が喉を詰まらせ、咳き込んだ。

「大丈夫なのです! ナガレは小食なのです」

 オクタヴィアは…… 説明するまでもない。

「そうなの?」

 ナガレの別の皿には他の皿と変らずでかい肉の塊が。

 冷めないうちに両方の肉を美味しくいただこうということになれば、ターキーだけに時間を費やすわけにはいかない。料理人たちの選択は正しい。後で分かるだろう、ちょうどいいバランスだったと。

「お前も食べろ」と親父に促されて、母さんも席に着いた。

 そして礼儀として母さんだけは自分の料理ではなく、客の土産の皿から手を付けた。

 そして固まった。

 以前送った詰め合わせにも確かブルードラゴンは入っていたはずだけれど……

 アンドレア兄さんが小声で「詰め合わせの肉は食糧倉庫にまだ眠ってるんだ」と言った。

 家族が揃わなかったせいで、高級食材を提供する場がなかったらしい。しかもランクの低い肉から消費していたようなので、なおさらだった。

「溶けた……」

 母さんの感動は見ている者たち全員に伝わってきた。

 爺ちゃんも愛弟子を見て笑った。

「この歳にして、斯くも驚くことはそうそうなかろう」

 それから皆フライングしてステーキに手を付け始めた。そして言葉を失った。

「なんの肉だって?」

 エルマン兄さんが改めて聞いてきた。

「ブルードラゴンだよ」

「カラードじゃないか!」

「だからそう言ってるだろ?」

 姉さんが口を挟んだ。

「お前が狩ったのか?」

「うちのチームだけど、とどめは誰だったかな?」

「ナーナ?」

「ヘモジだっけ?」

「これは一体目のブルードラゴンだから、ヘモジとリオナなのです」

「ああ、鏃ぶん投げた奴か?」

「ナ、ナーナ!」

 ヘモジも思い出したようだ。

「今、一体目って言わなかった? それって――」

 パトリツィアさんがナガレに聞き返した。

「よく覚えてないわ」

「そう……」

「誰がどのドラゴンを何体、倒したかなんて」

 パトリツィアさんは何も言えなくなった。


「ごちそうさまなのです」

 リオナが一足早く食べ終わった。リオナの前にはチーズとフルーツの皿が置かれた。

 ヘモジはフルーツに食い付いた!

 食べかけのドラゴンステーキの皿を僕に投げると、自分もこれが欲しいと給仕に訴えた。

「兄さん食べる?」

 アンドレア兄さんに言ったのだが、エルマン兄さんに「よこせ」と言われて持っていかれた。


 皆、菓子を食べながら魔石暖炉の揺れる火のなかでくつろいだ。

 話題はブルードラゴンの肉一色だった。

 母さんも一緒になって、いくらぐらいするの? 旬の時期はいつ? 次の狩りには母さんも呼んでね。と僕ではなく、リオナに話し掛けていた。

 人より息の長いドラゴンに旬を求めて、それでどうにかなるのか? 出会ったときが最悪な日。それでいいのではないか?

 エルマン兄さんは訓練場に行きたくてウズウズしていた。

 姉さんはそんな兄さんをゆっくりお茶を啜ってわざとじらしていた。

 アンドレア兄さんはそれを楽しそうに眺めながら欠伸をし、常識から抜け出せないパトリツィアさんは会話に溶け込もうと必死だった。

 ヘモジはゴーレム戦に参加しようと姉さん相手に何やら画策していた。菓子と引き替えに頑張っていたが、生憎テーブルには同じ菓子が大皿に積まれていた。

 毎日サンドゴーレムやタイタンとやり合っているというのに…… 飽きない奴だ。

 ナガレとオクタヴィアは菓子を頬張りながら、ヘモジの目論見が失敗する方に賭けていた。ふたり揃って同じ出目に賭けていては勝負にならないから、出目を変えた方がいいとお互い懐柔し合って胡散臭い雰囲気になっていた。

 その賭けが賭けになるか、ならないかを賭けた方がいいんじゃないか?

「若様、参加する?」

「ヘモジの主人でしょ?」

 だからなんだ? わざとはずれに賭けろというのか?

 ナガレと睨み合った。

 姉さんが立ち上がった。

「お前は普段タイタンとタイマンしてるだろ!」

 賭けになる前にヘモジは一蹴された。

「ナー……」

 ガックリと項垂れた。

 いよいよ始まるようだ。

 兄さんとロックゴーレムとの戦いが。勝負になんないよなぁ。

「当然『魔弾』抜きだからな」

 姉さんがさも当然という顔で言った。

「お、おお……」

 兄さんは断われなかった。

 アンドレア兄さんと目が合った。

 姉さん、それはあんまりじゃ……

 せめて身体強化ぐらいはいいんじゃないかな?

 兄さんは基本魔法はからっきしだ。すべて『魔弾』に掛かっている。僕が魔法を封じられるよりたちが悪い条件だ。

「暴れん坊がゴーレムと喧嘩するのと変らんな」と親父が言った。

 僕が贈った隕鉄のガントレットはしてないようだ。いつもの使い慣れたガントレットだ。付与だけで倒せるのか? ゴーレムに通用するとしたら『鎧通し』ぐらいか?



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