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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(里帰り)43

 翌日、約束通りリオナとナガレ、ヘモジとオクタヴィアを連れて僕は里帰りを果たした。

 僕のためというより、リオナのためにと思ったのだが……

「僕たちが行くって連絡した?」

「突然の来訪は失礼なのです」

 だからか……

 家人が勢揃いしていた。

 前線から抜けられないはずの親父とアンドレア兄さん。同じく前線にいるはずのエルマン兄さんとその妻にして上司のパトリツィアさんが勢揃いしていた。

 執事のオースチンが普段より嬉しそうに僕たちを迎えた。

「懐かしゅうございますな」

 兄弟が勢揃いするのを殊の外喜んでくれていた。

 でも、姉さんはいないのか? と思ったら厨房の方で母さんとバトルしている声が聞えた。

「頑張ってー。レジーナちゃん」

 パトリツィアさんが小声で応援していた。

 理由は言わずとも分かっている。ターキーの載る皿の枚数を争っているのだ。

 僕たち全員の運命が掛かっている!

「リオナ」

「はい、なのです!」

 リオナはオースチンに大きな包みを渡した。

 中身はブルードラゴンなど超高級食材が入った保管箱だ。

 僕たちが言わんとしていることを理解したオースチンは、それを使用人に持たせて厨房に急がせた。

 しばらくすると厨房の方が静かになった。

 どうやら騒ぎは収まったようだ。

 客人が持ってきた食材を使わないというのは非礼なことだ。その食材を使った料理を家の料理人が縒りを掛けて提供するのが筋である。

 食材を持ち込む行為自体、余り好ましくない行為と見做されるが、家族だし。

 人の胃袋には限界がある。そして食欲もだ。

 親父やエルマン兄さんがドラゴンの肉の詰め合わせを黙って見過ごすわけがない。何が何でも夕食の皿に載せるだろう。となれば肉料理が被ることになるので、ターキーを何皿もということにはならない。昼食の皿なら特にだ。

 母さんがうなだれて出てきた。

 僕たちの援護が効いたようで、姉さんが勝利したようだ。

 厨房から出てきた姉さんはローブ姿に腕まくりまでして、髪もアップに紐でまとめていた。

 姉さんが母さんに見えないように親指を立てた。

 一同はほっと胸を撫で下ろした。

「お前の気持ちも分からんでもないが」

 親父が母さんを慰める。

「お席がまだでしたね」

 オースチンが笑いをこらえて僕たちを席に導いた。

 我が家の日常が戻ってきた。

 姉さんがまだいた頃の……

 兄さんたちは悪さをする度、いつも母さんに怒られていて、彼女を遠巻きに見ていた。姉さんはそんな母さんの側にいつもくっついてべったりだった。

「懐かしゅうございます」

 古い馴染みの使用人たちの目にも涙が。

「おー来たか! リオナ、元気だったか」

「元気なのです」

「リオナちゃんも前線に出るの?」

 エルマン夫妻に真っ先に声を掛けられた。

 パトリツィアさんはひとり門外漢で居心地が悪そうだった。

「遅刻するのです」

「遅刻するの?」

「やることがあるので」

 ぼくはリオナの隣りに座った。ナガレとヘモジの席も用意された。オクタヴィアは僕の肩の上で使用人たちに愛嬌を振りまいていた。

 否が応でも戦の話になった。この面子だから仕方がないとも言えるが、母さんは蚊帳の外だ。 そこにさらに来客があった。

「アシャン!」

 母さんも姉さんも飛び上がった。

 想定外の人物の登場に僕たちは喜んだ。

「エルネストの所に行ったんじゃが、ここだと聞いてな」

 パトリツィアさんが凍り付いた。

『魔法の塔』の筆頭。国王の片腕、王宮の重鎮の一人だから、普通はこういう反応になる。

「お爺ちゃん来たですか。ちょうどよかったのです。これから食事なのです」

 リオナはお構いなしである。

 食事と聞いて、爺ちゃんは一瞬、踏み出した足を止めた。

 母さんを除く全員が「今日は大丈夫だ」と頷いた。

 爺ちゃんもほっとしたようだ。

 ヘモジとオクタヴィアの頭を撫でて通り過ぎた。

 普段から椅子だけはそこにある、爺ちゃんの指定席に腰を下ろした。

「父には会ったかね?」

 リオナに尋ねた。

「会ったのです。最長記録だったのです」

「そうか。それはよかったの」

 ふたりは笑った。

 お茶が出てきたので、リオナとの会話はそこまでになった。親父と真面目な話を始めた。

「エルネスト」

 アンドレア兄さんと話していたエルマン兄さんが声を掛けてきた。

「一勝負せんか?」

 拳を握った。

「今? これから? 食事だよ」

「魔法使いに肉弾戦で勝って嬉しいわけ?」

 姉さんが口を挟んだ。

「勝ち負けは関係ない。どれくらいやれるようになったか見たいだけだ。あの国王に一太刀浴びせたのだろ?」

「いつの話ですか」

「どいつもこいつもお前を褒めるが、俺は見ていないからな。『はい、そうです』などど気安く答えられんのだ。それが心苦しくてな」

「暴れたいだけでしょ?」

「なんならお前でもいいぞ」

 姉さんと睨み合った。

「だから魔法使い相手に何が面白いのかって言ってるのよ」

 今までなら「筋肉馬鹿!」と語尾が付くはずのところなのだが、隣に嫁がいてはいくら兄妹とはいえ言葉を控えるようだ。

「肉弾戦ならリオナが相手するのです!」

「お! やるか?」

「やるのです!」

「よっしゃ、庭でやるぞ。こっちだ」

「ちょっと、エルマン!」

 さすがにパトリツィアさんが止めに入るが、姉さんはちょうどいいと言って見逃した。

「ルールは武闘大会ルールだ。但し、寸止めだ」

 アンドレア兄さんが言った。

 周りのみんなは溜め息をつくが、ここまでがワンセットだ。エルマン兄さんはいつも通りのマイペースと言えた。

 料理ができるまでの余興にはいいだろう。

「勝った方がエルリンとやるのです」

 おい。

「そりゃいい。負けられんな」

 兄さんは始めから負ける気なんてない。子供に対するリップサービスだ。

 が、リオナは本気にならないと捉まらないと思うけどな。

 リオナの速さは見えているからといって反応できるものではない。おまけにゼンキチ爺さんの弟子でもある。

 兄さんも大概だけど『魔弾』を使うようなら兄さんの負けだ。

「大丈夫なの? エルネスト」

 母さんが心配そうに覗いている。なぜか手には杖を持っている。兄さんがやり過ぎるようなら、吹き飛ばす気だろうか? パトリツィアさんまで剣を持ち込んでいた。

 どれだけ信用ないんだよ、兄さん。

「頑張れ、リオナ」

 使用人が練習用の木刀を持ってきた。

 兄さんは使わないので、持ってきた二本を両方、リオナが手に取った。

「長過ぎるか?」

 リオナが頷いた。

「切ってやる」

「この辺でお願いするのです」

 僕はいつもの調子で『無刃剣』を使って、余分な長さを切り落とした。

 周りが静まり返った。

「ん?」

 なんだ? 何か変なことしたか?

「持ち手は太くないか? 削るか?」

「殴らないなら平気なのです」

 姉さんがにやついている。

「何?」

「さあ」

「では、構えて」

 オースチンも付き合わされて迷惑なことだな。

「始め!」



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