時を待つ日々(ミスリル弾増産す)42
残りの日数は休日に充てることにした。実家に帰って家族の顔を見てくるもよし、引き続き鍛錬に充てるもよしだ。
うちの連中は特に変わりない。ロザリアも帰る予定はないそうだ。アイシャさんも執筆活動に没頭してるし、エテルノ様もゴーレム開発の追い込みを嬉々としてしている。レオもピノたちとの迷宮探索を楽しんでいるようだ。
ハイエルフの時間感覚では里を離れたのはつい最近ということになるのだろうか?
パスカル君たちは一旦全員帰ることにしたらしい。
実家や領地の部隊に編入される危険もなくなったことだし、集合日から逆算して郷里が遠い者から帰っていった。と言ってもゲートを使えば国外のシモーナさん以外はすぐ帰れるのだから暢気なものである。
パスカル君の実家は最寄りのポータルから少し遠いが、今はボードもあるから一瞬だ。
集合日は戦闘開始予定日の前日にしておいた。
僕も一旦実家に帰るが、帰らない連中を一緒に誘おうかと思っている。
そんな話をその日の夜しながら、アイシャさんにミスリル弾の術式の不備を調整して貰った。後は量産あるのみである。
魔石に術式を刻むのに丸一夜を掛け、翌日の午前中を無駄にすることにしていた。
ミスリル弾用の魔石の加工が完了して、ベッドに潜り込んだのはエミリーたちが起き始めて日課をこなし始めてからだった。
昼に起こされると食堂では残念会が行なわれていた。
ファイアーマンがケバブとバーターでロックゴーレムを取得するという話があったが、僕が寝ている間にエテルノ様と召喚を試したらしい。
そしてみごとに失敗したようだ。それで下位のストーンゴーレムに甘んじる結果となったらしい。
エルーダなら序盤はいい盾になってくれることだろう。ご愁傷様。そしてごちそうさん。
ロメオ君とエテルノ様は余ってしまったロックゴーレムの引き取り手を探している。タイタンやサンドゴーレムではないにしても同じ四十六階層のゴーレムだ。決して弱くはないので、欲しがる者はすぐにも現れるだろう。が、それ故に召喚も難しい。それ相応の実力が求められるとなると引き取り手も限られるだろう。
タイタンの半分のサイズだから扱いもし易かろうし『ゴーレム二号』でいいんじゃないだろうか? というよりエテルノ様は自分のゴーレムを取得したのか? 古のゴーレムか、タイタンか、どちらを選んだのだろう?
昼食を済ませると僕は加工した魔石をミスリルの容器に収め、ヘルメスの仕掛けを施した。
「はーっ。いくら製法が簡単になったからって…… それでも大変だよ。この数は」
パスカル君たち十人分。加えてうちのメンバーの分に、ピノたち船のクルーの護身用分。さらに知り合いの分を含めて二百発。
「全然足りない」
二百発じゃ、一人に七発あるかないかだ。
僕は休憩を入れた。地下から出てきたら窓の外はもう暗くなっていた。
「『複写』のスキルがあったら術式の転写が楽になるんだけどなぁ。あれってユニークスキルだからなぁ」
こればかりは『魔法の塔』に頼むわけにもいかないし……
「複写は無理でも働き手ならいるじゃないですか?」
パスカル君が僕の愚痴を聞いていた。
「働き手?」
パスカル君はにっこり笑って頷いた。
翌日、魔法学院ではおかしな授業が行なわれた。
魔法の矢を作成するというカリキュラムで、複雑怪奇な紋章を魔石に刻み込むというものだった。完全に暗号化されたものを絵として刻むという上級者向けの題材だった。生徒たちは面食らったらしい。
因みに僕はこんなとき、光投影という技法を使う。
ガラス板に型となる原形を作り、感光剤を塗った魔石にガラス板を通して光を当てるのである。すると光の当たった部分の色が変って、陰になった部分とくっきり分かれるのである。
これは異世界の写真という魔導具の乾板という部品に使われている技術だ。使われている乳剤に関するレシピは『異世界召喚物語』の欄外の覚え書きから取得したものである。
一度写真という物にもチャレンジしたいのだが、この乾板をどう使えば景色や人の姿を投射できるのか、さっぱり分からない。
兎に角、スキルのない僕が複雑な紋章を大量に刻むときはこの手を使う。実際紋章を刻むことは余りないのだけれど。
魔法の矢などといった秘匿性の低い情報の場合、タネはばれているから、余程特異な付与でない限り、術式をそのまま文字で刻むのが一般的である。弓から放たれたが最後、術式は発動して後腐れなく残らないのだから、それで充分なのだ。
だから生徒は面食らったのだ。
今回は技術の漏洩を懸念して紋章の形でお願いしたが、まさか授業の一環にしてしまうとは…… さすが天下の魔法学院、侮りがたしだ。
そんなわけで何も知らずに授業に参加した生徒たち、三クラス百二十名が授業中、課題として五個ずつ製作したようだ。
授業の最後には種明かしに一発、矢を作って僕がテストしたときと同じように、結界術式を刻んだ壁を並べて、そこに向けて射るのである。
生徒たちは目を見張ることになる。
そしてそれが自分達の代表であるパスカル君たちの手に渡るのだと知るのである。
基準が新しくなった結界術式を真面目に覚え直してくれるだろうという先生側の思惑も働いているのだが、仲間のために働けた事実に歓喜する生徒たちには余り関係のない話だった。
検品の後、こちらに送られてきた数は五百五十発。僕が作った分を合せると一人二十発行き渡る計算になる。
送られてきた魔石はミスリルの容器に収まるサイズに圧縮して、オーバーブーストを効かせてやれば完成である。
「これだけあるなら、ヴァレンティーナ様にも分けてやれるだろう」
子供たちに二十発は多いから、その分を向こうに回すとするか…… 向こうは向こうで赤いカートリッジの量産をしているのだろうけれど。
「明日、実家に行こうと思うんだけど、みんなもどうだろう?」
反応がよろしくない。恐らくターキーの呪いだろう。
「しょうがないのです。リオナたちだけで行くのです」
オクタヴィアが身を竦めたが、ヘモジに肩を叩かれた。
「ナーナ!」
「一蓮托生だって」
ナガレが苦笑いした。




