時を待つ日々(検証)41
僕は結界を張りながら空いた壁の穴を覗き込んだ。
するとミノタウロスが巨大な斧を振り下ろしてきた!
僕は咄嗟に火の輪潜りに失敗した獅子の如き素早さで瓦礫を乗り越えると加速した。結界で受け切ることもできたが、加速して背中に回り込むと足の腱を切り裂いた。
「ナーッ!」
ヘモジが倒れ込んできたミノタウロスにとどめを刺した。
周囲にいたミノタウロスが一斉に集まってくる!
城壁に囲まれた空に銃声が轟いた。
穴の向こう側からパスカル君たちの銃口が狙っていた。
壁を作りながら、侵入経路を制限しつつ、接近してくる敵を迎え撃つ。
単調な作業になると思われたそのとき、壁の向こう側が突然燃え上がった。
ファイアーマンが破格の『爆炎』を仕込んだ高級な弾丸を使ったのだ。
命中した一体が爆死するなか、周囲にいた一体に火が移り、逃げ回った挙げ句、油壺に突っ込み派手に延焼を拡大させた。
木造の小屋に火は燃え移り、敵は後退を余儀なくされた。が、煙を見て駆けつける増援で数が増え始めた。
「城館のなかに入れば追い掛けてこないから!」
「ナーナ!」
こちらが後退する羽目になりそうだったので、先を急いだ。現実なら追い駆けてくるところだが……
さあ、城館に入ってしまおう。
前衛をヘモジに任せて、僕は後ろに下がった。
戦闘は任せて僕はミスリル弾を完成させることに注力した。そして完成した物から随時パスカル君たちに提供していった。
城内の精鋭は枚数は兎も角、障壁を持っているので、雷でも落として剥がして、麻痺させてから攻略する方がやり易いのだが、今回はミスリル弾で先制して貰うことにした。
最初のうちは僕の製作待ちになることもあったが、魔石に変るまでの待ち時間を利用することで次第に需要に追い付き始めた。
一人三発ぐらいは回った頃、僕たちは館のなかを制圧し、ボス部屋の前に辿り着いた。
城主が一体と、護衛が二体、騎士と魔法使いだ。
「こういうのありなんですか?」
僕の攻略方法に異論が出た。
「安心安全がモットーです」
「どの口が言うかな」
本気なんですけど。
「扉の隙間から狙撃だなんて」
「なんか違う気がする」
「今回は付き合ってよ」
「しょうがないな」
「じゃあ、担当分けるよ」
先輩チームが城主を、パスカル君たち男性チームが騎士を、女性チームが魔法使いを狙うことに決まった。失敗して扉に迫られたときは僕とヘモジが責任も持つことになった。
当然隙間から三体同時撃ちなんて芸当はできない。一体相手なら兎も角、三体同時となると無理がある。あくまで扉を開け放ってすぐという意味だ。
全員が一度に室内になだれ込むこともできないので、そのための順番や、移動方法も練られた。
「行くぞ。三…… 二…… 一……」
アルベルトさんが発砲! そして突入。
続いてファイアーマン、フランチェスカが発砲、突入を繰り返した。そして左右に捌けると次弾装填。
その間にシモーナさん、パスカル君、ビアンカが突入、二撃目を放ち、続いて左右に捌ける。
そして三番といったところで騎士だけが反撃してきた。
一番手と三番手の連中の集中砲火を浴びて動かなくなった。
「ファイアーマン、外すなよ」
周りから一斉に責められた。
「当てたよ! 当たり所が悪かったんだ!」
残り二チームが一撃で相手を葬ったにもかかわらず、ファイアーマンは相手が悪かった。
咄嗟に避けられ、兜にかすっただけで付与魔法の発動範囲からも逃げられてしまった。
次のパスカル君の一撃も盾と片腕を犠牲にしながら致命傷を逃れた。
さすがに銃弾の雨はかい潜れなかったようだが。
「固まった」
オクタヴィアが動かなくなった騎士の鎧を叩いた。霜に肉球の跡が付いた。
「発動タイミングが…… どうしてもラグが出るな」
「しょうがないですよ。術自体、発動タイミングはゼロじゃないんですから」
ビアンカが言った。
「それだ!」
付与魔法の術式展開自体にもわずかな遅延がある! それが調和を乱す原因だったんだ。術式を最前列に並べても、そのタイミングいかんによっては順列が後退してしまう。付与する魔法の遅延も加味して考えないといけないのか。
こりゃ、要相談だな。これが仕様だと言ってのけることも可能だけれど。
「みんな、ありがとう。おかげでいい成果が上げられたよ。というわけでもう少し頑張ってくれ。ご褒美タイムだ」
魔石(大)を三つ回収すると僕たちは宝物庫へと続く道を進んだ。
建物のなかにはもはや敵はいないので、外の通路にいる奴だけを葬るだけでよかった。名誉挽回のためにファイアーマンがもう一度チャレンジする。今度は充分射程もあるから余裕だろう。
ファイアーマンの銃弾は障壁の一瞬の煌めきをかい潜り、ミノタウロスの頭を内側から凍らせ吹き飛ばした。
骸を後に通り過ぎると宝物庫の扉が待っている。
僕は鍵の入った鞄を近づけ、扉を開けた。
目眩く宝の山だ。
「うわぁ」
先輩たちは茫然と立ち尽くした。
「来年の授業料はこれで賄えるな」
「これだけあれば卒業まで充分ですよ」
先輩たちは異論があるようだった。
「よし戻ろうか?」
僕たちは脱出用の転移結晶で外に出た。
僕たちはまだ用事があるので現地で別れた。
クヌムの両替屋にも寄らないといけないし。