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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(実験成果)40

 リオナの放った銃弾は見事に障壁を貫通して敵を凍らせることに成功した。本命は多重結界持ちの城内にいる精鋭たちだが。

 一度目の休憩を兵士詰め所の手前で取った段階で、時間的に大分押されていた。ケバブを取ってこないと。休み抜きでそのままノルマをこなして……

 リオナとナガレにはこちらでお目付役をしておいて貰った方がいいだろう。

 接近戦はどう見てもからっきしだからな。懐に入られたら大変だ。入れる敵が現われる前に戻ってくる予定ではあるけれど。

 ヘモジとオクタヴィアを連れて、おやつも食べずに僕たちはその場を後にした。



「この匂いは…… 空きっ腹にはたまらないな」

 ぐーとヘモジとオクタヴィアが腹の音で返した。

 ケバブ店はまだ準備中で、中では僕たちの無茶な注文を必死にこなしている音がした。

 ぐー。

 ヘモジが空腹に耐えきれずに、僕のリュックを漁ってオクタヴィアのクッキー缶を取りだした。ふたりが蓋を開けようとしたそのとき、店の扉が開いた。

「お待たせしました」

 四百人分の出前が出てきた。

「ほんとにすいません。無理を言って」

「いいえ、開店早々、大商いができて助かります。今後ともご贔屓に」

 誤魔化すために一応、荷車を借りてきた。そこにでかい保管箱を積んでいる。四百人分を保管箱に収めると僕達は別荘に向かった。

 途中、人気のない通りに入り、保管箱を『楽園』に放り込むと、空荷の荷台を道すがら借りた店の主人に返却した。

「さ、一旦帰ろう」

 ゴーレムの工房を訪れ、ロメオ君とエテルノ様にも声を掛けた。

「大変だね」

 ロメオ君に笑われた。

「進展は?」

「新しい情報が見つかったよ。今お姉さんに翻訳頼んでるけど、エテルノ様が言うには核心部分に繋がる情報かもだってさ」

「自前の設計ができるようになるかもしれんぞ」

「ほんとですか?」

大戦(おおいくさ)には間に合いそうにないがな」

 タロス戦にはさすがに投入できないか。予定が早まってしまったからな。



 家に戻るともう中庭に家族連れの子供たちが溢れていた。

「お帰り、兄ちゃん」

「お帰りなさい」

「若様、お帰り」

 ピノたちも半日仕事を終えて戻ってきていた。

「お帰りなのです」

 ええっ?

「戻って来ちゃいました」

 ビアンカがすまなそうに言った。

 パスカル君たちも戻ってきていた。

 四百食のなかに彼等の分も含まれていたらしい。

 中庭はいい香りを醸し出しながら前日同様大賑わいになった。

 スプレコーンのケバブ屋も煽りを食らって、客足が伸びていると耳のいい連中が話していた。

 前日の既視感を感じながら僕もご相伴に与り、一服する前に家を後にした。



 ヘモジもオクタヴィアも僕のリュックに収まり寝息を立てていた。

 大事な物は『楽園』に放り込んであるから、見た目よりリュックの中身は軽いが、だからといって、これじゃまるで赤子を背負った乳母だ。

 周囲の視線はどう見ても冒険者に向けられるものじゃなかった。

 見る者みんながクスクスと笑った。

 誰も僕がこれからサンドゴーレムやタイタンを倒しに行くとは思うまい。

 飛行石の方はもう間に合っているようなので、錘にする金の回収はいらないそうだ。私腹を肥やすことにしよう。要塞に関しては後は鏡像物質の備蓄分だけで充分だろう。

 今回はエントの件で浪費した魔石を補うために魔石の特大集めもしておこうかと思う。それで帰りに鏃に使う分を両替して貰おう。


 ミスリル弾の被験者にちょうどいい存在を忘れていた。

 鉄壁のタイタンである。

 扉の前で弾丸のセッティングを済ませるとそっと扉を開いた。

「ナ?」

「奥にいる」

 ふたりが扉の隙間から顔を突き出して遠くを見詰めた。

 コアを破壊するために魔法付与は風魔法の炸裂系にした。貫通より衝撃破壊が目的だ。

 それで駄目ならヘモジ先生にお願いする予定である。弾は三発。四発目を撃つ猶予は貰えそうにないから、四発目は『魔弾』だ。

「やるぞ」

「ナーナ」

「頑張る」

 どうやら僕が望遠鏡を覗いている間、周辺の警戒をしてくれるらしい。

 この部屋には目標しかいないけどな。

「一撃必殺……」

 反応がないとコアの位置も分からないので、最初は薬室を空にして『魔弾』を装填する。

「左胸、深いとこ」

 オクタヴィアが修行の成果を発揮した。こちらの見立てと一緒だ。

 僕は弾倉を装填する。

『一撃必殺』で再度確認。一撃で倒せるなら反応があるはずだが…… ないか。

 一撃では破壊できないとの判定だ。

 でも、撃たなきゃ始まらない。今は大切なのは多重結界を越えてくれるかどうかだ。タイタンの重装甲の件は後回しだ。まずその装甲に命中させられるかどうかだ。

 狙いを定めて……


 破裂した。

 当たった! 

 左肩が抉れてなくなった。威力も申し分ない。けど角度が悪かった。さすがに斜め前方からコアを狙うのは無茶だったか。

「次!」

 タイタンが迫ってくる。定番のミンチハンマーを振り上げて。

 ヘモジもミョルニルを抜いて身構える。

 よし! 正面だ。今度は狙えるはずだ。

 一撃必殺の反応が来た!

 二発目の弾丸はタイタンの右胸を深く抉った。結界にも引っ掛からなかった。

 タイタンは床に倒れこんで砂塵を巻き上げた。

 僕の前でスタンバイしていたヘモジが振り返った。

「ナーナ!」

「やったぞ、ヘモジ! いぇーい」

 両手でハイタッチした。

「ナイスアシストだ。オクタヴィア」

「いぇーい」

 肉球タッチだ。

 オクタヴィアは床に飛び降りてヘモジともタッチを交わした。

「よーし、戦利品の回収だ」

「ナー」

「おー」

 小柄なふたりは回収には役に立たなかった。

 鏡像物質は……

 今回は破壊した部位が多かったから、出てこないかもな。

 気流に舞う細かい砂埃の流れを追い掛けながら、おかしな兆候を探した。

「ないなーい」

「ナ、ナーナ」

 ふたりも捜してくれたが見つからなかった。

「やっぱりシビアだな」

「ナーナ」

「これで我慢する」

 金塊から銀塊へとオクタヴィアが飛び移った。ミスリルが少しだけあった。コインが大量に手に入ったが、正直今は要らない。

「まあ、こんなもんだろう」

「ナーナ」

「しょうがない」

 僕たち三人は実入りが減っても終始笑顔だった。


 銃声やミノタウロスの怒号が聞えてきた。

 用事を済ませて合流したらパスカル君たちはまだ城門前の兵士詰め所で引っ掛かっていた。

 どうやら大門前の石橋を渡れずにいるらしい。

「魔法使えばいいのに」

「あの大門頑丈過ぎですよ」

 どうやらトライはしたようだ。

「まあ、炎竜も壊せず上を跨ぐくらいだからな」

「ヘモジやるか?」

「ナーナ」

 袖をまくってミョルニルを構えた。

「大門は駄目だろうから、側壁な」

「ナーナ」

「結界だけ取っ払ってやろうか?」

「ナー…… ナ」

 じゃあ、そうしよう。

 僕は魔力を溜め込んで衝撃波を放った。

 石橋前で防戦していた敵兵たちは吹き飛ばされて、浮島同士の隙間から雲海に投げ出された。

 浮き島同士を繋いでいる巨大な鎖が音を立てて震えた。

 間に架かった石橋に亀裂が入った。

 城壁の上で見下ろしていた敵兵も壁の向こう側に落ちた。

「今だ!」

「ナーァア…… ナァアア!」

 スーパーモードで金色に輝いたヘモジが崩れ掛けた石橋を駆け抜けた!

 そして振り下ろしたミョルニルが側壁を捉えた。

 ドガーンと粉砕された壁に巨大な円形の穴が空いた。

 その衝撃がとどめとなって石橋が雲海に落ちた。

「あ!」

 一同呆然。

 でも僕はすぐさま転移ゲートを向こう岸に繋いだ。

「言葉が出ないわね」

 ナタリーナさんがシモーナさんに囁いた。



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