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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(多重結界を越えるには)37

 ゲートで帰宅すると、家のなかは真っ暗だった。暖炉の残り火だけが灯っていた。

「明日はやること満載だ」

 急いで寝ないと明日、起きられなくなる。リオナを寝かしつけると僕は鍵の掛かった書庫に籠もった。

「複数の障壁を越える方法――」

 僕は自分の秘密のノートを参考に『異世界召喚物語』の該当箇所を棚から取りだした。

 そして欄外の落書きの記述と照らし合わせた。

 あった。

 メモの内容は今の僕が確認しても間違いなかった。

 しばらく分厚い本を読みふけり、当時の状況を確認すると僕は表紙を閉じた。

「使うのは――」

 やはり『結界』スキルだ!

 僕がこの謎に気付いたときにはさすがに笑ってしまった。

『異世界召喚物語』は読めば読むほど色々なことが見えてくる。ファンタジーのなかにも筆者のいた時代の世相や観念形態が色濃く反映されるものだ。増して著者は異世界からやって来たヤマダ・タロウに近しい人物なのだ、と思う。

 描写のなかでおやと思うようなスキルの使い方も、当時は意味があったりしたのだ。それは現代とは違う用法が当時、正しい用法として確立されていたということだ。混迷の時代。タロス襲撃に怯えていた時代…… 幾度も繰り広げられる死闘のなかで偶発的に編み出された貴重な代償だと思われる。


 方法は意外な程簡単だ。弾丸に『結界』を纏わせることで敵の『結界』とわざと干渉させるのである。当時は弓矢の鏃であったが。

 結界を張った者同士がぶつかり合えば当然、障壁同士がまず衝突する。つまり結界同士は相容れない。

 故に結界を張った弾丸が敵の結界内に飛び込めば当然排除されるわけだが、どこに排除されるのか? 表面でぶつかり合えば反射されるのは当たり前だが、多重結界の間にはまり込んだ異物はどうなるのか? 表か裏にしか、行き場がないわけだが……

 実は貫通してしまうのだ。

 最初に発見した者も驚いたことだろう。てっきり強制排除で跳ね返されるものだと誰でも思うだろう?

 でも実際は跳ね返そうにも自分の手前に展開する障壁の内側が邪魔をしてはね返せないのだ。そして何より障壁は内側から衝撃を与えられることを想定していないのだ。

 想定されていなければ当然、弾丸の方も反応の返しようがないわけで、水が低きに流れるが如く安易さで単純な結論に帰結するのである。

 つまり法則に則ったルートを突き進む方が楽だと判定されるのである。

 混雑していますが、正規のルートで速やかにお進みくださいということになるのだ。

 そして異物はことの善悪など意に介することもなく、結界の内側に放り出されるのである。

 結界同士の相互干渉なら兎も角、交差という事態がどうして起きたのか? 当時のハイエルフや勇者たちは何をしていたのやら……


 僕は秘密のノートを閉じて、目を瞑る。

『多重結界』の術式のどこに『結界』発動の一文を加えるか、まぶたの裏でシミュレートする。そして敵に命中したとき速やかにその結界が解除される仕組みを考える。壊れなければ鉛玉を撃ち込んだのと変らない結果になる。命中したときの衝撃で壊れる程度の威力で構わない気もするけれど。

 調整は明日するとして、僕は秘密のノートを仕舞ってその場を後にした。

 窓の外が白んでいた。

「あまり寝ている時間はなさそうだな」

 この世界の時計にも目覚まし機能が欲しいところである。



 翌日は騒々しくなった。

 空の色の件は寝坊した僕ではなく、リオナが皆に報告していた。

 皆に緊張が走る。本気モードに突入だ。

 装備の点検もいつに増して真剣である。

 ピノのチームもやる気になっていた。

「よーし、頑張って腹を減らすぞ!」

「オーッ!」

 そっちかよ!

「午前中だけ頑張ってくるからな、兄ちゃん!」

 威勢のいいことを言っているが、ピノたちは目下、火鼠で足踏状態である。魔法使いがレオだけというのが、つらいところだろう。が、先達たちは何かしら手段を見付けて通過してきた道だ。自力で頑張れ。

 一番簡単な答えは『眠り香』だが、教えずにおこう。

 朝食を済ませると全員重い荷物を背負った。パスカル君たちの背中には真新しい銃が煌めいている。

「あッ?」

 ヘモジの背中に…… 新品のボウガンが……

「ナナナ」

 新品は分かってるんだよ!

「アガタが造ってくれた。これで連射も簡単になった」

 オクタヴィアが自慢した。

 今まで足を使って弦を引いていたものをハンドル式のレバーで行なうように改造されていた。

 勝手にやってくれて構わないけど、おかしな方向に進化するなよ。

「ナーナーナ」

「ボルトが欲しい? ボルトなら」

「ナーナ」

「貫通する奴?」

 ミスリルの矢も作れというのか?

「すぐには無理。まだ検証段階だし」

「ナー」

 うなだれるヘモジ。

 これだけ銃があるのにいらんだろ?

「ヘモジも役に立ちたいのです」とリオナが囁く。

「いるだけで充分癒やしになってるから。後でな」

 ノルマをこなしに行かないといけないから、そのときにでも。

 付き添いのゼンキチ爺さんが到着すると次々ゲートに飛び込んでいった。



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