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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(カウントダウン)36

 構想は前からあった。ただ取り上げられてしまっていただけで。

「今後この町でも王都でもその手の武器は使えなくなるわよ」

 ヴァレンティーナ様が言った。

 元々町は防衛のため、外からの転移は制限されている。今後それが内側にも展開されることになる。ポータルは町の外だが、個人占有のゲートには干渉することになるので調整が必要だったわけだ。ゲート側でやるのか、障壁側でやるのかは知らないが。

 兎に角、ミスリル弾程度の魔力では干渉は排除できないだろうことは目に見えていた。

「さて」

 ダンディー親父が給仕を呼んだ。するといつもは出てこない葡萄酒が出てきた。

 リオナの前にもグラスが置かれた。

「なんです?」

「リオナは未成年なのです」

「そう言わずに付き合ってくれ」

「最初の分だけよ。後はジュースよ」

 急に落ち着き払った。

 ヴァレンティーナ様の笑顔に陰りが見えた。

「知らせが来た」

 リオナの目が見開かれた。

 僕も胸の奥が締め付けられるような気がした。

「夕刻、空の色が変わったそうだ。西方は緑色に、旧ファーレンは赤く染まったらしい。ほんの一時のことだったが、過去の記録や伝承と差異はなかったそうだ」

 前触れが来た!

「今日より七日の後、襲撃がある。これまでの調査通りならばな」

「七日という数字にほぼ狂いはないとわたしたちは見ているわ」

「少し早かったな」

 まだ二十日はあると思っていた。

 リオナの顔は見る見るしゅんとしぼんでいった。元気の象徴である耳も垂れ下がった。

「わしは前線に赴かねばならない。時間との競争だ」

「なッ! 自ら赴くんですか?」

「息子たちも娘も参加するのにわしが行かんでどうする」

「演習に参加してたのはそのせいですか……」

「勘を取り戻すには実戦が一番じゃからな。そんなわけで別行動になるお前たちとは戦が終わるまで会えなくなるのでな。そんな顔するな。わしとて今生の別れにするつもりはないからな。だから水杯ではなく酒だ。リオナには不味かろうが」

 僕はどうして強くなりたかったんだろう?

 落ち込むリオナの頭を撫でる父親の姿を見ながらふと考えた。

 ヴァレンティーナ様が僕の肩に手を置いた。

 出陣式はきっと賑やかなものになるだろう。でもそこに僕たちは参加できない。だからわざわざセッティングしてくれたのか。

「リオナはわしに何かあると思っておるのか?」

 リオナは首を振った。

「ならそんな顔をする理由がどこにある? いつもと変わらん。一足早い出陣式をしておるだけじゃ」

 リオナは元気を絞りだそうと必死だった。

「勝利と皆の無事な帰還を願って」

 ヴァレンティーナ様が状況を無視して盃を掲げた。

「わたしも前線に行くんだけど。お姉ちゃんの心配はなしなのね」

 リオナははっとなった。

「お姉ちゃんは死なないのです!」

「だったら父さんも死なないんじゃないの? わたしより強いんだから」

 実感がないのだ。リオナは父親が戦う姿を見たことがない。王宮に近寄ることが許されない身としては僕との一戦すら知らないのだ。

「僕よりうんと強いぞ」

 きょとんとしている。

 一緒に演習参加しておけばよかったんだ。今更遅いが。

「じゃあ、改めて」

 盃を掲げた。

「勝利に!」

「勝利に!」

 僕たちは盃を飲み干した。

 それからリオナはすっかり世話焼き娘に変身した。

 ダンディー親父も満更ではなく、僕とヴァレンティーナ様はふたりを遠巻きにしながら、近況の確認を行なった。

 ヴァレンティーナ様からは西方の態勢が整いつつあること、要塞の完成が遅れていること、ファーレン側の迷宮探索が最下層に到達したこと、今日の報告を機に周辺諸国からの増援が集結することなどが話題に上がった。

 僕からはゴーレムが無事実戦をこなしたことと呪われたエントの一件を報告した。姉さんから行ってるとは思うが。それとリオナが『疾風の剣』を手に入れたので『霞の剣』を返却する旨を伝えた。

 すると親父が「どれ見せてみろ」と言うので僕はわざわざ取りに帰る羽目になった。ゲートですぐだったけど。

「これは……」

 絶句していた。

 そりゃそうだ。国宝級が鍛冶師の手ではなく、魔物からドロップしたのだから。ソウル品などが存在するなどとは露とも思っていないのだから、なおさら奇跡の一品に思えただろう。

 親父が物欲しそうな顔をするが、そこはリオナも頑として断わった。ただ「今度拾ったら上げるのです」と安請け合いしていたが。

 その気になれば比較的、簡単に手に入る物だということがふたりにばれた。

 ダンディー親父は結構な時間を割いてくれた。深夜になってもふたりの娘と会話は尽きなかった。

 僕も母さんに会いに行った方がいいのかな? 心配してるに違いないから。姉さんは帰らないのだろうか?

 暖炉の火が優しい時間を灯していたが、悲しいかな時間切れである。

 お互いやることが残っているのだ。

 予定がずれ込んだ分、忙しくなる。みんなにも知らせなくてはならない。

 心の準備をしておくようにと。



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